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ハルマゲドン始まったってよ ~堕天使教師とマッチングしたのは天使エージェントだった~  作者: 白神ブナ
第二章 拗らせルシファー

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第65話 契約者の命令ならば

挿絵(By みてみん) 


ルシファーは、赤坂の夜景を見下ろしながら、スマートフォンを眺めていた。


「……ふむ」


画面に表示されているのは、一つの連絡先。


《ルカ・セラフィム》


入手先は言うまでもない。


(サタンの人脈というのは、こういうときだけ役に立つ。というか、本当はとっつあんの覗き見だが……。悪魔としての本来の仕事を思い出させてくれて、感謝だな。今じゃ、古典的なやり方だが……、とっつあんの悪知恵は活用させていただくよ)



ルシファーは、指先で画面をなぞった。


(さて……、いきなり電話をかけるのは、下策だ。彼女は警戒心が強い。だが……)


口元が、ゆっくりと歪んだ。


「ワン切り」


(これだ。理屈は簡単だ。ワン切りをすれば、相手は「着信があった」という事実だけを認識する。そして、こう思う。

――誰?

――何か用?

そして折り返す。

折り返し電話=呼び出し

呼び出し=召喚

召喚された悪魔は、契約を提示できる。完璧な理論だ)


「……ふふ」


ルシファーは、躊躇なく発信ボタンを押し、

ワンコールで切った。


画面には「発信履歴」の文字。


(これでいい……。あとは、彼女が折り返してくるのを待つだけだ)



 ルシファーが赤坂の夜景を見下ろしながら、スマートフォンを操作していた同じ時間、別の場所。

それは、恋愛CIAオフィスだった。

ルカは机の上で震えたスマートフォンを見下ろしていた。


着信履歴。

《非通知》

一瞬で切れている。


「……ワン切り?」


ルカは眉をひそめた。

すると、その横から……、


「出るな」


低い声が、即座に飛んだ。


「え?」


ルカが振り向くと、そこには腕を組んだ黒須がいた。


「あれ? いつのまに来てたの? 学校の仕事は終わった?」


「今の、出るな。折り返すな」


「なんで?」


「理由は三つある」


黒須は、淡々と指を立てた。


「一、ワン切りはろくな用件じゃない。

二、非通知は信用するな。

三、今のは“呼び水”だ」


ルカは、じっと黒須を見た。


「……呼び水?」


「相手に主導権を渡すやり方だ」


挿絵(By みてみん)


