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ハルマゲドン始まったってよ ~堕天使教師とマッチングしたのは天使エージェントだった~  作者: 白神ブナ
第一章 ハルマゲ丼

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第40話 2区:芝給水公園 → レインボーブリッジ

 白地に赤のラインのタスキを胸に掛け、イワンは芝給水公園を飛び出した。

東京都心のビジネス街、熱気に包まれた街。

東京タワーを横目に走ると、心臓がドクドクと音を立てていた。


(ここからは俺の区間だ……!)


 彼は陸上部の長距離ランナー。

練習で何度も走ってきた10kmコースを、今度は仲間と未来を背負って走ることに、ワクワクしていた。


その背後から……轟音が聞こえて来た。

ブロロロロロロ……

都内のビジネス街を引き裂くような爆音で、一台の赤いバイクがイワンの走る芝公園エリアへと迫ってきた。


「よォ、次の走者はお前か!」


赤い髪をなびかせた女が、唇を吊り上げた。

女は戦争の象徴、赤の騎士だ。

黒い革のライダースーツにブーツ。

瞳は燃えるように紅く、バイクのエンジン音がまるで咆哮のように響いた。


「戦いにルールはいらない。だけど駅伝だってんなら……走りで決めましょう!」


レインボーブリッジへ向かう芝浦の一般道を走り抜けた。

芝浦ふ頭からレインボーブリッジを向かうと、道路は大きな螺旋状の急カーブの上り坂になる。

箱根駅伝に憧れているイワンにとって、挑戦しがいのある難所だ。



 午後三時頃。

湾岸を渡る潮風が、白く光る螺旋状の急カーブを吹き抜けていた。


(橋だからか、思ったより風が強いな……)


イワンは腕時計をちらっと見た。


(上り坂で海風を受けながら走れば、体力が奪われる。どれだけ自分のペースで登り切れるかが鍵だな)


イワンは、タスキを思わず握りしめた。

額に汗を浮かべながらも、瞳はまっすぐ正面を見据えていた。

自分の呼吸を乱さないように、走りに集中している。

そんなイワンの横をバイクで蛇行運転しながら、のんびりと追い越していく赤の騎士。


挿絵(By みてみん)


「こんなんじゃ、勝負にならなんだけどー? 人間の走りであのレインボーブリッジを渡り切れると思ってんのー?」


「……走って……繋ぐ」


「へえ……走って、ねぇ。ハハハハハ!」


赤の騎士はバイクのエンジンを再び唸らせた。

轟音と共に、排気ガスがアスファルトを焦がす。

女は長い赤髪をかきあげ、挑発的に指を立てた。


「戦いって大好き。勝ち負けを決めるには、“決着”が要る。走りで決着つけるんなら……わたしも全力で叩き潰すしかないわねー!」


エンジンの火花が散り、橋の鉄骨が共鳴した。

しかし、イワンは煽りに乗らない。

ただ一歩、二歩と前傾姿勢を取っていた。

陸上部の長距離ランナーとして培った全てを、この一戦に込めるつもりだった。

だからこそ、自分の体力配分を考えて、走っていた。


「……!」


「かかって来いや、人間ッ!」



長い螺旋状の急カーブを登りつめると、いよいよレインボーブリッジ一般道だ。

一般道の横には遊歩道がある。

遊歩道には、青葉学院高等部の生徒たちが応援に来ていた。

田町から芝浦まで移動し、エレベーターに乗って遊歩道に入ったのだ。


挿絵(By みてみん)


「イワン!! がんばってー!」

「青葉学院高等部、陸上部の意地を見せてくれーー!!」


仲間の声援に背中を押され、イワンの足取りは軽くなった。


バイクの轟音とマラソンシューズの足音。

戦争を象徴する赤の騎士と、青春を背負ったランナー。

二人が、傾き始めた太陽を浴びて、レインボーブリッジで並んだ瞬間……。

女はバイクをわざと並走させ、挑発するように前輪を横滑りさせて再び火花を散らした。


イワンは唇を結び、前を向いたまま、出来るだけ反応しないようにした。


(走りで決めるなら……俺は負けない!)


レインボーブリッジの一般道は、謎の工事表示によって封鎖され、即席のランウェイと化していた。

それは、ダニエルの父の許可の元、一時封鎖状態が取られていたからだ。


 そこへ、白い中継車が現れた。

ウリエルが実況をネットで中継し、黒須が助手席から檄を飛ばしていた。


「イワン! フォーム崩すな! 長距離はリズムだ!」


(……はぁ? 黒須先生、何やら監督ぶってますけど、全然陸上の経験ないよね)


イワンは心で思ったが、声に出すと無駄にエネルギー消費するから、黙っていた。

ところが、黒須は堕天使だ。

イワンの心を読むなんてお茶の子さいさいなのだ。


「うるさい! 気合いだ、気合い!」


(読心術かよ?!)


