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ハルマゲドン始まったってよ ~堕天使教師とマッチングしたのは天使エージェントだった~  作者: 白神ブナ
第二章 拗らせルシファー

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第66話 異界の飲み会(ルシファーSIDE)

 地獄と天界のトップ会談が、まさか赤坂の焼き鳥本舗で行われるとは思わなかった。


いや、正確に言えば……これは「サタンの希望」だった。


『たまには地上のメシ食わせろ! 居酒屋ってやつ行きてぇんだ!』


……それで天界の代表ミカエルとガブリエルまで呼ぶんだから、もうカオスだ。

四者会談というより、ただの異界飲み会である。



 店に入ると、すでにサタンがカウンター席を陣取っていた。

人間界に馴染むように、ジャージ姿で。


「おーいルシファー! 遅ぇぞ! もう“塩・タレの両方”頼んじまったからな!」


「ただのオヤジじゃないか……地獄の王が焼き鳥二刀流で喜ぶなよ」


「バカ言え、地獄の火で炙った焼き鳥は絶品なんだぞ!」


「サタンが焼き鳥を焼くのかよ……とっつぁんは客側だろ?」


「バカ言え。食う直前にここで焼き色付けんだよ。ほうら、こんな具合にな……」


挿絵(By みてみん)


先にサタンが頼んでいた、ネギまが来た。

すると、サタンは口から炎を出して、焼き鳥にいっそう焦げ目を付けた。

衛生上、問題がある。

だいたい、おっさんの口から出た炎で焼かかれた焼き鳥って、どうよ。

だが、……たしかに香ばしい。

わたしは黙って隣に座り、冷たいビールを注文した。


「とりあえず生で」


これ、言って見たかったんだ。

すると、すぐに天界側の二人が入ってきた。


ミカエルは相変わらずスーツに白シャツ。

ガブリエルはラフなパーカー姿――ただし背中に“GABRIEL 77th Heaven”のロゴ入り。

自分の名前をプリントした服を着てくるのが、天界センスらしい。


「やぁ、遅れてすまない。道に迷っていた」


「赤坂で迷う天使いる?!」


サタンがツッコミを入れた。

わたしもそこ、ツッコミたい。


乾杯の声が上がった。

ミカエルが真顔でグラスを掲げた。


「では……世界の平和と、愛の継続に」


サタンは地獄側としての希望を追加した。


「あと給料日とボーナスに!」


ガブリエルが、めっちゃ気軽にサタンに同調した。


「うんうん、わっかるー! それ大事!」


わたしは、このメンツで飲むのは地獄になる予感しかしない。


「……このメンバー、天界も地獄も関係ねぇな」


メンツが揃ってからオーダーした最初の串が来た。

ぼんじり、せせり、つくね。

ガブリエルが真剣な目でメニュー表を見つめている。


「この“とりわさ”って、どこの天使が作ったの?」


「いや鶏だろ」


「鶏の天使か?」


「存在しねぇよ!」


酔っ払いの会話に秩序はない。


サタンは既に二杯目のハイボールだ。


「なぁルシファー、ハルマゲ丼って何だ?」


「……それはイエスの弟子が書いた伝説を、黒須が書き換えたやつだ。愛と飯と爆発の象徴だと思えばいい。」


「この店に、そのメニュー、ねぇのか?」


「ない」


「くそっ、限定メニューだったのか。一足遅かったか……」


そうやって一生悔やんでろ。


ミカエルは黙って冷奴をつついていた。

ふと、顔を上げた。


「……神が残した“愛せよ”の言葉、あれは本当に単純だな。」


「単純だから強いんだよ」


とわたし。


サタンが焼き鳥をかじりながらうなずいた。


「単純だからウメぇんだよ」


ガブリエルがビールの飲んで酔った目をしている。


「“愛”って焼き鳥みたいだね」


ミカエルが、酔っている同僚の肩に手を回している。


「どういう意味だ?」


「焦がすと苦くなるけど、ほどよく焼くと香ばしいじゃーん?」


しょうもない戯言に、とっつあんが感心した。


うまいこと言うじゃねぇか!」


ちょっと、からかってやろう。


「とっつぁんが言うと説得力あるな。しょっちゅう焦がしてるし」


「やかましい!」



サタンが「やかましい!」と怒鳴ったあと、

店員が追加の串を置いていった。


レバー。

ハツ。

砂肝。


……このへんから、正直、記憶が少し怪しい。

ビール三杯目だ……と思う、たぶん。


わたしはグラスを持ち上げ、

中身をじっと見つめてから、ぽつりと言った。


「……なぁ」


誰も聞いていないと思ったが、なぜか三人とも、同時にこちらを見た。


「わたしさ」


とっつあんは言う。


「なんだよ、改まって」


ミカエルは、私をじっと見た。

「珍しいな、君が前置きをするとは」


ガブリエルは、酔っぱらって女子みたいになっている。


「告白? 告白?」


「ちがう」


わたしは、少しだけ笑った。


挿絵(By みてみん)