黒須は、ため息をついた。


「昔からいるんだよ。折り返させて、“呼ばれた”って言い張る奴が」


「……あ」


ルカの脳裏に、嫌な顔が一瞬よぎった。


「まさかコーラルピンクの髪してる?……」


「まさかだ」


黒須は即答した。


「ルシファーの匂いがする」


「着歴だけで匂いするの? すごくね?」


すると、スマートフォンが、再び震えた。


今度は見覚えのない番号が表示された。


「なにか、間違い電話なら、間違いですって言わないと……」


ルカの指が、反射的に動きかけた。

が、黒須が、素早く手を伸ばし、画面を上から押さえた。


「出るな」


「でも……」


「出たら負けだ」


「いや、勝ち負けの話じゃ……」


「出た瞬間に、あいつの土俵だ」


ルカは、少し考えてから、

スマホを置いた。


「……ワン切り折り返したら、何か悪い事でも起きるの? 美味しい投資話でも? 」


「やりかねん」


黒須は真顔だった。


数秒後。

着信が、切れた。

やっと静寂になった。


だが、その沈黙を破ったのは、

ルカの冷静すぎる一言だった。


「……でもさ、もし、わたしが折り返したら?」


黒須は、即答した。


「そのときは……」


少しだけ声が低くなった。


「俺が割って入る。契約成立前に、全力で邪魔する。教師としても、堕天使としても」


ルカは、ふっと笑った。


「過保護ね。わたし黒須先生に守ってってお願いした覚えはないけど」


「うるせぇ、言ったよ。身元引受人になるって」


「ああ、あの時か……」


ルカはスマートフォンを裏返した。


「ありがとう。でもわたし、束縛されるの、嫌いだから」


「おい」



その頃、赤坂の夜景が見えるビルの屋上で、

スマートフォンを見つめながら、来るはずだった着信をずっと待っている堕天使がいた。

ルシファーは眉をひそめていた。


「……遅い。おかしいな。理論上は、完璧だったはずだが」


彼は、しばらく考え……、そして、気づいた。


「あ……黒須か」


口元が、悔しそうに歪む。


「……余計なところで勘がいい」


それでも、彼はふっと笑った。


「だが、構わない。一度でダメなら、何度でもやればいい」



スマートフォンが、また震えた。


《着信:090-XXXX-XXXX》


ルカは画面を見て、小さく首を傾げた。


「……さっきと同じ番号ね」


その横で、黒須が一瞬で顔をしかめた。


「出るな」


「今度は番号出てるけど?」


「だからこそ出るな」


黒須は即答だった。


「その番号、やはりあいつだ」


「……え?」


「ルシファーだよ」


ルカは、ぱちりと瞬きをした。


「……ああ。なるほどぉ」


スマートフォンは、しつこく振動を続けている。


コール音は、止まらなかった。


「……」


ルカは少しだけ迷ってから、黒須を見た。


「ねえ」


「なんだ」


「こんなに何回もかけてくるってことは……」


黒須は嫌な予感しかしなかった。


「……やめろ」


「まだ、何も言ってないじゃない! 言う前から反対することないでしょ! 何か、困っているんじゃないかしら」


「やめろって」


「天使として、無視するのはどうかと思うのよ」


黒須は、思わず声を荒げた。


「あいつは困ってる側じゃねぇ! 困らせる側だ!!」


だが、ルカはすでに通話ボタンの上に指を置いていた。


「ちょっ……! ルカ……」


「少しだけよ」


黒須が止めるより早く、ルカは電話に出てしまった。


「……もしもし?」


黒須の胃は、きゅっと縮んで痛くなった。

万が一、変な誘惑を受けたらすぐ黒須が対応できるように、ルカはスピーカーにした。

電話の向こうが黒須にも聞こえるようにしてから、返事を待った。


一拍おいて、聞き覚えのある、やけに上機嫌な声が響いた。


―『やあ……やっと出てくれたね、ルカちゃーん!』


黒須は、無言で天を仰いだ。


(最悪だ。これで終わった)


