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ハルマゲドン始まったってよ ~堕天使教師とマッチングしたのは天使エージェントだった~  作者: 白神ブナ
第一章 ハルマゲ丼

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第44話 「死神」

黒の騎士とダニエルの落語対決が始まった。


ダニエルは、隠れ落語ファンだ。

普段は、学校で使わない江戸っ子口調で話し始めた。


「これって……ふーん、そうかい。よっしゃ、わかりやした! 黒ぇ騎士のだんな、すんませんがね、ちょいとあっしも準備すっから、ちょいと待っておくんなせぇ!」


黒の騎士は、これから真剣勝負に出るというのに、出鼻をくじかれた。


「おいおいおいおい、坊や、何ぬかしてやがんでぃ! 敵に向かって“待ってくれ”たぁ、聞いたこともねぇ台詞だ! 準備もできねぇでどうすんだい!」


「だってあっし、走ってきたばっかで、何も持ってねぇんでさァ……」


「何も持ってねぇのはしょうがねぇ、てか? バカ言うんじゃないよ、しょうがねぇなァ。よっしゃ、待ってやるから、五秒で用意しな!」


「へい、ありがとうござんす!」


ダニエルはスニーカーを脱いで、浅黄色の羽織にスッと袖を通すと、紫の座布団にチョコンと正座した。

扇子を手前に置いて、右横にスッとすべらせ、深々と頭を下げた。


「へい、お待たせしやした。――どうぞ、始めておくんなせぇ!」




黒の騎士は深々とお辞儀をして、静かに声を響かせた。


「えぇ……昔から……」


語りが始まると同時に、空気が異様にひんやりとした

黒の騎士は、落語の枕を語り始めた。


挿絵(By みてみん)


「え〜、昔っから“流行りすたり”なんてぇことを申しやすが、

こいつぁ、なにも人間ばっかじゃござんせん。

神サマ仏サマの世界にも、ちゃんと流行りすたりってもんがありやしてねぇ。

ま、神サマっつっても、中にはありがたくねぇのもおりまして……

疫病神、貧乏神、そいから死神なんてぇのは、どうにもこうにも人様にゃ歓迎されねぇタチでござんす」


ダニエルは、黒の騎士が落語の「死神」を始めたとわかった。

それは、黒須とウリエルの予想通りの展開だった。

ダニエルはわざとらしく不思議そうな顔をして黒の騎士に言った。


「爺さん、おやおや、妙なこったなァ。ハルマゲドンてぇから、てっきりキリスト教の地獄の騎士かと思いやしたぜ。なんせ、あちらさんは一神教でさァ、疫病も貧乏もみんな神サマにしちまうなんざ、日本人みてぇじゃござんせんか」


「なんだい、失礼な野郎だな。落語の枕で茶々入れるたァいい度胸じゃねぇか。おめぇさんこそ、その面構えは日本人じゃねぇのかい?」


「へい、あっしはエゲレスの血と日本の血が半分こづつでござんす」


「へェ、そうかいそうかい。今の若ぇもんの言うハーフってやつかい。……で? ハルマゲドンの封印を解いたってぇのは、ほかでもねぇ、おめぇさんなのかい?」


そう言われると、ダニエルにじわりと罪悪感が湧いてきた。


「……」


そのとき、黒須の声が、スマホのスピーカーを最大にして響かせ、群衆越しに叫んだ。


「ダニエルー! そのネタ、もっとを取れー!!」


ダニエルは、黒須の声援を聞いてはっきりと返事をした。


「へいっ! 先生、聞こえておりやす!」


黒の騎士は、ダニエルの罪悪感を増幅させようと、ダニエルに関する質問をしてきた。


挿絵(By みてみん)


