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ハルマゲドン始まったってよ ~堕天使教師とマッチングしたのは天使エージェントだった~  作者: 白神ブナ
第三章 VR旧約聖書

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第73話 バベルの塔・寝たいやつは寝ろ

 ある日、ルシファーは校長に呼び止められた。


「ヴィーナス先生! ヴィーナス先生! ……ヴィーナス先生ってば! 文科省が研究中のVR授業なんですが……」


「あ? わたしですか? ヴィーナス先生って誰かと……クラスではりんご飴で定借してましたから」


「え、違いました? りんご飴?」


「あ、ああ、ミドルネームなんです。ルシファー・ヴィーナス・りんご飴って、ね」


「それは失礼しました。では、これからはりんご飴様と……」


「ええ、ま、えーっと、みなさんからルシファーと呼ばれることが多いので、忘れていました。名前って大切ですよね。失敬しました。あれですよね、ルカ・セラフィム先生とウリエル……ウリエル……何だっけ」


「ウリエル・ポップコーン先生ですか?」


「あっはー! なんて名前なんだ。そうそう。そのポップコーンと一緒にVRを構築したんです。生徒たちにはなかなか好評ですよ」


「……のようですな。今度、わしも授業参観したいのだが、いいかな?」


「もちろんです。でも、その、まさかって……今日ですか?」


「ああ、できれば、今日」


「うーん、それは黒須先生に聞いてみた方がいいですよ。準備もありますし……」



校長は、ルシファーと一緒に社会科準備室を訪ねた。


「おーい、黒須。いるかぁ? 校長先生が、今日VR授業を参観したいんだとよ、黒須、居るなら返事しろ」


ルシファーの後ろから、校長が顔を出した。


「いいかな? 黒須先生。ルカ先生もいいかな? りんご飴先生に頼んだら、黒須先生に聞けって言うから……」


大きな地球銀の裏から、黒須は眉間にしわを寄せた顔を出した。


「え?」


「なんでもVRは、ポップコーン先生の技術が要だって言うんで、ポップコーン先生もいいかな?」


「は? さっきからりんご飴とか、ポップコーンとか言ってますが……学園祭ですか」


相変わらず愛想が悪く、記憶力の弱い黒須の脇腹をどつき、ルカが笑顔で対応した。


「ええ、もちろんです、校長先生。でも今日ですと、んー、ちょっと……つまらないかもね。せっかくVRで参加なさるのなら、モーゼの時代なんかどうですか? パーッと海が割れて、大スペクタル映画のようですよ」


