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ハルマゲドン始まったってよ ~堕天使教師とマッチングしたのは天使エージェントだった~  作者: 白神ブナ
第三章 VR旧約聖書

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第94話 ダビデの恋愛スキャンダル①

 ここは放課後の社会科準備室。

すでに不安な先生たちが、会議で揉めていた。

理由は、次のVR授業の内容が、旧約史上最大の “恋愛スキャンダル” バテシバ事件だからだ。


黒須は机を指で神経質に叩き、怒鳴っていた。


「おいウリエル、この事件ほんとにVRでやる必要あるか?」


「旧約聖書の歴史的分岐点ですし、この末裔がイエスキリストに繋がるという事実。これは無視できません。アンケートでもここは断トツ1位なんで、避けては通れないっすねー」



清純無垢なイメージで通してきたルカが吠えた。


「ちょっとウリエル!?!? なんでわたしが人妻なのか、もう一度説明しなさい!!!!」


「はい、何度でも。AIが“黒須先輩との親和性”を判定した結果です。さて、ここでいちいちクレーム対応している暇はないっすよ。黒須先生とルカ先輩が主役ということは、解説は、他の先生にした方がいいと思うんですが。誰にしましょうか」


ウリエルの主張は一理ある。

黒須は、授業進行に相応しいのは誰か、社会科準備室にいるメンバー一同を見回した。

ルカも同じように解説を頼んだらいいのか、一緒に見まわして、ポンと手を叩いた。


「あ、ルシファー先生! サウル王はもう死んじゃいましたよね。解説できるんじゃないですか?」


「わたし?……ダメだ。このシーンは文科省として推奨できない」


「そうだよ、ルカ。ルシファーはダメダメ。たぶん、もっとスキャンダラスな方向に解説する」


「よくわかったな、黒須」


ウリエルも黒須の意見に賛成した。


「ルシファーさんの嫉妬パワーが上がると、バグるんでやめてもらっていいっすか」


「わたしが嫉妬?……バカなッ! するわけないじゃないか」


「いや、信用できない」


「じゃあ、またミカエル上官に頼みます? 先輩」


ルカは、眉間に指をあてて悩んだ。


「ミカエル上官は、前回のヨナタン・イメージが非常に強い。出来れば、まだアバターになってない天使がいればいいんだけど。まさか、悪魔には頼めないでしょ?」


ウリエルは、ハッとしてルカを見た。


「いました。まだアバター化していない天使……大天使ガブリエル」


黒須とルシファーは、条件反射でとっさに部屋から逃げようとした。

黒須が叫んだ。


「あいつか! でも誰があいつに頼むんだ?」


一瞬、逃げようとしたルシファーが、顔だけ振り向くとそーっと手を挙げた。


「すみませーん。あのぅ、裏ルートあるけど。しかも、直通の」


ルカは、ゆっくりと頷いた。


「そうだったわ。なるほど。以前、わたしを告発したのもそのルートだった。じゃ、ルシファー、さっそくガブリエルさまにお願いしてくれる? そのお得意の裏ルートで。もちろん、やってくれるわよね。断ったらどうなるか、……わかってるわよね?」


ルカはルシファーを睨み、脅迫した。


「ルカちゃーん、怖ーい、カッコイイ―。君の命令なら何でも聞くよー。これが成功したら、デートしてくれるー?」


「しないわ。ボケ!」


「ううう……、胸が痛気持ちいいよーーーー」


機嫌悪く声を荒げながら、黒須はルシファーの首をつかんだ。


「おい、ルカに罵られて気持ちよくなってんじゃねぇ! この変態。授業内容の文章は俺が書くからと、ガブリエルに伝えろ」


「なんだよ、黒須。いいじゃんか。お前もルカちゃんに罵られたいの?」


ルカとウリエルは、このクズな堕天使たちの喧嘩に呆れてしまった。


「ボク、大人になったら、ああはなりたくないな」


「ならないわよ、ウリエル。あんた天使でしょ。奴らは堕天使だから、もうとっくに堕ちてるほう」



 数日後、いよいよアンケート結果、人気ナンバーワンの、バテシバ事件の授業の日が来た。

天界的にはアウト寸前だが、

黒須のVR授業的には、おそらく“神回”確定だろう。

生徒たちは、始まる前から楽しみでしょうがない。


「ダビデが黒須先生なら、人妻は誰が……」

「え? ルカ先生しかいなくね?」

「親和性www」

「完全に夫婦役www」


ルシファーは教室のうしろで脚を組んでいた。

生徒たちの会話に眉間がピクッと動いた。

ルシファーの隣の席は、もうすっかり教頭先生の指定席になっている。


「いよいよですわぁ〜〜〜!!! 黒須先生とルカ先生の濃厚ドラマ!!!」


黒須&ルカ

「「(同時)お静かに!!!!」」


と、教室のドアは開いていないのに、どこからともなく白い煙とともにガブリエルが降臨した。


「やあ、はじめまして。青葉学院高等部の諸君。今日は特別に天界……いや、聖書時代に詳しい専門家、わたしガブリエルが解説します」


生徒たちと教頭は、まるでイリュージョンのように登場したガブリエルを見て、ポカーンと口を開けていた。


「なに? イリュージョン・マジックか?」

「やだ、なんだか、この人もホストっぽい」

「このあいだのミカエルさんみたいな人かな」


「ああ、そうでーす。ミカエルとは同僚です。じゃ、さっそく行くか。ダビデの話だね。

……サウル王が亡くなったあと、ダビデは全イスラエルを統治する王となりました。ダビデはエルサレムを首都とし、モーセの契約の箱を安置しました」


ガブリエルは、地図を画面に出して、イスラエル王国があった場所を示した。


「ちょっと地図で見てみよう。ダビデが王になってから、イスラエル王国は、ユーフラテスからエジプトの間を支配する国になるんだよ。イスラエル王国絶頂の時代を迎えることになるのです。それは、主がダビデと共にあり、主がこの王国を祝福されているからです」


