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ハルマゲドン始まったってよ ~堕天使教師とマッチングしたのは天使エージェントだった~  作者: 白神ブナ
第二章 拗らせルシファー

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第56話 ショーの司会、堕天使ルシファー

 永炎ホールの中央ステージでは、地獄の婚活フェスがいよいよ始まろうとしていた。


「第1部は……、“愛の自己PRタイム”です。

参加者の皆さん、順番にステージに立って自分をPRしてください! さっそく、エントリーナンバー1の方、どうぞ!」


司会のルシファーが、艶のある声でイベントの司会をしていた。

その声は、まるで甘い毒だった。

一語一句に魔力が宿り、聞く者すべての心を撫でるように震わせていた。


ルカは席で姿勢を正した。


「……なるほど、ただの司会じゃないってことは、わかった」


黒須はため息をついた。


「あいつが“喋るだけ”で、地獄の温度が三度上がるんだよ」


「気温の問題じゃない。ハートの問題ってわかんないの?!」


ウリエルの通信が入った。


―「黒須さん、温度センサー異常上昇です。観客席、恋愛フェロモン濃度120%!」


「数字で言うな! サーモグラフィーかっ」


「マジで気温だったんだ……。悪かったわね、黒須先生」


「別に……、怒られ慣れてるから、気にしていない。(……ってか、もっと罵っていいんだけど)」



ステージ上に、最初の登壇者が現れた。

黒いローブをひるがえし、黒須を熱く見つめたのはあのブリジット・グレイウィッチだ。

緑のドレスにツタが伸びる杖を持ち、丁寧に礼をした。


「“呪いのデート”でお世話になった魔女ですわ♡」


会場がざわついた。

ブリジットはウインクし、ルシファーの前に立った。


「ルシファーさま、あなたの瞳……素敵ね。呪っていい?」


挿絵(By みてみん)


ルシファーは微笑んだ。


「呪いとは、強すぎる想いの別名だよ。君はそれを愛と呼ぶのかい?」


挿絵(By みてみん)


ブリジットが赤面し、ふらりと後ずさった。


「うっ……な、なるほど。さすが堕天使ルシファーさま」


黒須が頭を抱えた。


「出た、“口説き返しスキル”。あれ、一度食らうと誰でも墜ちる」


ルカは眉をひそめた。


「ちょっと待て。あの程度の口説き文句で堕ちるって、おかしくない? あんな臭いセリフ、今どきのホストでも使わないわ。……黒須、ひょっとして、あんたもあの程度で堕とされたのか?」


「昔、……一回な」


「え? ビ、BL? 冗談で言ったのに、マジで答えた?」


「大昔、研修中に“君の絶望も美しい”って言われたよ」


「何、そのパワハラのような、セクハラのような微妙な口説き文句……わからない! 地獄の基準はどうかしている……」


挿絵(By みてみん)


次に登場したのは、吸血鬼令嬢カーミラだ。

漆黒のドレスに紅のルージュが妖しい。

彼女は、ステージの中央で恭しくお辞儀をした。


「わたくしは、愛のために百年待ちました。もし今宵、再び血が燃えるなら……それを運命と呼びましょう」


ルシファーが一歩前に出た。


「“待つ”というのも、愛の形のひとつだね。だけど……待ちすぎると相手を失うばかりか、自分の人生も無駄にするんだよ」


カーミラは瞳を伏せ、微笑んだ。


「愛って、あなたに少し似ているわ。危険なほど綺麗で、壊れそう」


ルシファーは答えず、ただ微笑むだけだった。

その静けさが、観客をさらに熱くさせた。


黒須の拳がわずかに震えた。


(……何だろう、この感じ?)


ルカはそんな彼を横目で見て、少しだけ複雑な表情を浮かべた。


(まさか、こいつ、ルシファーがカーミラに微笑んだのを見て、……嫉妬してる? やっぱ、そういう関係だったのかーっ? こいつ、バイセクシャルか?)



三人目の登壇者は……アスモデウス。

地獄総務課のバリキャリOL。

つい先日、黒須のマンションを訪ねて来た悪魔だ。

スーツ姿でステージに現れ、資料を片手にマイクを取った。


「恋愛に必要なのは、戦略と数値化です。本日は“効率的愛情マネジメント”について、プレゼンします」


ルシファーが笑みを浮かべた。


「へぇ、愛を効率化? 興味深いな。だが、愛の不効率さこそ、美しいんじゃないかな」


アスモデウスは目を細めた。


「反論します。理論なき愛は破滅です」


ルシファーは余裕で切り返した。


「破滅を恐れたら、恋などできない」


会場は、一瞬時間が止まったように静まった。

だが、……一斉に拍手が巻き起こった。


ウリエルは通信でつぶやいた。


―「……さすがルシファーです。恋愛トークでTEDテドできそうっすね」


黒須も感心してしまった。


「あいつは、地獄プレゼン王だからな」


司会席に戻ったルシファーは、ふと視線をこちらに向けた。


「さて……次は観客席からの特別参加者だ」


黒須が思わず顔を下げた。


「視線を合わせたくない……」


ルシファーの口元に笑みが浮かんだ。


「天界代表、“ルカ・セラフィム”。君の“愛の定義”を、聞かせてもらおうか」


黒須はルシファーが自分ではなく、ルカを指名して茫然とした。


「え! ルカかよ!」


空気が一変した。

ルカは微動だにせず、まっすぐルシファーを見つめた。


「あの? 黒須先生じゃなくてわたしでいいの? えーっと……わたしは、……愛を定義できません」


「ほう?」


「愛は、感じるもの。雄弁に語るより、自然に湧き出るもので、定義したらそれは偽物です」


会場は静寂に包まれた。

ルシファーは一瞬だけ、瞳を細めた。


「……詩人だね。だが、君のその光は……あまりにもまぶしいな」


彼は歩み寄り、ルカの頬に手を伸ばした。

黒須が思わず立ち上がった。


「おい、何して……!」


指先が触れる寸前、

ルカはルシファーの手を掴み、低く言った。


「司会者が参加者に触れるの、ルール違反じゃありません?」


ルシファーは笑って、ゆっくりと手を引いた。


「ふっ、そうか。やっぱり君は天使らしいな。……だけど、ルールより大事なことだと思ったんだけど?……愛ってやつは。違ったか?」


黒須は、何か言い返そうとしたが、感情が高ぶり過ぎて言葉にならなかった。


「……っ!」


そのとき、ウリエルの通信が割り込んだ。


―「黒須さん! 心拍上昇120%! 嫉妬反応出てます!」


「黙れ、ウリエル!!」


会場のライトがやや落ちた。

暗めのステージで、ルシファーがマイクを持ち、締めの言葉を口にした。


「いいねー。さすが、天界の天使エージェントは違うね。これが“愛”だよ。論理でも、呪いでも、血でも、効率でもない。ただ、ひたすら心をかき乱すもの。

 ……さあ、次は誰の心を、堕とそうか?」


「「「キャー!ルシファーさまぁ!」」」


観客の歓声が地獄を震わせた。

そしてその歓声の中で、黒須は確かに感じていた。

……自分の中の“理性”が、少しずつ壊れていくのを。




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