「おお、それはおもしろそうだな」


「でしょ? でしょ? そうしましょう。校長先生」


「じゃ、モーゼの回。予約していいかな?」


「はい。S席1枚毎度ありー!」


「金取るのか」


「ジョークですわ。ジョーク!」


ルカは、うまく今日のVR授業の社長参加を回避した。

校長先生が去ってから、入れ違いにウリエルが社会科準備室に入って来た。


「こんちはー。お邪魔します。今、校長が上機嫌で出て行ったけど、何かいいことでもあったんっすか?」


ルシファーと黒須とルカは、ウリエルを押さえつけて頼み込んだ。


「「「ポップコーン先生!! 君が頼りだ!!!」」」


「ダレっすか? そのポップコーンってふざけた名前……」


「「「お前だろがっ!!!」」」


*****


 VR授業の二日目。

生徒たちがヘッドセットを付けると、……乾いた大地にいた。

黒須は旧約聖書の解説を始めた。


―「何十日かして雨はやみ、水が引いて、ある山の頂に流れ着いた。この山がアララト山だ」


みんな箱舟から降りて来た。

ノアの息子は三人いた。


―「セム、ハム、ヤぺテだ。この三兄弟が山を下りて行って各地に広がった。セムがユダヤ人やアラブ人、ハムがエジプト人、ヤぺテがヨーロッパ人祖先になった。

こいつら兄弟だから、住む場所は違っても、同じ言葉をしゃべっていたんだ。ところが、この三兄弟はおバカな事をした」


画面は巨大な塔を映し出した。


―「“神に届く塔”を建てよう。もう、天に頼らずとも俺たちは生きられる!」


黒須の声が重く響いた。


―「これが“バベルの塔”だ。人が初めて“神を超えよう”とした場所だ。」


三兄弟は神に挑戦した。

神に届くほどのバベルの塔を建てた。

神の怒りにふれた。

次の瞬間……


―「……彼らの言葉を、バラバラにせよ」


天の声が轟き、

建設現場は混乱に包まれた。

互いに通じ合えなくなった人々は、怒鳴り、罵り合い、

そして、散り散りに離れていく。


―「今回は洪水じゃない。彼らが喋っている言葉を神はバラバラにしたんだ。工事現場は大混乱に陥って、人々は現場を去り、塔は未完成に終わった」


ルカはふと、黒須の横顔を見つめていた。


(……黒須先生、あなたはこの時代を“見てきたのね)


生徒たちがザワザワしはじめた。


「なんかね、自然災害よりも納得できないよね」

「うん、作り話っぽいよな」

「昨日のエデンの園や、ノアの箱舟のほうが面白かったー」


ルカは生徒たちの私語を注意した。


「はい、私語は慎みましょう!」


「いや、いいんだ、ルカ。俺の授業は、喋りたい奴は喋る。つまらなくて寝たいやつは寝て結構。そのうち、寝ることも言葉も失う体験をすることになるんだから。寝たいやつは今のうち寝てろ」


まさに、授業がつまらないのか、ルシファーは爪を研ぎながら聞いていた。


「うーん。今日はこういう反応だろうなと思ってたよ。だから校長の参加を阻止したんだよ」


ルカが睨んだ。


「授業中に、爪とぎ禁止。それと、校長を阻止したのはわたし。自分の手柄のように言わないで、ルシファー」


「うん、わかった。ごめんねー、ルカちゃん。君に怒られると、はっきり言って、気持ちいい~!」


「黙れ」


「そんな冷たくされると、余計燃えるなぁ」


黒須はこめかみを押さえた。


「お前ら……授業中にイチャつくなら、廊下に退場!!」


そのぼやきが、生徒たちの笑いとともにスピーカーに乗って流れ、

教室の端の方で端末操作していたウリエルが、SNSのトレンドを拾った。

彼は肩を震わせていた。


「すっげぇ……今の授業、絶対トレンド入りっすよ! VR授業、青葉学院高等部、世界史、寝たいやつは寝る……」


****


光がゆっくりと遠のいた。

VRの風景がフェードアウトし、一旦教室の天井が戻ってきた。


黒須は咳払いをして言った。


「はい、ここまでが“創世記”の前半部分だ。次回は、神と人間が結ぶ“約束”の物語――アブラハム編に入るぞー。後半に入る前に質問を受け付けるー。ちょっと休憩な」


生徒たちが席を立ったり、黒須のところに質問しに行ったりしている。

その間に、ルカは席に戻った。

まだバベルの塔の工事現場の喧騒が耳の奥に残っている気がした。


「この授業……旧約聖書の時代を正確に再現している……ウリエル、いったいどんな装置を作ったの?」


「ん〜、ちょっとだけ、天界のバックアップサーバーに……えへへ」


「“ちょっとだけ”って、あなた、それが一番危険なやつよ! えへへですまない!」


ウリエルたちの会話に、ルシファーが入って来た。


「……次の授業までに修理しとけ、ウリエルくん」


「せっかくのアドバイスですが、堕天使の指示には従わない主義なんで」


ウリエルに反発されて、ルシファーはペロッと舌を出した。


ルカはそれがキモかった。


(こいつ……エデンの園のヘビ、まだ抜けてないのか!)





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