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ハルマゲドン始まったってよ ~堕天使教師とマッチングしたのは天使エージェントだった~  作者: 白神ブナ
第二章 拗らせルシファー

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第64話 サタンとルシファーの清掃活動

 地獄・第七層。

かつて「地獄婚活フェス」が開かれた“永炎ホール”は、いまや焼け跡と化していた。

灰と煙の中、ポツンとひとつの影が動いていた。


サタンだった。


挿絵(By みてみん)


「まったく……このザマだよ」


スーツの袖をまくり、竹ぼうきを持った大悪魔は、どこからどう見ても地獄の支配者に見えない。

まるで廃墟の管理人だ。


「このわしがだな、世界再構築の準備を進めていたんだぞ? それがどうだ。“愛の再構築フェスティバル”とか言い出して……! あのルカとかいう小娘のせいで、全部バーベキュー会場の跡地みたいになっちまったじゃねーか!」


サタンはため息をつき、木の切れ端を燃やして暖をとった。


「……まぁ、寒いから助かるけどな」


そのとき……

背後で、控えめな拍手の音がした。


パンパンパン……


「いい火加減だな、とっつぁん」


「なんだ……お前か、ルシファー」


「なんだはないだろう。こうして会いに来たのに」


「会いに来た? けっ! 笑わせんじゃねぇぞ。てめえの仕事場はもともとここだ。いつもどこかにサボりに行きやがって……。それにな、とっつぁんって言うな。わしはまだ若い! これまたオシャレなコート着てるじゃねぇか。地獄でブランド物とか場違いだぞ」


「地獄もファッションから変える時代だ。地獄だって“悪のドレスコード”ってものを確立しないと」


「誰がそんな時代作った!」


「わたしだ」


ルシファーは笑みを浮かべ、焼け跡の石段に腰かけた。


「フェスは大盛況だったじゃないか。地獄であれだけ動員できたら万々歳だ。“婚活”という名の地獄改革。地上でもトレンド入りだってよ」


「マジか。地獄改革がバズってるのか。いやー、今まで頑張ってきたかいがあったな。よかった、よかった……って、違げえだろっ! トレンドじゃねぇよ! 地獄崩壊させる気か!! あの黒須の生徒たちが“いいね”でも押したのか? 何故か地獄回路がバグっちまってよ! 俺には直せん」


