第83話 ルカの気持ちダダ洩れの神回
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VRの黒須が海の上空からモーセたちを見下ろしていた時。
その瞬間……、
突然、視界にノイズが走った。
ウリエルの悲鳴が聞こえる。
「や、やばい……! 本物の記録データに接続されたまま……!」
「おい!! ウリエル。またか!? またそれか!!」
次の瞬間、現代の教室からの声が “同時再生” されて聞こえてきた。
生徒たちはザワザワとおしゃべりしていた。
「すご……海、本当に割れてる……」
「黒須先生、これ本物なんですか?」
「黒須先生って、当時いたんですか?」
「本物記録データって、なんすかぁー?」
黒須は咳払いした。
「いた、とは言ってねぇよ!!」
……しかし、否定してもこの映像では、まるで説得力ゼロだった。
ルカは、VRの黒須と本物の黒須の見分けがつかない。
「……ちょっと待ちなさいよ、黒須先生。あんた、こんな危ないところで何やってんのよ」
声のトーンは、いつも通り強気。
でも、その裏にあるのは、焦りと心配だった。
現代の黒須は頭を掻きながら、言い訳した。
「えへへへへ……、いや、あの時は……仕事で……」
「“仕事で”? 仕事で、こんな案件引き受けるなんてどういうつもり? 海の上を気楽に飛ぶ仕事じゃないでしょ! いくら堕天使でも、命がけの現場に単独で突っ込む!? 馬鹿なの!?」
黒須は、ルカに罵られるのは好きだが、生徒たちの手前、さすがに喜んでばかりいられない。
「君、天使だろ? もっと優しく言えないのか?」
「優しくしてほしいなら、もっと大事に扱いなさいよ、自分の命を!! あんたが命の書から消えたら、わたしも消えるからね!」
最後の一言だけ、声が震えていた。
「……ルカ?」
「な、なによ。心配なんかしてないからね。勘違いしないでよ。ただ、あんたが勝手に死んだら……。そう、……任務報告書を書くのが面倒なだけだからっ!」
これは明らかに嘘だ。
その嘘の付き方があまりに不器用すぎて、生徒たちがざわつき始めた。
生徒たちは、VRと現代の歪みで生じた事故を喜んで見ていた。
「え、ルカ先生って、黒須先生のことを……」
「ツンデレだ……!」
「ギャップ萌え天使だ……!」
ルカは生徒たちを叱った。
「うるっさい!! 黙れ!! これ以上騒いだ生徒は、反省文とレポート提出ね!!」
ルカは、耳まで真っ赤になっていた。
一番の問題児、黒須は、授業中にに自分にでツッコミを入れていた。
(俺は天使にも悪魔にも慣れすぎて、こういう時どう反応すればいいのかわからない。
……なんだよ。そんな顔で心配されると、俺のほうが弱くなるだろうが……)
だが、口に出た言葉で、ルカをからかってしまった。
「ま、俺のこと好きなんだろ」
「はぁ!? し、ししし……しばくわよ!!!」
ルカが、怒ってる。
めちゃくちゃ怒ってる。
でもその怒りは……、黒須の命が心配で震えている怒りだ。
ウリエルは、小声でルカに忠告した。
「……ルカ先輩、動揺で羽ばたきのリズム乱れてますよ。いまは、翼をしまっておいてください」
「うるさい!! 見ないで!!」
生徒たちは、ルカの様子に注目した。
「かわいい……」
「ツンデレ天使が黒須先生にデレた……!」
ところで、お忘れでないだろうか。
VRの映像はまだ続いている。
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水の壁が崩れ、
エジプト兵が飲まれる瞬間……、ルカはそっと呟いた。
「……黒須先生。あんた、こんな地獄みたいな場面を見てきたのに……まだ人間守ってんの?」
「……さぁな。俺が守りてぇと思ったから、やってるだけだ」
「……馬鹿。本当に、どうしようもなく優しい……。そういうバカは……嫌い……じゃないわよ」
小さく、小さく。
本人以外には聞こえないくらいの本音だった。
だが、……VRは拾った。
教室全体にその音声が流れたのだ。
生徒たちは歓声を上げた。
「ヒュー―――!」
「!?!?!? ルカ先生が黒須先生のこと“嫌いじゃない”って言ったー!!!」
「録音しよ!」
「神回!!」
ルカは慌てた。
「きやああああああああああああああ!!!! ウリエル!! 全部消しなさい!! 今すぐ!!」
ウリエルは両手を挙げて降参した。
「む、無理です先輩……!! 天界データと同期してしまって……!!」
「いやぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
黒須は深いため息をついた。
「……フリーランスってのはよ、過去の案件まで暴かれて大変だな」
でも、心のどこかで少しだけ嬉しかった。
あのツンデレ天使に、心配されていたという事実が……
心の奥にじんわりと温かく残った。




