第47話 花火のあとは、“めでてぇ気分で
花火大会のラスト。
五十連発の花火の後、大輪の花火が咲くとそのまま金色のしだれ柳となって消えた。
ギターの余韻が静かに夜へ消えていく。
まるで、ルカに届かなかった黒須の告白のように……。
次の瞬間、ロクさんが高らかに叫んだ。
「たまやーーーっ!」
SNSとテレビは、一斉に花火のラストを配信していた。
それを見て世界中が感嘆の声を上げた。
こうして……ハルマゲドン駅伝は、史上最大の花火大会で幕を閉じた。
夜空の光が静まり、生徒たちはまだ興奮冷めやらぬ様子だった。
「これって、俺たちで地球を救たってこと、で、合ってる?」
「うん、だと思う」
「あの選曲って誰がしたの?」
「さぁ……青葉学院高等部の放送委員とか?」
黒須は手をパンパン叩いて、生徒たちを解散させた。
「はーい、お疲れさーん。
恐怖のハルマゲドンはみんなのお陰で、青春のハルマゲ丼駅伝となった。
そして、ラストは大花火大会で幕を閉じましたー!
みんなで、……世界中のみんなで、地球を救たってことだ。
お疲れ様でしたー。ネットで応援してくれたみなさん、どうもありがとうございましたー!」
「先生、明日って、代休ですかー?」
マルが手を挙げて、急に現実的な質問した。
「ええーっと、青葉学院高等部。校長から代休とは聞いてないから、現時点では普通に登校してくれー」
「ええ? 僕たち世界を救ったのにぃ!? ちぇっ」
「じゃ、青葉学院高等部はここで解散。みんな、気を付けて帰れよー」
「「「はーい」」」
生徒たちは、ぞろぞろと駅に向かって歩き始めた。
だが、黒須はダニエルたちを呼び止めた。
「ああ、マル、イワン、マリ、ダニエル! その四人は残ってくれ」
「海岸の掃除っすかー?」
「まあ、そう言うなよ。それもあるけど、飯ぐらい奢らせてくれ。一応、お疲れ様会的な」
「やったー! 飯!」
「イワン、喜ぶのはまだ早いわ。黒須先生のことだもの、また居酒屋かもよ」
「それは、違う。安心しろ、進藤マリ」
「本当かしら」
生徒たちと黒須は、おしゃべりしながらゴミ拾いしていた。
「それにしてもさー、あの花火大会の選曲って誰?」
「そうだ。白鳥が現れて、白い翼で覆う演出。あれって、奇跡じゃない? 奇跡って、ウリエルさんがやったの?」
ウリエルは器材を片付けていた。
「それは……言っていいんすかね、先輩」
折れた翼を隠しながら、ルカも黙々とケーブルを巻いていた。
「別に。言っても言わなくても、もうバレバレだわ」
「じゃ、言っちゃいます。あの奇跡は、ルカ先輩と黒須さん、そして僕でやりました。選曲はAIの自動選曲です。ぼくのセンスじゃ、先輩みたいにはできませんから」
黒須は手を止めた。
ルカも顔を上げる。
「……お前、それ本気でAIのせいにすんのか?」
「え? だって、そういう設定にしたじゃないっすか」
「いやいや、俺、そんな無粋なAI知らねぇよ」
ルカが黒須をちらりと見た。
頬が、少し赤い。
「……まさかとは思うけど、黒須先生……あんたが?」
黒須は苦笑しながら後頭部をかいた。
「……まあ、全部ばらすとだな。曲はAIじゃなくて、俺が選んだ。
もしルカが……いや、ルカ先生が、生きていたら、これを選ぶだろうなって思って」
その言葉に、ウリエルが慌てて手を振った。
「ちょ、黒須さん、その言い方は……!」
「はぁ?! もし、生きてたらって、あんた、わたしが死んだ前提で選んだの?」
ルカの怒号が冷たく黒須に突き刺さった。
あまりの冷たさに、黒須は失言をウリエルのせいにした。
「へぇ、ウリエル、お前にしちゃ気が利いてんじゃん」
「は? 誰? ウリエルのせいにしてんの!? 違うでしょ! バカ!」
今度はルカの拳が黒須の腹に突き刺さった。
「ぐはっ! ちょ、待っ……!」
痛みに顔をしかめながらも、黒須は笑っていた。
「しかし……ルカに殴られると、生きてるって実感するわ」
「そう。なら、もう一発いっとく?」
「や、やめてくださいルカ先輩ッ! 黒須さんの命が危ないッス!」
「口を慎め、ウリエル! ここは許しちゃダメなとこよ」
許されない男、黒須サトルは、恋愛不器用にもほどがある。
しかも、殴られて喜ぶなんて、そういう性癖だったのか。
ロクさんが、ダニエルの胸ポケットから顔を出した。
「へいへい、黒須のだんなァ、女房の尻に敷かれてよろこんでる……。そういう“めでてぇ気分”ってぇわけでござんすなァ」
「間違いないっす」
ウリエルが肩をすくめた。
「……それって告白じゃねーの?」とイワン。
「つっこむなら、そこだよな、普通」とマル。
「ウリエルさんも、黒須先生の反応は想定外だったろうね」とマリ。
「いや、ウリエルさんなら、予測変換してやんしたね!」とロクさんがオチをつけた。
生徒たちは大笑いした。
ルカは深く息をつき、空を見上げた。
黒くなり始めた夜空には、花火の残光がまだ薄く漂っている。
(……ほんと、地獄みたいに騒がしいけど。悪くない、チームだわ。この学校に来てよかった)
その時だった。
広場の中に、二つの柱が現れた。
一つはまばゆい白の光。もう一つは深く赤黒い影。
天界と地獄の回線が、同じ空間に同時接続されたのだ。
白い光の柱の中で、大天使ミカエルとガブリエルがひざまずいている。
生徒たちは恐怖で固まった。
本能的にルカは天界の柱へ向かい、黒須は生徒たちを守る形で立ちはだかった。




