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ハルマゲドン始まったってよ ~堕天使教師とマッチングしたのは天使エージェントだった~  作者: 白神ブナ
第一章 ハルマゲ丼

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第46話 奇跡の大花火大会

挿絵(By みてみん)


 ハルマゲドン駅伝のフィナーレは、まさかの大花火大会だった。


お台場の潮風公園に、クラシックの交響曲が流れた。

ホルストのジュピターの旋律に合わせて、爆発の衝撃波は花弁の形を描いた。

色とりどりの光は、日本列島の上空を照らした。

戦争のために作られた兵器が、誰かを傷つけることなく、ただ美しい火の花々に変わっていく。


ロクさんの実況でダニエルたちは笑った。


「だんな、これはもう花火ってんじゃなくて、銀河大相撲大会の打ち上げでぃ!」


黒須はボソッと、ルカに話しかけた。


「……ジュピターって木星だろ。俺さぁ、宇宙へ逃げる話、しなかったっけ……」


「よくもまあ、世界がまさに終わろうとしているときに、逃げようなんて思ったわね」


「はい、すみません」


大怪我をして死にそうだったルカが、いつものように罵ってくれるだけで、黒須は幸せだった。


「ところでさー、爆弾怖いで集まった兵器なんだけど……、これを処理できるのは、堕天使しかいないよね。その役割、ちゃんとわかってる?」


ルカが花火を見上げてそう言うと、黒須のやる気スイッチが入った。


「ご、ごめん……、ちゃんと処理してくるっ!」


挿絵(By みてみん)


有言実行、黒須は翼を広げて夜空に飛び立った。

そして、頭上に迫ってきた核弾頭ミサイルを両手で受け止めると、ふうっと息を吐き、黒い翼を広げ、奇跡を放ったのだ。

宇宙の闇に向けて放り投げられたそれは、太陽系の外で巨大な大輪の花を咲かせた。


地球を覆うほどの色とりどりの光が広がり、世界中の人々が歓声と涙と笑いに湧いた。

地球のある場所では、それは彩雲になって見えた。


黒須は地球を見下ろしながら、ぼやいた。


「ルシファーさん、俺のこと……絶対怒るだろうなぁ」


しかし、その横顔は、不思議と晴れやかだった。



 花火大会の中盤、流れる曲は、軽快なリズムに変わった。

《天国と地獄》のギャロップに合わせて、赤青黄の花火がテンポよく打ち上がった。

ドカンドカンとユーモラスな花火が連発。

ロクさんの実況も調子がいい。


「おっと! こいつぁ運動会の騎馬戦か、大江戸玉入れ大会か!」


観客が大爆笑。

SNSは「# 世界滅亡かと思ったら運動会だった」でトレンド入りした。


「すごい……!」

「花火で、走ってるみたいだ!」

「この曲、運動会で聞くよね」

「あはは、そうだ。運動会!」


連続して咲き乱れる光の華は、まるで世界中の人々が手を取り合って踊っているようだった。

SNSのコメント欄もお祭り騒ぎになり、日本から、そして世界からコメントが寄せられていく。


 そして……、最後の音楽が、しっとりと響いた。

静かなギターのアルペジオ。

やがてドラムが加わり、ベースが唸った。

《白鳥の湖・ロックアレンジ》。


風が止まり、すべての視線が空を仰いでいた。

青白い火花が舞い上がり、ひとつ、またひとつと光の羽を描いていく。

それはまるで、夜空に帰る天使の翼のようだった。


挿絵(By みてみん)


 ルカが両手を広げると、白い炎が尾を引いて大輪を描いた。

折れた翼で、東京湾を抱きしめるようにして、白い光の奇跡をおこした。

黒須の足元から眩い光が走った。

……兵器だった爆弾が、次々に様々な花に変わっていく。

ミサイルは花弁となり、地雷は星屑となり、

戦いのための爆発音は、すべて「祝福の音」にさえ、聞こえる。


ギターソロが炸裂した瞬間、空に巨大な白鳥が姿を現した。

その羽ばたきが夜空を覆い、火花がしぶきをあげた。

花火は白鳥の形を描きながら夜空を舞い、最後に大きな翼となって地球を包み込んだ。

悲しみも罪も、全部光に変えて……世界は静かに、救われた。

ルカの祈りが、風に乗って聞こえて来た。


「明日も、ずっといい日が続きますように……」


黒須は空を見上げ、ルカの言葉に心酔した。

その横顔は、世界を救った者の晴れやかな顔というより、地球を愛してやまない神聖なる存在そのものだった。

堕天使が触れることが出来ない、神聖なるもの。



 だが、黒須という堕天使は……やはり、やらかしてしまった。

この堕天使は、恋愛偏差値0とは、今まで説明して来たとおり。

何を思ったのか、花火にも音楽にも負けじと、ただひとりの天使のために叫んだ。


「ルカぁーー!! 俺はお前とずっと一緒にいたーい!」


――ドォーーーン!!!


その声は、花火の轟音に、見事かき消された。

ルカは空を見上げたまま、静かに微笑んでいた。

これは……たぶん聞こえていない。


「……ってか、聞こえてねぇのか」


黒須は苦笑しながら頭をかいた。


花火が最後の大輪を描き、ギターの余韻が静かに夜へ消えていった。

落胆している黒須を見て、ウリエルは肩をすぼめた。


「黒須さんって、ほんと学習しないんだね。花火大会の告白=爆音でかき消される、の方程式。わかりそうなもんなのに」


そこをまだ高校生のダニエルが、必死に弁護した。


「いや、黒須先生は“人類を救うために不器用でいろ”って、たぶん神様に言われてるんだと思う」


「いや、悪魔に言われてんでしょ」


と、ウリエル。

そして、ロクさんまでも。


「へいへい、黒須の旦那、惚れたもん負けって寸法でさぁ!」


「ふっ、確かに……。ルカ先輩に夢中になり過ぎて、冷たくされたりすると、喜びを感じているみたいっすよ。ロクさんも、うまいこと言うなぁ」


そんな冗談を、ウリエルは生徒たちとじゃれあって、笑いとばしていた。

冗談を飛ばしているウリエルは、これから起ころうとしている恐怖を、忘れようとしているかのようだった。

ウリエルは、わかっていたのだ。


(この花火大会が終わったら、天界も地獄もこのままでいるはずがない。……ルカ先輩も黒須さんも、裁かれる)



そのころ、

大花火大会が繰り広げられている様子を、レインボーブリッジのてっぺんで眺めている二つ影があった。


挿絵(By みてみん)


「……いいかな。一旦持ち帰りたい」


先に口を開いたのはミカエルだった。


「本部に。どうやって一千万も待機している天使を、戦時体制から引かせるのかを考えると、とても正気ではいられない」


「フン、一千万の悪魔に武器を置かせて、仕事に戻らせることよりマシじゃないか」


ミカエルと一緒にいた男は、堕天使ルシファーだった。

大昔、ミカエルによって天界から堕とされた元天使で、黒須の上司だった。

地獄の管理職ルシファーが、大天使ミカエルと一緒に花火を見ていた。


「終わらせるはずが終われなくなった。さあ、どうやってサタンのとっつぁんを鎮めたらいいんだ。……誰が悪いかだけは、はっきりしている! 黒須、あのバカ……。ガブリエルから話は聞いていたが、あのルカって天使、あいつも要注意だな」


「ああ、うちのルカも、翼を折った程度じゃ済まされないかも……、本部しだいだが」


「しょがないな。一旦、持ち帰るか………」


レインボーブリッジのてっぺんから、二つの影が消えた。


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