「……人間界の教育現場に行こうと思ってる」


一瞬、時が止まった。

沈黙。

そして次の瞬間……。


「はぁ!?」


サタンが、思いきり声を張り上げた。


「やめとけ!! あそこは一番めんどくせぇ場所だぞ!? 知ってるか? 意味のない規則! 保護者対応! クレームの嵐!! 地獄より地獄だっていうぞ!! そのせいで、毎年メンタルやられる輩が多い。そんな輩の対応で、地獄は人手不足になってるんだぞ!」


ガブリエルも、目を丸くした。


「え、え、え? ルシファーが先生にぃ? 黒板とか、消せるの? 出席とか、取れるの?」


ミカエルは、逆に静かだった。


「いや、その前に授業ができるのか、だろう」


グラスを置き、じっとこちらを見てきた。


「前に希望は聞いているが、念の為……理由を聞こう」


「理由?」


わたしは首を傾げた。


「簡単だよ……よき行いをする」


サタンは目を丸くした。


「……は?」


ガブリエルも飲みかけのグラスを持ったまま固まった。


「……え?」


ミカエルは、予想がついていただろうか。

何も反応しない。


「……」


わたしは、少し酔っているせいか、妙に正直になっていた。


「わたしは堕天使だ。今までは、願いを叶える代わりに命をもらう契約ばかりしてきた」


「ルシファー、それが王道だ。仕事に不満でもあるのか?」


「だが……」


箸で、つくねを突つく。


「それをやめろ、って命令された」


サタンが追及してきた。


「誰にだ!」


「天使に」


また沈黙の時が流れた。


ガブリエルは聞き返した。


「……え?」


ミカエルの眉が、ほんの少しだけ動いた。


「……ルカか」


「さすが上官、話が早い」


わたしは、ビールを一気に飲んだ。


「教師になるなら、よき行いをしろ。今までの生き方を、悔い改めろ、ってさ」


サタンは茫然としたままだ。


「……」


ガブリエルも

「……」


ミカエルも

「……」


挿絵(By みてみん)


その沈黙を破ったのは、ガブリエルだった。


「……すごくない? 天使が、堕天使に“よき行い”を命令するって。なんか……めっちゃ希望じゃない?」


ミカエルは、ゆっくりとうなずいた。


「……確かに。命令とはいえ、それを“受けた”ことが重要だ」


サタンは、完全に理解が追いついていない顔をしている。


「ちょ、ちょっと待て。それって……ルシファーが善人になるって話か?」


「なるかどうかは知らない」


わたしは笑った。


「やってみるだけだ」


「だがな、とっつぁん」


わたしはサタンを見つめた。


「人間界の教育現場は、願いを叶えても感謝されない。むしろ、文句を言われる。それでも続けるのが、“よき行い”らしい」


サタンは口を開けたままだ。


「……」


そして、頭を抱えた。


「……意味がわからねぇ。なんでそんな、割に合わねぇことを……」


わたしは、少し考えてから言った。


「さぁ? たぶん……」


グラスを置き、天井を見上げた。


「腹が立ったんだと思う。天使のくせに、やたら強くて、まっすぐで……全力で否定してきて、しかも逃げなかった」


ガブリエルがわたしの顔を覗き込んだ。


「……恋?」


「ちがう」


一応、即答。

だが、否定はすぐ揺らいでしまった。


「……たぶんな。思想の問題だ」


サタンは吐き捨てるように言った。


「信用できねぇな」


ミカエルは、ふっと小さく笑った。


「……好きにしろ。だが、生徒に手を出すな。それは、天界としても、地獄としても……絶対条件だ」


「わかってる」


わたしは、指を立てた。


「手は出さない。……口は出すけどね」


サタンが大声で叫んだ。


「そこが一番危ねぇ!!」


ガブリエルは、なぜか拍手している。


「口を出すなら、金も出した方がいいぞ」


「おい、すげえ事言うな。大天使さまは悪魔より悪徳業者みてぇだ」


「サタンさんに褒められて光栄だ。ふっ、冗談さ。そんなことはないよ。なんか……青春だね! って思ってさ、ルシファー」


「青春って言うな」


わたしは苦笑した。


こうして、焼き鳥本舗赤坂店での異界トップ会談は……


天界:

「前向きな更生計画」として大喜び。


地獄:

「厄介事を人間界に押し付ける気か?」と困惑。


そして、

わたしはというと……


「……明日、二日酔いだな」


そんなことを考えていた。


たぶん、人生で一番、まともじゃない決意をしたと思う。


「ああ、そうだな」


と、ミカエルは笑った。

そして、店の外に出ると、付け加えた。


「愛も焼き鳥も、冷める前に食うのが正解だな。うっ、さぶ! 今夜は夜空を飛びたくないなぁ」


「しょうがないな、ミカエル。ほれ、天界へのエレベーター。その地下鉄入り口の横に出しておくからな」


「お、サンキュ、ルシファー。助かる。じゃ、またな」


天界と地獄のトップたちは、わたしの大決断に反対することなく、赤坂の夜に消えていった。

サタン? 知らないが、勝手に帰ったんじゃないのか?


……翌日、焼き鳥本舗の本社に「天界からの予約」が殺到したという。


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