黒須は小声で注意した。


「あまり宗教っぽい言い方はしないでくれ。後半のそれ、アドリブだろ」


しかし、ガブリエルは黒須の注意を無視して続けた。


「しかし、その絶頂の時こそ、身を慎むことが大切なんだ。人の心におごりを生み、悪魔に隙を与えることになる危険、それは絶頂の時にあることを、わたしたちは次の瞬間に知ることになる」


黒須はぼそっと文句を言った。


「悪魔に隙だと? いやな言い方するな」


****


 VR空間が切り替わった。

エルサレムにつくられた豪華な宮殿。

その屋上で、ダビデ(黒須アバター)が夜風にあたっていた。


本物の黒須は、このVR授業の流れにどきどきしていた。

(……うわ……これ、歴史上“最もやっちゃいけない夜”だよ……。教師がこんなことしていいのか)


ガブリエルは、粛々と聖書に書いてある通りに解説した。


―「ふと気がつくと、宮殿の向こうに白い裸体が見えた。ここでダビデ王は、沐浴中の人妻バテシバを見てしまった」


ダビデ(黒須)―「おぉ、あれは・・・なんという美しい女だ」


ルカのアバターが、月光に照らされて水を浴びている姿が映った。


ルカ(現実)「ぎゃああああああ!!!! なんでよ!!! ウリエルのバカ! 何やってんのよぉー!!!!」


「ルカ先輩、安心してください。規制モードで輪郭しか映りません(嘘ばっか)」


生徒たち。


「逆に想像力が刺激されてやばい……!」

「バテシバ=ルカさんって最高……」

「やっぱ、ルカ先生だった。あ、もっとちょっと輪郭をはっきりと……」

「バカ! 黒須先生がクビになるわよ」


ルカ「やめて!!! 訴えるわよ!!!!! これは集団セクハラよ!」」


黒須「……なんで俺まで一緒に恥ずかしいんだよ……」


ルカは小声で脅した。


「……黒須先生……見てないでしょうね……?」


「見るなってほうが無理だろ。ってか、なんだか! 脅されて! 嬉しい―――」


「殺すわよ!!!!」


「いいなー。もっと言って。いつ? いつ殺す?」


―「現実の先生たちが騒がしいようですが、現実の雑音は聞かないように……。

解説を続けます。そこでは軍人ウリヤの妻バテシバが水浴をしていたのです。要するに人妻です。一目惚れしたダビデ王は女の素性を従者に探らせ、従者は知らせを持ってきました。」


「あれは、バテシバという名で、軍人ウリヤの妻です」


―「ダビデは使いの者をやって、バテシバを呼び出しました」


リアル黒須は動揺を隠せない。


「……おい。ほんとにやるのかこれ……やめないか?」


―「史実ですので。……ダビデ王は使者を送った」


バテシバ=ルカアバターは、王宮に連れてこられた。


ルカ(現実)「いやああああああああああ!!!!! やめてぇぇぇぇぇぇぇ!!!」


黒須「これ、教育委員会にバレたら俺クビだろ……」


教頭「大丈夫ですとも! これは教育ですわ!!!」


黒須「教頭先生の教育感どうなってんだよ!!!」


―「ダビデは『夫への貞節をとるか、王への服従をとるか』と、鬼畜な詰め寄り方をし、夜を共にしてしまった……」


VRが半強制的に黒須とルカのアバターを近づけた。


黒須「おいウリエルこれ仕様か!? なんで物理的に近づくんだ!!」


ウリエル「“当時の情景をより忠実に再現”とAIが判断しました」


黒須「余計な忠実さだ!!」


ルカ「やっ……ちょっと……近い……や……やだ……近づかないで……!」


黒須「俺も近づきたくねぇよ!!! しょうがないんだよ(大嘘)」


ルカ(真っ赤)「うそつけぇぇぇぇぇ!!!! 目が喜んでいる。」


生徒たち。


「今日のルカ先生、照れすぎて死ぬんじゃ……」

「黒須先生も照れ隠し下手になってる……、あれ喜んでるよね」


現実のルシファーが、急に立ち上がった。


「…………このシーンは中止だ! 天界倫理規定に反するっ!!」


だが、教頭がまんざらでもない声を出す。


「いやん。ホホホ、嫉妬ですわねぇ〜!」


「違いますよ、教頭先生!!!!」


ガブリエルがため息をついた。


―「授業の妨げだ、ルシファー。落ち着け、これはVR授業……塗れ場は無い」


「当たり前だ。そんなものあってタマルカン砂漠! 授業にならん! 堕天使と天使が密会する授業がどこにある!!!!」


黒須まで騒ぎだした。


「いや俺が悪いわけじゃねえだろ!!! 歴史だろこれ!! アバターを使うからそんな風に見えるだけで」


ガブリエルは、ルシファーの態度を見て悟った。


―「ははん、さては……ルシファー?……もしかしてお前、ルカの事……そんなに……?」


「知らん! 黙秘する!!!」


生徒たち。


「昼ドラみたいになってきたwwwww」

「いや〜、おもしろい」

「あんなに純情でまっすぐだったダビデが・・・ひどいことすんなぁ」

「あ、そうだった。授業だったわ。これ」


ガブリエルは、VRの中でそっとルカアバターから目をそらした。


―「ダビデの第一の罪。それは、欲情に委ねて王の力を利用し、彼女を思うがままにしてしまったことにあります。バトシバがそれをどう考えたかは何も語られていません。バトシバは、この後、家に帰されました。けれども、これで事件は終わらなかったのです」


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