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ハルマゲドン始まったってよ ~堕天使教師とマッチングしたのは天使エージェントだった~  作者: 白神ブナ
第一章 ハルマゲ丼

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第41話 3区:豊洲市場・リケジョランナー

 挿絵(By みてみん)

豊洲市場・正門北。

イワンが膝から崩れ落ち、白地に赤のタスキを差し出した。


「頼んだ、マリ。……楽しめば行ける!」


「え、ちょっと、わたしが走るんだっけ!? リケジョ(理系女子)なんだけど!」


「……理系だろうが文系だろうが関係ねぇ! さっさと走れ! ルカ先生も中継を見てる」


「そっか、ルカ先生も見てくれているんだ」


イワンがそのまま、生徒たちに抱えられて退場すると、マリはタスキに肩を通した。


タスキを引き継いでマリは豊洲市場の中を走り始めた。

コースは水産仲卸場棟から水産卸し棟、青果卸し棟までだ。

距離はわずかだが、広大な市場の通路は迷路のように入り組んでいる。


「はぁ、はぁ……わたし、こういうの苦手なんですけど!」


氷床の上を滑りかけ、仲卸のおじさんに「気をつけな!」と怒られた。


「すみませーん!」


その様子は中継車を通してSNSに流され、コメント欄が一気に盛り上がった。


《#理系女子ランナー 草》

《研究者が市場ダッシュしてて笑う》

《でも必死で可愛い》


「酸素摂取量……乳酸値……理屈じゃなくて体力勝負だって……分かってますけどねぇぇ!」


挿絵(By みてみん)


理系らしいぼやきを吐きながらも、マリは必死に足を前に出した。

彼女の背中に仲間たちの声が飛んだ。


「マリ! 理屈だけじゃなく、意地を見せろ!」

「そうだ、お前ならできる!」


「……意地、か」


マリは苦笑し、汗をぬぐいながら再び加速した。

足音が市場の床で響き、タスキが胸で揺れていた。

彼女は理屈ではなく、仲間の想いを走らせていた。



 豊洲市場・正門北。

息を切らせた赤の騎士が、ガス欠と渋滞を乗り越えてようやくたどり着いた。

彼女はバイクを横倒しにし、汗を拭いながら声を張る。


「……ったく、遅れちまったな! ほら、次はお前だ!」


白地に黒のタスキが宙を描き、受け取ったのは……銀色の髪を持つ青の騎士だった。

サングラスの奥から、感情を感じさせない瞳がチラッとのぞいた。


「……飢餓は常に遅れてやってくる。だが、必ず追いつく」


低く呟くと、男はタスキを胸に掛けた。

そして、痩せ細った足で、よろよろと市場の中へ走り出した。


青の騎士が走り出すと、その一歩ごとに、異変が広がった。

氷の上に並ぶマグロが、みるみる灰色に変色していく。

積み上げられた野菜がしおれ、果物は黒ずんで地面に落ちた。

見ていた生徒たちが、次々と腹を押さえてうずくまった。


「うっ……急にお腹が……」

「なんで、体が力入らない……」


 

青の騎士は、どこまでも一定のペースで走った。

決して速くはない。

だが、軽々とマリを追い抜くと、一気にマリを引き離した。

そして、青の騎士がもたらす“飢え”の魔力だろうか。

観ている者から、どんどん気力と体力を奪っていった。

マリは歯を食いしばり、タスキを胸に握った。


「市場が……食べ物が全部……腐っていく……! 信じられなーい」


マリは、化学で証明できない現象に、恐怖を覚えた。


「ふざけやがって!」


(菌か……、雑菌で食料を腐敗させているのね。ふん、なるほど。リケジョを甘く見ないでよ。リケジョにはリケジョの戦い方があんのよ!)


マリは仲間たちの未来を守るために、青の騎士を追って市場内を走り出した。


白い照明の下、痩せた影と少女の影が交差した。

人間の意地と飢餓の象徴が、豊洲市場の通路で追走劇を繰り広げていった。



 やがて、水産卸売場棟の入口が見えた瞬間……マリの顔に安ど感とともに、まだここかという焦りが同時に湧いてきた。


水産卸売場棟を走り抜け、汗だくのマリは仲間の声援を背に、ラストの青果棟へと向かった。

だが、広いホールに足を踏み入れた瞬間、明らかに空気が変わった。

照明がちらつき、冷気が床を這って忍び寄ってきた。


「……来たな」


低い声が響いた。


銀色の髪にサングラス。青白い顔の男が、巨大な青いコンテナの前でマリを待っていた。

青の騎士……飢餓を司る存在。


挿絵(By みてみん)


彼が指を鳴らすと、コンテナの扉がギィィと開いた。

中には、ぽつんとパンが一個だけあった。


「このコンテナには……パンが一つしかない」


青の騎士はゆっくりと笑った。


「さあ、飢えた者たちよ。我先にと奪い合え。お前たちの本性を、私に見せてみろ」


ざわざわと、生徒たちの胃袋が軋むような錯覚が広がった。


(腹が減った。さっき昼食を食べたはずなのに――)


「うう……なんで……」

「おなか……すいた……」


クラスメイトたちが膝を抱え込み、苦しげに呻いた。


マリは歯を食いしばり、声を張り上げた。


「みんな、ちょっと待って! 奪い合う前に冷静になって! パンの数が足りるまで、わたしに時間をちょうだい!」


生徒たちは互いに顔を見合わせた。

そして、誰かがルールを作ったのではなく、自然に静かに列を作った。

空腹に耐えながらも、譲り合い、静かに順番を待つ生徒たちの姿に、青の騎士は愕然とした。


「……何だ、これは?」


青の騎士の声に、初めて焦りが混じった。


「人間は、飢えれば奪う。そういう生き物だろう!?」


「いいえ、互いに思いあう生き物よ」


マリは震える手でポケットを探り、小瓶を取り出した。

それは、マリの研究材料の酵母菌だった。

マリは友達に声掛けして、隣のコンテナから小麦粉を持ってきた。

そして、小麦粉に水筒に入ったぬるま湯を流し込んだ。


「お前、何をしている。無駄な努力だ。生のすいとんか? そんなもので飢餓をこえられるか。ふん!」


青の騎士はマリの行動を見ると、鼻でせせら笑った。

それでもマリは動きを止めなかった。

懸命にパン生地をこねて、小瓶の酵母菌を、コンテナの中に振りまいた。


「……この子たちがいれば、量は増やせる。でも……発酵には時間が……。どうしよう、間に合わないかも……」


彼女は祈るように瓶を握りしめた。

だが、飢餓の圧力は強まっていく。仲間の顔から力が抜け、今にも倒れそうだ。

青の騎士はニヤリと笑った。


「時間など与えない。飢餓は常に人の思考能力を奪い、時間の観念を失くすのだ。これで東京は終わりだ」


青の騎士が冷酷に告げた。

マリは祈るしかなかった。


「みんなでつないだタスキなのに……わたしの所で途絶えさせてしまうなんて、出来ない……お願い。ルカ先生、助けて!」


そのときだった。



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