第92話 ダビデとヨナタン・男の友情かBLか①
今日の授業は、黒須の解説から始まった。
―「実はな、旧約聖書を読んでみると、今日の話は珍しく『友情』について書かれてある。
ダビデと友情を深めたのは、ヨナタンというサウル王の長男だ。ダビデがルーキーなら、ヨナタンは王子。
で、このヨナタンって子がめっちゃいい青年なんだよ。次期国王になる王子という血統がいいっていう話じゃないぞ。
実は、ヨナタンは知っていたんだ。
ダビデが預言者サムエルに油を注がれた者だということを。
つまり、神が次期王に選んだのはダニエルだということを知っていた。
ダビデは、次の王、ヨナタン王子の即位を脅かす敵みたいな存在だ。普通だったら、邪魔者は殺す!ってなるだろ。
ところが、ヨナタンは、ゴリアテとの戦いを見て、ダビデが大好きになってしまった。
戦士としても男としても。機動戦士〇ンダムがマイ推しになったみたいにな」
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光が一斉に弾け、風が渦巻いた。
草原と陣営。
兵士たちの怒号。
戦場の緊迫。
そこへ……
サウル王―「これ以上、ペリシテ人に好き勝手はさせん……!」
生徒たちはもうサウル王のルシファーに魅了されてしまっている。
「ルシファーさん、素敵すぎる……。似合いすぎぃ!!」
「威圧感すごい!」
「いやん、殺して―」
「よせ! マジで殺されるぞ」
風が静かに吹き、
サウル王の隣にやって来たのは……息子のヨナタン、を演じているミカエルのアバターだった。
ヨナタン役のミカエルアバターは、ゆっくりと歩み寄った。
―「父上、落ち着いてください」
それを見た瞬間、生徒たちが息を呑んだ。
「やばっ! ルシファー先生の横に、ミカエルさんが並んだ」
「え? 教室が、高級ホストクラブになっとる?」
「いやん、イケメンの神回だわ」
「ミカエルさん……!!」
「王子役……似合いすぎ……!」
黒須は小声でつぶやいた。
「……ミカエル、普通に王子に見えるわ。ムカつくくらい」
ミカエル(現実)は腕組みをして、上から目線で言った。
「黒須、今頃気づいたか。当たり前だ。わたしは大天使だからな」
ルカも思わず見惚れて、口走った。
「(小声)……素敵……」
黒須は、ルカをギラリと睨みつけた。
「なんか言ったか?」
「……べつに」
場面は変わって、ダビデが竪琴の練習をしていると、ヨナタンが近づいてきた。
なぜか空気がシーンと澄みきっている夜だった。
背景の音すら消えた感じに、生徒たちは息をひそめて授業に夢中になっていた。
ヨナタン(ミカエルアバター)―「君が……ゴリアテを倒した……ダビデかい?」
ダビデ(黒須)―「えっと……まぁ、そうだけど……。ひょっとして、ヨナタン王子さまですか?」
ヨナタン(ミカエル)―「ああ、そうだよ。よろしく。……僕は、君の勇気に心を打たれた」
ダビデ(黒須)―「……えっと? あーざす」
ヨナタン(ミカエル)―「僕も君くらい勇気がある人間になりたい。竪琴は得意なの? 今度教えてくれる?」
ダビデ(黒須)―「いいっすよー。いつもサウル王様の寝室で弾いているので、よかったら、ご一緒にどうですか?」
ヨナタン(ミカエル)―「え? いつも父上の寝室で……夜ごと……? そうことか……じゃあ、今夜は、……ぜひ僕の寝室に弾きにきてくれないか? 父上には、僕から予定変更を伝えておくから」
ダビデ(黒須)―「うん、いいよ。じゃ……。なんかさ、俺たち友達みたいだね。へへへ? いいの? 俺なんかと一緒で 王子様」
ヨナタン(ミカエル)―「僕たち、友達だよ。だから、王子って呼ぶなよ。ヨナタンと呼んで」
ダビデ(黒須)―「ヨナタン?」
ヨナタン(ミカエル)―「ダビデ……」
現実の黒須が混乱した。
「おい、それどういう意味だ。ミカエル!」
「深読みするな。史実通りに進めろ、教師だろ」
黒須は、深呼吸をして、落ち着いてから、聖書の一節を紹介した。
―「聖書に書いてある。『ヨナタンは自分と同じほどにダビデを愛した』
これは、なんて言うか、まぁ、無償の愛に近い、最高レベルの友情だ。
ヨナタンは、王位がどうだとか関係なく、ひたすらダビデを愛したんだね。
最高の一目ぼれじゃないかな」
一部の女子生徒が囁いた。
「BLよ、BL」
「こういうのが授業で見られるなんて、最高ですわ」
「大丈夫よ、教頭先生も夢中になってらっしゃるもの」
「よかったわ、教頭先生も腐女子で」
黒須の解説。
