第95話 ダビデの恋愛スキャンダル②
―「……これが“ダビデの失敗”です。王としての力を使って、弱い立場の人間を利用した。
これは歴史的に見ても……かなり重い罪。全く鬼畜としか言いようがない」
VR空間が静まり返った。
―「やがて、女は身ごもり、人をやってダビデに告げた。『わたしは子を宿しました』
ダビデはこの事実に狼狽し、動揺した」
ダビデ(黒須)―「え、マジで? ヤバいじゃん。夫の留守中に妊娠したなんて、俺が真っ先に疑われるじゃん」
―「黒須くん、……じゃなかった、ダビデよ。ここから第二の罪が始まるのです。ダビデは、この不祥事をなんとかバレないようにと、悪知恵を働かせました」
ダビデ(黒須)―「軍の司令官ヨアブに伝えてくれ。ウリヤ(バテシバの夫)をわたしの元に送り返すようにと」
―「そして、ウリヤが帰ってくると……」
ダビデ(黒須)―「いやぁ、ウリやくーん、ご苦労さん。軍の様子はだうだね。司令官ヨアブは真面目にやっとるかね。兵士は大変だろう。皆は無事かい?……そうか、そうか、ご苦労さん。それじゃ、特別休暇を君に与えよう。まずは家に帰って足の汚れを落とすがよい」
―「じつはこれは罠でした。ダビデが自分の罪をごまかすための策略だったのです。ウリヤを家に帰す。そして、妻のバテシバと一緒に寝れば、妊娠した子どもはいかにもウリヤの子のように見える。そうやって自分の罪を覆い隠そうとしたのです」
生徒たち。
「うわー、ダビデって、昔はとてもいい人だったのに……さいてー」
「芸能人でも、売れている人ってスキャンダル起こすからな―」
「でも、誤魔化し方がずるいよね。きたねーよな」
―「しかし、ウリヤはこのダビデの特別な計らいにもかかわらず、妻の待つ家には帰らず、王宮の入り口で主君の家臣と同じように眠りました。家にはダビデ王からの贈り物がたくさん届けられていましたが、それに目を留めることもなかったのです」
ダビデ(黒須)―「ええーー!? ウリやくーん! 君、家に帰らなかったのー? なんでー!」
ウリヤー「だって、戦場で今も戦っている同士たちのことを考えると、自分だけ家に帰って妻と寝るなんて……そんなことできません」
ダビデ(黒須)―「……わ、わかった。では、今日もここにとどまるがよい。明日、君を送り出すから」
―「ウリヤはその日と翌日と、エルサレムにいることにりました。ダビデは、ウリヤを呼び出し、食事を共にして彼を酔わせる作戦に出ました。酔わせて妻の元に行きたくなるように仕向けたのです。ですが、夕方になるとウリヤは退出し、家臣たちと共に眠り、家に帰ろうとはしませんでした。兵士としての心得がしっかりしてんだね」
ダビデ(黒須)―「くっそー!! なんで、あいつ、家に帰らないのー? このままだと俺の不倫がバレちゃうじゃん。こうなったら強硬手段とるしかないな……」
―「ダビデは、司令官ヨアブに手紙を書いてウリヤに託しました」
ダビデ(黒須)―「あ、この手紙、ヨアブに渡してくれる?」
ウリヤー「かしこまりました、王様」
―「ウリヤに託された手紙にはこう書いてありました。
『ウリヤを、戦いが熾烈な最前線に出してくれ。そんでもって、彼を残したまま退却して討ち死にさせろ』
ヨアブは、ダビデ王の手紙を読んで、町の様子を観察し、最も危険と思われる戦場にウリヤを出撃させました。そして、ウリヤは戦いで命を落としました」
生徒たち。
「酷ーい」
「最低―!」
「ただのスキャンダルじゃないじゃん。もう殺人だよ」
―「そして、司令官のヨアブはダビデに手紙を送りました。ダビデはウリヤの戦死の知らせを聞くと……」
ダビデ(黒須)―「よかったぁーー!! やっと死んでくれたか。他にも戦死者が出たようだが、それは気にするなとヨアブに伝えてくれ。ご苦労であった」
―「一番悲しんだのはバテシバです。愛する夫ウリヤの戦死の訃報を聞くと、呆然としてひざからガクッと崩れるように嘆き悲しみました。悲しみに暮れるバテシバ。ダビデが一目ぼれしたバテシバが未亡人となったとたん、ダビデは王宮に引き取ってすぐ自分の妻にしました。よーっぽど、好きだったのかね」
リアル黒須は念を押した。
