表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ハルマゲドン始まったってよ ~堕天使教師とマッチングしたのは天使エージェントだった~  作者: 白神ブナ
第二章 拗らせルシファー

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

57/96

第57話 地獄サーバー・ルシフェリアコア

 地獄婚活フェスの二日目

赤坂の恋愛CIAオフィスにルカたちはいた。


黒須はスマホをいじりながら、ため息交じりだ。


「なあルカ、俺らここで今日もフェスやってるけど、本当に学校、大丈夫なんだよな」


「地上時間だと、まだ日曜の午後四時。大丈夫よ」


ウリエルが、さらに詳しく言った。


「地獄サーバーは時空圧縮モードっす! 地上より七倍速で進行してます!」


黒須は「わかってるよ」と一言って、窓の外を見た。

ルカはそんな黒須の姿を見ると、胸がきゅんとした。


「生徒たちがどうしているか、心配なのね。黒須先生」


「ん? 別に、そうじゃなくて……。ウリエルの説明だと、なんかブラック企業っぽく聞こえるなぁ……と思ってさ」


「そこかよっ!」


この日は、朝から空気が重かった。

ウリエルの端末が、地獄のデータサーバーに接続されているのだが、そのモニターには膨大な数字と波形が映っていた。

黒須はモニターを覗き込みながら、額に手を当てた。


「見ただけで頭が痛くなる画面だ」


「これ、全部“愛の反応値”っすよ。昨日のフェスで収集された参加者の感情データ。

それが、地獄の中央演算システム“ルシフェリア・コア”に送られていますね」


黒須はコーヒーを置いた。


「愛の……反応値? ってなんだ?」


ルカも画面に近づいた。


「これって……感情波を数値化してる……という理解で合ってる?」


ウリエルが頷いた。


「はい、そーっす! “恋慕”“嫉妬”“献身”の三要素をKPI化して、感情エネルギーに変換してるっぽいですね。……ルシファーの仕業でしょね」


黒須は腕を組んだ。


「やっぱりルシファーか。俺の元上司だが、あいつがただの司会で終わるはずがない。こんな物騒なことしやがって」


「まあ、地獄の堕天使だからね。物騒なことするのが仕事でしょ。黒須先生だって、普通と違うじゃない」


「ルシファーは堕天使になる前から、物騒なことは得意だった」


「黒須先生、ルシファーの目的、……知ってるの?」


ルカの声に、黒須はわずかに言葉を詰まらせた。


「……昔、ルシファーは言っていた。

“神は愛を定義したが、それは未完成だ。ならば、我々が完成させればいい”ってな」


ウリエルが目を見張った。


「つまり、愛そのものを“理論化”して、神に挑む気なんすね」


ルカは小さく苦笑した。


「愛を理論化……? そんなこと、できるはずがない」


黒須は、元上司のことが嫌いではなかった。


「でも、できちまうのがルシファーだ。あいつの“理論”は、いつも美しくて、冷たい」




 数時間後。

ウリエルの端末が警告音を鳴らした。


「警告:天界ネットワークに侵入試行!

 発信元、地獄サーバー・ルシフェリアコア!」


ルカの表情が険しくなった。


「……監査モードに移行。天界回線を使って解析する!」


挿絵(By みてみん)


光の輪がルカの背中に浮かび上がった。

その輝きが部屋を満たした。


ウリエルが早口で補足する。


「ルカ先輩、負荷が大きいです! これ、同時に地獄データを読もうとしたら……」


「やるしかない。ルシファーの“愛の理論”が完成したら、世界の感情バランスが崩れるでしょ」


ルカの目に、金色の文字列が流れ込んできた。

それは膨大な演算式で……“愛の公式”と呼ばれるプログラムだった。


「L=Σ(E×A×J)」

※L=Love、E=Emotion、A=Attachment、J=Jealousy


ルカは唇を噛んだ。


「……愛を、嫉妬で補正してる。つまり、“嫉妬がなければ愛は安定しない”って理論か……!」


黒須の胸がドクンと鳴った。


(あれ? 俺の……昨日の反応、もしかして全部……)


ウリエルが顔を上げた。


「言っちゃっていいのかな。黒須さん? 昨日のあなたの嫉妬データ、かなり高値でしたよね。もしかして、それがルシファーさんの演算に利用され……」


「やめろ、んな馬鹿な! 憶測で物を言うな」


黒須の声が、いつもより大きく響いた。

ルカは驚いて、振り向いた。


昨日の記憶がよみがえってきて、黒須は胸が苦しくなった。

拳を握りしめたまま、ルカを見つめた。


「……ルカ、お前、昨日……ルシファーに、何を言われた?」


「……ただ、“君の光は美しい”って」


「それだけ?」


「それだけよ」


嘘ではない。だが、黒須の胸はざわめいた。


「……俺、あいつの“美しい”って言葉、信じたことねぇんだ」


ルカは小さく笑った。


「黒須先生、なんだか……この愛の公式を証明してない? つまり……嫉妬とか?」


「証明とか言うな! 笑えない! 今は真面目な話だ!」


ウリエルが笑顔で指摘した。


「黒須さん、顔、真っ赤ですよ」


「黙れ、少年天使!」


そのとき、オフィスの壁一面のモニターが突然真っ赤に染まった。

ウリエルが叫んだ。


「通信ジャックです! ルシフェリアコアから映像信号!」


画面の中央に、あの男が映った。

黒い翼、微笑む唇。

ルシファー。


「やあ、諸君。……こんにちは、昨夜はよく眠れたかい?」


挿絵(By みてみん)


ルカが睨んだ。


「ルシファー、何をする気?」


「誤解しないでくれ。わたしはただ、“愛の真の姿”を観測しているだけだ。

 神と悪魔と、そして人間、その違いを知りたくて」


黒須が前に出た。


「すまないが、もうあなたの部下じゃねえから。ってか、ほとんど会うこともなかったし、部下じゃないってことでいいですよね。ああ! お前に敬語は使いたくねえ」


「回りくどい。黒須、言いたいことがあるなら、はっきりと言え」


「じゃ、言いたいことを言わせてもらう。お前の観測とは、誰かの心を弄ぶことだ。……そうだろ?」


「心を弄ぶ? 違うよ、黒須。心とは、触れられて初めて存在を証明できるんだ」


ルシファーの微笑みが、モニター越しにルカを射抜いた。


「ルカ。君はまだ“観測者”でいるつもりか? 愛を理解するには、堕ちてみるしかない。

……次のフェス、特別ステージで会おう」


映像が途切れた。

オフィスは沈黙した。

黒須の手は、小刻みに震えが止まらない。


「……あいつ、ルカを狙ってやがる」


ルカは視線を落とし、ゆっくりとため息をついた。


「かもね。でも私は、誰にも堕とされない。すでに黒須先生の手に堕ちたのに、これ以上堕ちようがないわ」


黒須は、きりっと断言したルカの顔を見つめて、ほんのちょっと赤くなった。

すると、ウリエルが素っ頓狂な声で叫んだ。


「……黒須さん、これって“感情の揺れ幅”の臨界値っすよーーー!!!」


「騒ぐなって、ウリエル!!! いちいち驚くな!」


オフィスの中で、ほんのわずかだが、笑いがこぼれた。

しかしその笑いの奥で、誰もが感じていた。


(まだ……嵐の前の静けさかもしれない)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