第62話 面接バトル(完全に大人げない)
「会社の応接室で何してんだ、お前ら」
赤坂・恋愛CIAオフィス。
夕焼けがガラス窓に反射し、やけにドラマチックな光がオフィスの中に差し込んでいた。
……当事者たちの精神状態とは裏腹に……
黒須は、ルシファーをじっと見たまま動かなかった。
「おい、……説明しろ」
ルシファーは椅子に腰かけたまま長い脚を組み直した。
そして、余裕の微笑みを見せた。
ルカは堕天使二人の鉢合わせにハラハラしていたが、ここでツッコまずにはいられなかった。
「今さら? お互い知ってるくせに。存在自体がふざけてる」
天使からの鋭いツッコミに、府たちの堕天使は胸をえぐられる思いだった。
それとは反対に、ウリエルは緊迫した空気を読んだが、仕事と割り切っていた。
「ルカ先輩、面接、継続します?」
黒須とルカは即答した。
「「しない」」
随分な扱いを受けたルシファーは、首を傾げた。
「不思議だね。君たち、恋愛を扱う組織なんだろう? なのに、わたしの行動だけは“不純”と決めつける」
黒須
「不純だろ」
ルカ
「顔がもう不純」
ルシファーは、そこまで言われてさすがに嘆いた。
「ひどいな。これでも真剣だよ」
ルカからすると、ルシファーの行動に真剣さは感じられなかった。
「どこが」
キツイ一言に、ルシファーはほんの一瞬だけ視線をルカに向け、それから天井に視線を移した。
「……君が……、真剣に働いている場所だからだ」
意外な答えに、応接間はしんと静まり返った。
黒須が、沈黙を破った。
「……お前さ……、その言い方が一番ズルいって、自覚あるか?」
「ない」
即答だった。
ウリエルは肩をすくめ、ルカは悪口を言った。
「たぶん、ないっすね」
「何も考えずにそんな気障な台詞を言えるなんて、生粋の悪人ね。あ、人じゃないか」
即席・適性テスト②が始まった。
ここからは黒須も参加した。
ウリエルはバインダーに挟んだ紙をめくった。
「じゃあ、最終チェックっす! せっかくですから、黒須先生、この人が恋愛CIAに向いてるかどうか、判断してください」
「……俺が?」
「ちょっと、何で黒須先生が?」
ウリエルは、さわやかな笑顔を黒須に向けた。
「現場教師の意見、重要っす。やはり、社会経験のある堕天使の目から見てどうなのか、これが一番参考になります」
黒須は、腕を組んで考えた。
「わかった。では……質問する」
ルシファーは、組んでいた足を解いて姿勢を正した。
「どうぞ」
黒須は、少し意地悪な目をしてルシファーを見た。
「人の恋を……壊したこと、あるか」
「ある」
即答すぎる。
ルカは叫んだ。
「ほら!! 答えに迷うこともない。即答だった! これが本業なのよ」
黒須は、落ち着いた声で質問を続けた。
「……じゃあ……、人の恋を、守ったことは?」
一瞬、ルシファーの答えが、止まった。
「……」
「ないのか」
「……考えたことがない」
その言葉に、ルカが静かに口を開いた。
「それが、あなたの限界よ。恋愛は、勝ち負けじゃないの。管理でも、実験でもない」
ルシファーは、じっとルカを見つめ返した。
「では、最後にわたしから質問してもいいかな……君は、黒須の愛を“守っている”のかい?」
黒須はみるみる真っ赤になった。
「……っ」
ルカは返答に困った。
「……」
数秒の沈黙の後、ルカは、はっきり言った。
「ええ。少なくとも……あなたが考えているよりは」
ルシファーは、ふと窓の外に視線をずらした。
「……」
「ルカ先輩、強すぎっす。面接者をそこまで追い込んだら、圧迫面接になりますよ。ここはホワイト企業ですから、やめましょうよ。そういうの、一応……」
ウリエルは、それだけ言うと、ルシファーの受け答えをデータ入力して、エンターキーを押した。
「結論っす。ルシファーさんは……」
黒須はゴクリと固唾をのんだ。
「試用期間付き・仮採用で」
黒須は聞き返した。
「はあ!? 温情か?」
ちょっと待て、ウリエル!?」
ルシファーは、にやりと笑った。
「ほうらね」
ウリエルは偉そうに、人差し指を上に立てた。
「ただし条件付き! 黒須先生と、同じ案件に関わらないことです!」
ルシファーは、首を傾げた。
意味がわからなかったらしい。
「……それは?」
ウリエルは、説明を続けた。
「あと、ルカ先輩への個人的アプローチ禁止」
ルシファーは、不満そうにウリエルを睨んだ。
「ちぇ……ダメなのか」
黒須は、腕を組んで確認した。
「それ守れるのか?」
ルシファーは、少し考えてから、微笑んだ。
「努力は、……しよう」
「信用ならねぇ……。今、一瞬、間があった! 迷ったろ!」
ルカも頷いた。
「1ミリも信用できないわ。最終的決定はミカエル上官がします。ウリエル、あなたが出来るのは第一面接までよ」
「でも、この人いないとネタが尽きます!」
「それは否定できない……けど、ネタって……、仕事はお笑いじゃないのよ。それとも、この人を採用しなければいけない理由が他にあるの? ウリエル」
「え、なんで、そ、そんなこと聞くんですかぁ?」
「やっぱり、怪しい。ウリエル、白状しなさい。……確かさっき、ルシファーは天界経由って言ったわよね」
「ああーっと。ルカ先輩、起こらないでくださいね。ミカエル上官から、ただ一言『よろしく』とメールがあっただけです。それ以外は何もありません!!」
「それだけあれば、じゅうぶん有罪だわ。コネ入社じゃない! ったく、わたしに内緒で動くじゃないわよ、ウリエル」
「すみませんでした。僕、残業でもなんでもします」
「そう、じゃあ一か月、キッチン掃除とコーヒー係すること」
「ういーっす」
仮採用が決まったルシファーは、すぐ帰るのかと思いきや、楽しそうに受付嬢を口説いたり、観葉植物に水をやったりしていた。
鼻歌を歌いながら上機嫌だった。
帰り際
夜の赤坂。
全員がオフィスを出ると、涼しい風が吹いた。
黒須は、ルシファーを横目で見た。
「……なあ、ルシファー。本気で言うが……、ここは、お前の居場所じゃないからな」
ルシファーは、夜空を見上げた。
「ああ、……そうかもしれない。だが……」
ちらりと、ルカを見た。
「あの子がいる限り、ここは“気になる場所”だ」
ルカは答えに困った。
「……」
(だから自覚しなさいっての。あんたのその感情は恋ってやつだって。こいつは中学生か)
黒須はため息をついた。
「……面倒な男だなぁ」
ルシファーは黒須に言い返した。
「それは、お互いさまだろう?」
二人の視線がぶつかった。
ウリエルは慌てて二人の間に入った。
「……あ、この空気、完全に職場に持ち込まれます? それはアウトですからね」
赤坂のオフィスに、新たな地獄(職場恋愛未満)が、静かに始まった。