「俺じゃないぞ。アバターがな。ダビデがな」
―「人の目は誤魔化せても、神の目は誤魔化せません。ダビデのしたことは神の目には悪とされました。不幸なことに、ダビデとバテシバの間に生まれた子どもは、神の怒りにより生まれてまもなく死んでしまうのです」
生徒たち。
「やっぱ、ダメだよね。十戒でダメって言われてることをやったんだもの」
「でもさ、旧約聖書の神って、もっと厳しい印象なんだけど、ダビデに甘くないか?」
「うん、ダビデの犯した罪の重さと、罰の重さが合わない」
ガブリエルは、生徒の意見を拾った。
―「うん、とてもいい気づきですねー。あのキレやすい神が、赤ん坊の命を消しただけで、あとは責めなかったんですよ。ダビデは激しく後悔しました。けれども、バテシバを見捨てることはしなかったんですね。すぐ次の子どもを作っちゃうんですよ。ほらね、やっぱり相当愛していたんでしょう。そして、次にバテシバとの間に生まれるのがソロモンです。イスラエル王国の次の王になる男の子です」
生徒たち。
「へぇー、そうなんだ。やっぱ、かみさまには計画があったのかな」
「よっぽど、ダビデがお気に入りだったのかな」
「バテシバの血が、イスラエル王国に必要だったのかもね」
―「うん、すごくいい質問ですね。実はね、結果的にソロモンの血筋はイエス・キリストにつながっていくんだよ。イエスの養父ヨセフは、遡ればソロモン王の血筋なんですよ」
生徒たち。
「あ、なるほどー」
「すごいね、ダビデって。超重要人物じゃん」
「そんな重要人物なのに、こんな王国最大の汚点を残しちゃって、それを史実として書いて残す? どういう意味なんだろう」
―「最後に、わたしの個人的な考えを述べますね。聖書に書いてある物語はどれも、人間のどうしようもない弱さが書かれているのです。たとえば、このサムエル記。これは何のためらいもなく、この偉大な王ダビデの汚点となるこのスキャンダルを赤裸々に記録していますね」
黒須「あまり長くならないようにな……」
―「誘惑に負ける人間のもろさとか、弱さとかをさらけ出すことで、わたしたちに警告を与えているんじゃないでしょうか。この罪を犯したダビデを非難することは簡単です。でも、わたしたちにも同じ罪を犯さないとは限りません。それだけ、心に留めてください」
生徒たちは、静かに頷いた。
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ルカはガブリエルの解説でもう涙目になっていた。
「黒須先生……あんたが王だったら、こんなこと……絶対しないわよね……?」
「するかよ……ってか。最後にちゃんと責任取ったろ」
ルカの瞳から涙が一粒こぼれた。
「……っ………」
「あ……泣かせた……」
教頭先生は、それを見落とさなかった。
「黒須先生の優しさ+ダビデの教訓で泣くルカ先生……尊い……」
ガブリエルが解説を終えて椅子に座ると、代わってウリエルが出て来た。
ウリエルはVR上に姿を現して、静かに言った。
「……でも、ダビデはこの罪を一生後悔し、二度と同じ過ちを犯しませんでした。
彼の息子ソロモンは……それも含めて“王の責任”を学んだのです」
黒須も何かを学んだように、腕を組んだ。
「……俺もだよ。力ある側の行動は、いつだって誰かの人生に響く。だから教師って立場も……気をつけなきゃな」
ルカは、黒須の横顔を見て、ギャップ萌えした。
「……そういうところが……嫌いになれない……」
黒須が小声で注意した。
「聞こえてるぞ?」
「聞こえるように言ったの!!!」
生徒たち
「デレたーーー!!!」
「VR史上最大の事件、収束!!」
教頭
「素晴らしい授業でしたわ!!歴史理解も恋愛理解も深まりました!!」
黒須&ルカ
「「恋愛理解はいらないです!!」」
ルシファーは、立ち上がって手を挙げた。
「私は異議ありだ……!!!」
ウリエルとガブリエルは、そんなルシファーを見て肩をすくめた。
「ガブリエルさま、ありがとうございました。ルカ先輩、黒須先生! じゃあ、次回は、“ソロモン王とイスラエル王国分裂”に続きますねー。お楽しみに―!」
「「まだ続くのかよ!!」」