「でぇ? いくつでぃ?」


「……」


じわりと黒の騎士は、ダニエルの奥底にある弱味を刺激した。

展望デッキには、スマホをかざした若ぇ衆に、SNSで釣られてお台場までのこのこやってきた野郎どもが、みんなダニエルの出方に目をこらして、息をのんだ。


「……へい、数を聞いてくるヤツぁ、用心すんと決めてんでさァ」


「へ! てやんでぇ! ずいぶんヘンテコな決め方だなァ」


「勘定をごまかされちゃ、たまったもんじゃござんせんからね」


「ほうっ、なるほど『時そば』か。こいつぁ一本取られたねぇ」


黒ぇ騎士が、くっと笑った。

観客からもクスクスっと笑いが漏れた。

黒の騎士は、今度は真面目な顔して切り込んできた。


「ちげぇよ、 聞いてんのは坊やのトシでぃ!」


「へい、十六でござんす」


「おぉ、若ぇのに勘が鋭ぇじゃねぇか。坊や、おめぇが呼んだのかい? 地獄から四騎士をよォ」


「へい、なんだかよくわかりやせんが、黒ぇヤギのロクさんがペラペラしゃべり出したら、嵐がやってきて雷にドカンと打たれて、こいつぁ……こうなっちまいやした」


「四騎士ってぇのは、白ぇとこから順に呼んだのかい?」


「それが、わかりゃしねぇんで、……わかんねえから、全員まとめてドンと呼んじまいやした」


「へっ、そいつぁどんぶり勘定だ! そんなんじゃ、『時そば』のほうが、まだマシってもんでぃ!」


見ていた数人がクスっと笑った。


「だがよォ、わしを呼び出した坊っちゃんよ、なかなか見どころがあらァな。どうだい? 一つわしの弟子になってみねぇか?」


「へ? 弟子って、昆布かカツオですかい?」


「それは、ダシだ。ちげぇよ。弟子だよ弟子! 師匠とか親方について修行するもんだよ」


「修行……」


「そう、修行だよ」


「するってぇと、あっしは、死神になるんですかい?」


「今すぐじゃねぇ。坊やが一生懸命に修行して見どころがあったらそうなる」


「え、えーーー。死神ってぇのは、就業規則とか厳しくないっすか? あと、……アレはどんな感じで?」


「アレって、何だよアレって。あ、あああ給金か」


「へぇ、すんません。労働条件がはっきりしないとには、どうにもこうにも……」


「まあなァ、近ごろは昔みてぇにゃ忙しかァねぇ。病人の枕元か足んとこにチョコンと座ってるだけよ。しかも場所はたいてい病院でい。いいかい、坊や。給金ってのはな、地獄銀行からちゃんと振り込みで来るんでぃ。

ここじゃあ大っぴらにゃ言えねぇがよ……まあ、暮らしにゃ困らねぇ程度には、きっちり出る。安心しな、ヘマさえしなきゃな」


「ほぅ、いいっすね。ひょっとしてよォ、黒ぇ騎士の死神のだんな、昔は日本人だったりしやすか?」


「はぁ? なに言いやがる、バカバカしいこって」


「おっと、こりゃ図星だなァ。わかったぜ、昔は借金抱えて首でもくくろうかと思ってたとこを、死神に声かけられた男……それがお前さんだね!」


「バカ言っちゃいけねぇ。わしがなんで……」


「冗談でい。だったら面白ぇなァと思っただけよ」


「おいおい、心臓に悪ぃぜ。年寄りには親切にしな」


「こりゃまた、面白れぇ。死神に心臓なんざあんのかい?」


「おっとっと、間違えた。つい昔の癖で……あ、言っちまった。……へい、そうでござんす。昔ァ日本人でした」


「マジかよ。ここは否定してくんなきゃ、やりにくいったらありゃしねぇ」


「なんでィ? 坊や、ここでしり込みすんじゃねぇよ。一気に攻め込んできな」


「だって、あっし、死神だけは敵じゃねぇと思ってたんでさァ。ロウソクを管理してんでしょ? あれって悪じゃねぇですよ。人間ァみんな、いつか死ぬんだ。死ぬのァ悪じゃねぇ、平等でさァ」


「おめぇ……。くっ、バカヤロウめ、クソガキが……。死が平等だなんざァ……」


黒の騎士は弱弱しくうつむいた。


ダニエルは真っすぐな瞳で黒の騎士を見つめ、言った。


「たとえここでテメェをぶったおしたってよ、死ぬこと自体はなくなんねぇ。違ぇヤツがまた死神になるだけよ。だったらよ、このまんまでいいじゃねぇか!」


「へっ? 坊や、なんて言った?」


「とにかくよ、このまんまでいいから、とっとと地獄へ帰りやがれ!ってんだよ!」


「え、ええ〜っ?」


ダニエル、スックと立ち上がって黒ぇ騎士の座布団をひっくり返した。

その勢いで黒ぇ騎士は、展望デッキからドドッと下に転げ落っこちた。


――ドサッ。


「アジャラカ モクレン テケレッツのパァ〜!」


そう唱えて、ダニエルが手をパンパンと二つ打つと、死神がスーッと煙みてぇに消えちまった。


挿絵(By みてみん)


「だんなァ! 消えやしたぜ! だんなが消えたんじゃござんせん! 死神の野郎が消えたんでぇ〜〜っ!」


黒ヤギのロクさんが懐から走り出ると、展望デッキから下を見下ろして叫んだ。


目の前の不思議な出来事は、写真や動画でSNSによって世界中に拡散された。


《マジ、超常現象!》

《これ、砂に埋まっただけじゃないの?》

《砂浜側にいたけど、マジで消えた》

《黒ヤギのぬいぐるみが喋った!》

《ヤバい、マジで、超面白れぇー!!》


ルカは黒の騎士が消えたのを見届けると、次の場所へと移動した。


「よくやった……ダニエル。さ、ウリエル、装置を再起動せよ」


黒須はというと……、人垣の中をかき分けて、やっとダニエルの所まで来たが、すでに黒の騎士は消えた後だった。


「おい、ダニエル! 大丈夫かっ!」


「あ、黒須先生……あの、……あっし、黒の騎士を消してしまいやした!」


黒須は、まだ茫然としているダニエルを抱きしめた。


「お前、江戸っ子言葉が染みついてんじゃねーか! 大丈夫か? 褒めてやりたいが、ごめん。たぶんまだ終わらないぞ」


「はい、あっしもそう思います」


「でも、きっと大丈夫だ。ここからは先生も一緒にいるからな」


そう言って安心させようと、黒須はダニエルを抱きしめた。

そのとき、足元のデッキがぐらりと揺れた。

人々は地震かと思って、一瞬固まった。


「地震じゃない! 落ち着け! ……あのかたが怒ったんだ」



黒の騎士が霧散した直後、月も星も漆黒の雲で覆われ、お台場海浜公園一帯に重苦しい声が響き渡った。


―「ハルマゲドンを駅伝に書き換えたうえに……どの区間もリードしやがって……!」

 

地獄の大魔王の怒りが、地の底から吹き出した。


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