―「だが、どんどん戦いで功績をあげるダビデに、サウル王は嫉妬した」
サウル王―「ねえねえ、わたしの娘を妻にしてあげるから、わたしの戦士となって、戦場の最前線で戦ってくれないかね。ダビデ」
―「サウルの腹の中はこうだ。『わたしは自ら手を下すことなく、ダビデを最前線に送ってペリシテ人の手によってダビデを戦士させちゃおう』と考えていた」
ダビデ(黒須)―「サウル様、そんな簡単なことじゃありませんよ。俺みたいな貧しく身分の低い者が、王の婿になるなんて。無理、無理。お嫁さん貰うってことは、結納金も結構要るでしょ?」(現実的)
サウル王―「いやいや、結納金が欲しいって話じゃない。わたしはペリシテ人に復讐したいだけなんだ」(嘘ばっか)
ダビデ(黒須)―「ふぅん……それなら……いっかな」
―「すると、ダビデは幾日もたたないうちに、自分の部下を従えて出て行き、二百人のペリシテ人を打倒して帰って来た。それで、サウルは娘のミカル姫をダビデに妻として与えた。サウルは、神がダビデと共におられることと、娘のミカルがダビデを愛していることを思い知らされた。こうして、サウルはますますダビデが恐ろしくなった。あんなに可愛がって愛していたのに、生涯の敵となってしまった。可愛さ余って憎さ百倍」
生徒たち。
「BL違うじゃん。ダビデは結婚するんじゃん」
「それはそれ、これはこれ」
「昔ってこんなもんよ。きっと。しらんけど」
―「まあ、そこはあまりツッコむな。昔、同性愛が認められていなかったころ、聖書のダビデとヨナタンの話は、一部に人たちには、一つの希望をもたらしたかもしれない。そう考えると捉え方が違って見える」
ミカエルは、その意見に異論は唱えなかった。
「黒須先生は優しいね。惹かれる気持ちがわかるよ。なあ、ルカ」
「ちょっと、やめてくださいよ。マジで黒須先生に手を出さないでくださいね」
黒須は解説を続けた。
―「その後、ダビデは戦いのたびに、誰よりも武勲を立てて、大いに名声を博した。そして、そのたびにサウル王の嫉妬を買い、命を狙われることになるんだ」
サウル王 ―「あのやろーーー! ダビデは、人気に乗じて王位を奪おうとしておるのではないか? なんという恩知らず! みなのもの、ダビデの命を奪えー!」
錯乱状態のサウル王を、家臣たちは必死で止めたが無理だった。
それは、王子であるヨナタンにも命じられた。
そこで、こっそりとヨナタンはダビデに会いに行った。
ヨナタン(ミカエル)―「ダビデ、ダビデ、驚かないでね。僕たち、もう会えなくなるかもしれない……、とにかく、君は逃げたほうがいい」
ヨナタンは忠告した。
しかし、ダビデは信じられない。
ダビデ(黒須)―「ねえ、ヨナタン。本当にサウル王は僕の命を狙っているの? 信じられないよ。もう許される可能性はないのかい? もう一度、サウル王に聞いてくれないかな? ね、お願い、サウル王の心を探ってきて」
ヨナタン(ミカエル)―「うん、わかった。ぼくがお父上の心を探ってくるよ。もし危険が迫っているとわかったら、もう会うのは危険だから、何か合図を決めておこう」
ダビデ(黒須)―「わかった。ヨナタン、ありがとう。でも、……。その合図って、もう会えなくなるってこと? そう言う意味なの? やだよ、ヨナタン!!」
ヨナタン(ミカエル)―「……僕だって嫌だ。もう会えなくなるかもしれないなんて……。でも、君が死んでしまうのはもっと嫌だ。僕は……君を愛したことを……誇りに思っているよ。僕は君と会えて、本当に幸せだったよ」
生徒たちが号泣した。
「うわああああ!!!」
「かっこよすぎ!!!」
「ミカエルさんの王子ムーブ……尊い……!!」
ルカまで感極まって涙目になっている。
「ミカエル上官……。エモすぎ」
ヨナタン(ミカエル)―「たとえ、我が父サウルが君に嫉妬しようとも……僕の愛は変わらない」
思わずリアルな黒須まで涙声になった。
黒須(現実)「……ミカエル……お前……」
ミカエル(現実)「ちゃう!……台詞だと言っているだろう。なぜわたしを見る。わきまえろ」
黒須(現実)「いや……なんか照れるわ」
ルカが鋭いツッコミを入れた。
「黒須先生、顔が赤いですけど……!」
生徒たちまではやし立てる。
「黒須先生照れてるww」
「ヨナタン=ミカエルの破壊力すご!」
黒須は咳払いをしてから、解説を続けた。
―「とにかく、ヨナタンは父サウル王の元へ行ってサウル王を説得することにした」
「それで?」
「それで、どうなったの?」
「ええーっと、気になる人―! 作品フォローお願いしまーす!」