「あっはー! いや、いや、あれは“愛のアルゴリズム”だよ。マッチングエラーのようで、実は最適解だった。」


「どこが最適解だ! 意味わからん。地獄のパソコンが泣きながら再起動してたんだぞ!」


「泣きながら? へぇー、泣くパソコンって初めて聞いた」


「泣くんだよ、とにかく!」


ルシファーは微笑んだまま、手に持ったマグカップを差し出した。


「まあ、まあ、興奮しなさんな。こんな時こそ落ち着きましょう。コーヒーでもどうだ。地獄ブレンド・深煎りだがな」


サタンは差し出されたコーヒーを一口飲んだ。

が、吹き出した。


「焦げてんじゃねぇか! 深煎りしすぎだろ!!」


「おっと、失敬。女の子たちがくれた豆なんだ。わたしのプライベートエリアに深入りしてね」


ルシファーのつまらない冗談に、サタンはにこりともしなかった。


「お前さ、つまんねーやつって言われねえか?」


「んー、たまに言われるけど、黒須ほどじゃない。あいつはもっとつまらん冗談を言う。黒須の上司していたから、うつったのかもしれない」


「あの野郎か。あいつのバカがうつらないように気を付けな」


サタンは、そう言うと周辺の木くずを再び拾い始めた。


「サタンさまってさー、地獄の王だろ。片付けしてどうすんだよ」


「お前さ、サタンに様つけるんなら、敬語使うのが正解だろ。とっつぁんなのか、サタンさまなのか……統一しろ。お前こそ何しに来た!」


「手伝いに来たんだよ」


「手伝いって……今さらのように、魔法でモップ出しやがって」


ルシファーはきれいな笑顔でモップを構えた。


「掃除も愛ってことで」


「愛じゃねぇよ! 労働だよっ!!」



 やがて、二人は瓦礫の山を前に、完全に「地獄清掃バトル」へ没頭していた。


「おーいルシファー! そのゴミ、燃える方に入れるんじゃねぇぞ!」


「“燃えるゴミ”と、“燃やす愛”の区別がつかない」


「もう黙れ! 口を出すな、手を動かせ!」


そこへ、ルカの声が天界通信から響いた。


―『……二人ともぉ、何してるの?』


サタン「片付けだよ!!」

ルシファー「ルカちゃーん!!」


―『すみませーん。今さらで申し訳ないんだけどぉー、地獄フェスの報告書、まだですか? そろそろ天界へ上げないと、期日が迫ってるんですけど……』


「書けるかそんなもん!! そもそも、お前が破壊したんだろ、このホール。小娘、お前が片付けに来いや!!」


「気にするな、ルカちゃん。報告書は、“愛は燃やして消えた”という一文で十分じゃないか」


「詩的にまとめんなっ!!」


ウリエルからの通信も届いた。


―『サンタさーん、あ、間違えた。サタンさーん』


「よぉ、少年天使。今わざと間違えただろ。地獄のサーバー治ったか?」


ルシファーはちょっと驚いた。


「え? 地獄の回路修理って、ウリエルに頼んでたの?」


「しょうがねえだろ。異界で一番IT技術に詳しいやつといったら、あのガキしかいねえんだよ」


ウリエルの通信が続いた。


―『地獄の回路を修理して、クラウドサーバーをアップデートしときました。ログインしてくださ〜い。新しいパスワードは、“ilove666”で統一しときましたぁ』


「そんなダッサいパスあるか!! だっさー! いや、だっさー! そんなの魔王が使うの恥ずかしくね?」


「いや、いいセンスだよ。ウリエル」


「褒めるな!! ルシファーお前、なんで天使たちに優しいんだ? まさか、あいつらの仲間に入りたいのか?」


瓦礫の中で、サタンが手を止めた。

ルシファーはその質問には答えず、燃えるゴミの袋を閉じていた。


「さあ、……どうでしょうね」


「え、否定しないんかい!……なぁ、ルシファー。お前、あの小娘天使に惚れたのか?」


ルシファーは、崩れた石段に腰かけて足を組み、コーヒーを一口飲んだ。


「惚れたというより、気づいた。彼女は私に似ている」


「またまた~、ナルシスト発言かよ。」


「……心配には及ばない。彼女の会社で働いたけど三日でクビになった。フフフ」


「何笑ってんだ。そこ自慢するところか?」


「わたしは、本気で口説いた。そして、全力でフラれた。だけどね、それを『最高だ』と思った……」


「おいおい、……フラれたのか。あの小娘には、黒須がいつも側にいて守ってんだろ。まさか、奪うつもりか?」


「否定されたが、諦めない。かといって力づくで奪うのは趣味じゃない。わたしは黒須と同じ場所に立ちたいのだ。そうすれば、わたしの素晴らしさが際立ちだろ?」


サタンは、呆気に取られてゴミを拾うことも忘れていた。


「お前さぁ、それって恋って言うんじゃないのか?」


「断じて違う!」


「いや、それ、恋をしている自覚がないだけだろ」


「とっつあんでも、それを言ったら許さないからな!」


「……わかったよ。お前ってさ、理屈は全部立派で、言葉も全部正しいけどさ、なーんか

あの小娘が絡むと違うくね? なーんか、行動が感情に引きずられているように見える」


「無い!」


「ほら、それを絶対に認めない。今のお前は、悪のカリスマでも、終末の象徴でもなく、

恋に気づかないまま拗らせている中学生だよ」


「うるさいなぁ、とっつあん!」


「まあ、わしはお前の保護者みたいなもんだからな。お前が拗らせていることぐらい、お見通しだ」


ルシファーはサタンのおせっかいは聞かないことにした。

黙々と清掃活動にいそしんだ。


挿絵(By みてみん)


しばらくして、サタンが聞いた。


「黒須ってさ……」


ルシファーは、その名前を聞いただけでサタンを睨みつけた。


「いや、なんでもない……」


「言えよ。途中で辞めるな。気になるじゃないか」


「ああ、……黒須ってさぁ、あの小娘が好きだから、側にいて守っているんだろ? ルシファー、お前が小娘に近づくのと、どう違うんだ」


「フン、そんなことか。わたしはあの天使が気に食わないから近づくんだ。わかったか」


「全然わからん。お前は黒須と『思想の勝負』をしてるつもりでも、実は恋の張り合いしてるだけだろ」


「わかってねーな! とっつあん!」


「わかってねえのは、お前だよ」




 少しの沈黙のあと。

サタンは灰色の空を見上げた。


「ああ、痛たたた……。ゴミ拾いしてかがんでいたら、腰に来た!」


「おっさんだなー。やっぱ、とっつぁんで統一するか」


「それ言うか? お前だって9000歳いったろ? で? 次はどうする?」


ルシファーは聞き返した。


「次って?」


「地獄フェス第二弾でもやるか?」


「ネーミングが最低だな。地獄の魔王らしくない」


「予算が地獄級に足りねぇんだ。文句言うな」


「そうだな……、人間界にちょっと闇のルートがある。そこから資金を調達してやるよ。わたしを利用して世界征服を企んでいる組織だ。協力するふりすれば、金なんかすぐ用意できる」


「お前、それ詐欺の発想だぞ」


「え? おれたち、元から詐欺みたいな存在だろ?」


「ま……たしかにな」


二人は顔を見合わせて、同時に吹き出した。

そして、黙々と片付け作業は続いた。



やっと作業が終わる頃、サタンはルシファーに礼を言った。


「ありがとよ」


「らしくないね、お礼だなんて。何を企んでいる」


「別に……。お前さ、悪魔の本業に立ち戻ったらどうだ。悪魔は召喚した契約者の願いを聞き入れるのが正式な仕事だ。その代わりにいただくモノをいただく」


「ん? どういう意味だ。何が言いたい」


サタンはポケットから紙切れを渡した。


「お駄賃をやる。小娘の連絡先がこれだ。ワン切りして、折り返しを待て。そうすれば、お前は召喚されたことになる。契約を交わす。これで、小娘と離れられない」


「ルカの電話番号……、一体どこから?」


「さっきのIT小僧のタブレットを盗み見た」


「とっつあん、お前も悪よのぅ……フフフフ」


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