「……何の用かしら?」


ルカの声は冷静だった。


―『いや、君が呼んだからさ』


「呼んでないわよ」


―『折り返しただろう?』


「だって、それは用件を確認するためよ」


―『同じことだ』


黒須は、思わず口を挟んだ。


「違ぇよ!!!」


ルカは一瞬、電話口からスマホを離す。


「黒須先生、静かに」


「静かにできないね!」


―『……ふふ』


電話の向こうで、

ルシファーが笑った気配がした。


―『なるほど。君の隣にいるのは……黒須か。やっぱりな』


黒須の眉が跳ね上がった。


「気づいたか」


―『勘がいいね。さすが元わたしの部下だ。教育の甲斐があった。だが、……もう遅い』


ルカはため息をついた。


「ごめん、わたし忙しいのよ、ルシファー。用件を早く」


―『そう急かすな。せっかく“召喚”されたんだ』


「召喚してない」


―『いいや、契約が成立しているんだよ』


契約と言ったあたりから、ルシファーの声が、ワントーン低くなった。


―『君は、わたしに電話をかけた。それは、悪魔を呼ぶ行為だ。……契約の条件は整った。すでに君とわたしは契約関係にある』


黒須が、低く唸った。


「……やっぱりその理屈か。えらく旧式。クラシックタイプの仕事だな」


ルカは、即座に切り返した。


「却下よ」


―『ほう?』


「勝手に成立させないでくれる? わたしは、あなたと契約する気はないわ。クーリングオフを要求します」


一瞬、沈黙したが、それでも、ルシファーは楽しそうだった。


―『そう言うと思ったよ。わたしのルカちゃん。だからこそ、君は美しい』


黒須のこめかみが、ぴくっと動いた。


「……褒め方が気持ち悪い。気安くちゃん付で呼ぶな」


―『おや、嫉妬かい?』


「殺すぞ」


―『はは』


電話の向こうで、

ルシファーは誇らしげに息を吸った。


―『いいだろう。なら、改めて名乗ろう。わたしは堕天使だ。基本、願いを叶える代わりに

 命をもらう契約を交わすのが仕事だ』


「やめろ、その自己紹介。古典的だ」


ルシファーは気にせず、ルカに向けて話を続けた。


―『ルカちゃん。……わたしの契約者になる気はないかい?』


間髪入れず、ルカは答えた。


「ない」


そして、続けた。


「それ以前に、ここの雇用契約を取り消されたでしょ。ここに置いてあった私物、マグカップに至るまで、全部持って帰ってね。邪魔」


―『……手厳しいね』


だが、すぐに楽しそうに口角を上げた。


―『なら、新しい契約を交わそう』


黒須は悪寒が走った。


「嫌な予感しかしねぇ」


―『わたしは……、君のために教師になりたい』


「やめとけ!!」


ルカは一瞬だけ考え、そして、冷静に言った。


「ふぅーん、そうなんだ。教師になるのなら、善き行いをすることね。今までの生き方を、悔い改めなさい!」


ルシファーの返事するまでに、間があった。


―『え……』


そして、ゆっくりとした口調で確認してきた。


―『それって、命令かい?』


「命令です」


ルカはぴしっと言い切った。


次の瞬間、思いもよらない返事が返って来た。


―『ちょっと待った。クーリングオフの話はどうなった。契約解消で、その命令も無かったことにできるんだよね。お互い仕切り直しとしようよ!」


黒須は、ひらめいた。

これは好機。

使わない手はない。


「クラシックタイプの契約もいいな。ルカ、クーリングオフするな。こいつの契約者になって、命令をくだせ!」


「ルカちゃん、黒須も堕天使だからね。信じちゃだめだよ」


ルカは、人差し指を顎に置いて考えた。


「でも、ルシファーはわたしと契約したかったのよね。あなたの希望は契約よね。それって、期限はいつまで?」


「神が命の書から、名前を消すまで……」


黒須とルカは同時に言った。


「「半永久的」」


黒須はルカの肩を引き寄せて、ささやいた。


「創世記以来、堕天使に善行させて、元の大天使に戻す偉業になるかもしれないぜ」


「わお! じゃ、わたしはあなたの契約者ね。さっきのは、命令ね。承認決定のサインをします」


ルシファーは、始めは悔い改めよに抵抗があった。

だが、その抵抗より、ルカの契約が1000倍嬉しかった。


挿絵(By みてみん)


―『ルカちゃんが、わたしに命令した! オーマイガじゃない、おーマイデーモン! ……その命令、ききます! あんがとう、とっつぁん!』


「おい。大丈夫か? 何でそんなに嬉しそうなんだ」


ルシファーは、黒須の声に向かって叫んだ。


―『首を洗って待ってろよ、黒須!!』


「なんでーー?! 俺が脅される流れになるんだよ!!」


「黒須先生なら、脅され慣れてるからいいじゃん」


ルカはこのやりとりにため息をついた。


(ほんと、めんどくさい男たちだわ)


黒須は、ルカを見て小さくぼやいた。


「なあ……。ルシファーさ、ルカに対する言い方と、俺への言い方、明らかに違くないか?」


ルシファーは答えた。


―『当然だろう? 黒須、お前はわたしと“対等”だ。だが、彼女は……』


一瞬、言葉を選び、


―『特別だ』


黒須は机を叩いた。


「言い切りやがった!!」


ルカはスマートフォンの向こうのルシファーに言った。


「……聞こえなかったことにするわ」


―『それも、いい。拒絶されるのは、慣れている』


黒須は自分みたいだなと共感してしまった。


「そこ誇るな」



こうして……、電話は切れた。


堕天使ルシファーは、命を奪う契約を得て、その代わり契約者からの命令は何でも聞く道を選んだ。


なお、本人はそれを「恋」とは一生認めるつもりはない。中学生かよ)


ルカが電話を切って、机の上に置くと黒須はやっとホッとした。


「君、だんだん教師みたいになってきたな」


「あなたの隣にいると、自然とね」


そう言うとルカは、幸せそうに笑った。


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