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ハルマゲドン始まったってよ ~堕天使教師とマッチングしたのは天使エージェントだった~  作者: 白神ブナ
第三章 VR旧約聖書

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第84話 校長とルシファーのVR授業参観

 校長は、ルカの様子をじっと見ていた。


「ほうぅ~~~。ルカ先生は、黒須先生のことを……。ううむ、若いっていいなぁ!」


校長は胸の前で手を組んでうっとり見つめていた。


「これですよこれ! 若い女性が恋に落ちる瞬間というのは、いつ見てもときめきますなぁ。仕事と恋の板挟み……素晴らしい教育素材とは思いませんか? はっはっは……」


ルシファーはずっと不機嫌だった。


「…………わたしより、邪悪な理由だ」


VR画面の中で、ルカが赤面しながら、黒須を叱りつけているシーンが流れ続ける。

ルシファーは、じっと二人を見つめたまま、眉がピクリと動いた。


校長は、ルシファーの顏を見て声をかけた。


「おやおや、ルシファー先生? どうなさいました? 浮かない顔をして」


「……別に何も。ただ、あの天使は……、あの新人教師は、あれほど人間(元天使の堕天使まで含む)に情緒を乱すタイプではなかったはずです」


「何を言っているのかわからんが……、とにかく、恋は人を変えるから!」


「恋ではありません」


「ほう……、では、何だと?」


「……あれは、職務上の軽率です」


(ルシファーの心の声:……なんだ、ルカの顏。あんな顔、わたしに向けたことは……)


「おやおやぁ~~~。君、まさか……嫉妬かね?」


「嫉妬? わたしが? このわたしがっ?」


ルシファーの声が裏返った。


「ルシファー先生、顔が……ちょっと、こわ……」


「……冷静そのものですが」


「眉間にしわが寄っておりますが……」


「これは地獄仕様です」


「くくく。おやおや、君はいつも黒須先生のことを『能力のムダ使いの堕天使』って言いますけど……」


校長はモニターを見て、にやりと微笑んだ。


「本当は気になっているんでしょうね? なにしろ“元部下”ですからねぇ」


校長は、天界の事情も地獄の事情も把握している不思議な人だった。

黒須がルシファーの元部下という情報も知っていた。


「何故、それを……………気になどしていません」


「天使でしたらもっと素直におっしゃいなさい」


「私は天使ではありません。堕天使です。それと……」


ルシファーの声に、ほんの少し“刺”が混ざった。


「……あの天使が、あんな男に心を寄せるとは。想定外です」


「ふふふ、面白いね君は。とある組織から君がうちの学校に来ると知って、本当に楽しみにしていたんだ。期待通りだよ、ルシファー先生。独占欲というものは、職種に関係ありませんね」


「……独占などしていません」


しかし、画面の中で、黒須がルカの頭を軽く撫でようと手を伸ばすと……、


ルシファーのこめかみがピクッと動いた。


「ほらね。今ので、“わしの勝ち”ですな」


「………………」


そのまま画面を凝視しながら、ルシファーは静かに呟いた。


「……あの男は、フリーランスのくせに……人の心を乱しすぎです」


校長は、いつもの笑顔で応えた。


「おやおや、珍しい。君が誰かに“乱されてる”のを見る日が来るとはな」


「…………黙秘します」


そう言って、校長の誘導尋問からルシファーは逃れると、黒須に近づいた。


「いや〜、黒須先生! これは教育効果高いねぇ。宗教心が深まりそうだ」


黒須は、そんな言葉で機嫌良くなったりしない。


「なんだよ。……教育委員会的には危険思想扱いされるぞ」


「わたしは“自由研究”だと言い張るつもりさ」


ルカがため息をついた、


「あんた、ほんと自由ね」


ルシファーは、ルカに構ってもらえて心が震えた。


「君の冷たい目線で、わたしの心は凍えそうだよ♡」


「じゃあ凍れば?」


「それいいな。ルシファー、海の中に立ってろ。体験型指導だ」


「ルカちゃんが言うなら、わたしはそうする。命令だよね、ルカちゃんの命令なら逆らえない。わかった、潜入教育だね!」


****


ザバァァァ……ン。

本当に入った。


波にのまれながら、ルシファーは笑顔でルカに手を振っている。


女生徒のマリが、それに気が付いて、ルカにルシファーのことを教えてあげた。


「あの人、偉い先生だっけ? ルカ先生に手を振っていますが……」


「ああ、気にしないで、害はないから」


「……やっぱり、あの人、溺れてません?」


「多分、演技」



黒須の声が、再び授業に戻った。


「じゃ、まとめるぞー。奇跡……それは“起きること”ではなく、“起こそうとするもの”だ。

 モーセが海を割ったのではない。大勢の人々の意識が、“希望を選んだ”から道が開けたんだ。大事なことだから、もう一度言う。奇跡は起こすものだ」


水の壁が輝いていた。

イスラエルの民が駆け抜け、海の向こうへ渡っていく。

黒須のナレーションが静かに流れた。


「……これで、イスラエルの奴隷たちは本当に自由になったんだな」


その言葉と同時に、朝日が海面に差し込んだ。

海は、もう静かだった。

ただ、黄金色に輝く水面が、あの奇跡が確かにあったことだけを物語っていた。


光がフェードアウトしていく。

海が閉じ、画面が暗転。


****


 次の瞬間、ルシファーがずぶ濡れで現れた。


「……いや〜、潮風の再現度100点。死ぬかと思った」


「お前死なないだろ」


「死ぬさ。肉体は借り物だから、体は滅びる。堕天使体質の “臨場感”調査をしてたんだ。仕事だよ」


ルカが横からバスタオルを差し出した。


「あなたの場合、“浸水感”でしょ」


「ルカちゃーん、ありがとうー! 海水がこんなにリアルだと思わなかったよー」


「お前、ルカに近づくな。ルカもタオルなんか出さなくていいから!」


ウリエルは、黒須にサーバーの危機を知らせた。


「あのー、海の塩分でサーバーが壊れかけっす! 黒須先生、今はジェラシー禁物です。サーバーに余計な負荷をかけないでくださーい」


「ざけんなよ。海水をリアルにしすぎたのは、君だろ」


教室は、どっと笑いの渦に包まれた。


黒須は黒板にチョークを走らせる。


『奇跡=起こすもの』


そして、静かに言った。


「次回、もうちょいモーセは続く。そこから先は、実際の世界史と旧約聖書はリンクしてくるからなー。もう神話じゃなくなるぞ」


チャイムが鳴り、ルカはノートを閉じながら、ちらりと黒須を見た。


(……黒須先生って、神の奇跡よりずっと、不思議な存在だわ)


ルシファーがこっそり隣でささやいた。


「ねえ、ルカちゃん。“教育”って、やっぱり恋だと思わないかい?」


「思わない。その理論で文科省に報告書出したら、あんたクビになるわよ。」


「あーん、君が教師なら、喜んで堕ちるけどね」


黒須が鋭い琥珀色の目で睨んだ。


「おまえはもう、とっくに堕ちてるだろ」


すると、校長先生がルシファーの襟元をつかんで、教室から引きずり出した。


「お邪魔したね、黒須君。邪魔者は消えるから、あとは仲良くやってくれ。楽しかったよ、ありがとう」


生徒たちの爆笑の中で、今日の授業は幕を閉じた。


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