観客の生徒たちも給水ポイントに並び、自前で旗を作り声援を送った。

SNS配信のコメント欄も熱を帯び始めた。


《レインボーブリッジで駅伝www》

《赤いバイク女つよそう!》

《イワンがんばれ!》


SNSを見た人たちが、レインボーブリッジの遊歩道ノースルートにどんどん集まってきた。



 ブリッジの真ん中に差しかかるころ、イワンの呼吸は荒くなっていた。

汗が目に入り、視界が滲んだ。

そんな彼の前方に、仲間のクラスメイトたちが給水所を作って待ち構えていた。


「イワーン! 水!」


声援と共に紙コップが差し出された。

だが、緊張で手元が狂い、水はイワンの顔面にバシャッと直撃した。


「ぶはっ!」


びしょ濡れになったイワンに、観客もSNSも大爆笑した。


《給水失敗www》

《顔面ウォーターwww青春すぎ》

《でもイワンかっこいい…》


イワンは笑いながら、残った数滴をすすり、再び走り出した。



 一方その隣……赤の騎士のバイクが、突然ゴホゴホと咳き込むようにエンジン音を途切れさせた。


「……は? ちょ、ガス欠!?」


 赤の騎士は慌てて停車し、通信機を手に取った。


―『赤の騎士さんですか? こちら地獄給油班。ただいま渋滞中、到着まで三分かかる』


「三分!? 戦争にタイムアウトなんかあるかぁぁぁ!!」


女は、持っていた通信機を道路に叩きつけて怒った。

赤の騎士という名誉を捨てて、女は叫びながら、バイクを押して進むハメになった。

その姿にコメント欄はさらに盛り上がった。


《ガス欠は草》

《戦争=燃料問題ってリアルすぎる》

《これ勝てるぞイワン!》


挿絵(By みてみん)


しかし……SNS越しに飛び込む声援が、彼の足を前に押し出した。


《まだいける!》

《走れ!》

《世界の未来がタスキにかかってる!》


そんな中、運転席のウリエルは黒須に何かを伝えた。

それを聞いて、黒須は大きく頷いた。


「イワン! がんばれー、この中継はルカ先生も病院のベッドで見てるってよ――!」


(ルカ先生が?)


「ルカからのコメントだ。『駅伝を心の底から楽しめ』以上!」


イワンは、ルカのコメントに笑顔で応えた。



レインボーブリッジを降りて、一般道のお台場から有明テニスの森交差点を抜けた。


 そこへ観光バスが一台、有明テニスの森で立ち往生していた。

乗客たちが窓から身を乗り出し、奇妙な駅伝をスマホで撮影している。


「やべ、塞がれてる!」


黒須が叫んだ。


「……僕に任せて!」


中継車のハンドルを握りながらウリエルがつぶやいた。


次の瞬間、信号が全て赤に固定され、車列が一斉に止まった。

観光バスの運転手は戸惑いながらも、車体をゆっくり後退させた。


「よし、道が開いた!」


「ウリエル、お前……後で正座な!」


黒須のお叱りが助手席から飛んできても、ウリエルは涼しい顔だ。


「天界エージェントなら、よく使う手っすよ」


「何だって? どっちが悪だか、わからなくなってきた……」



 そのころ、赤い騎士は炎の軌跡を残して、加速したい気持ちだけが空回りしていた。

今度は、赤信号の渋滞に巻き込まれたのだ。

SNSのコメントは、その様子も笑いに変えていた。


《ガス欠なら、バイクの意味ない》

《いっそのこと、バイク捨てて走った方が、早くね?》

《騎士だから、バイクを捨てるという発想が無いのかも》

《それは、ご苦労さん》


「まだ終わらんぞ、人間!」


赤の騎士の叫びが聞こえたのか、空耳だったのか、イワンは心で言い返した。


(終わらせるさ。……俺たちのタスキを渡すために!)


イワンはラストスパートをかけた。


応援の生徒たちの声が、東雲運河で一斉に盛り上がった。


(ルカ先生。俺、今、ものすごく楽しいかも)


東雲運河を渡ると、夕焼けに染まるイワンの影が、並走したまま豊洲市場正門へと迫っていった。


 夕陽が橋を赤く染める中、イワンの影を赤の騎士がバイクを押して追いかけて来た。

次の走者・マリは豊洲市場の正門でイワンの到着を待っていた。


赤い騎士はバイクを押しながら、最後の直線で咆哮を上げた。


「待ちな! ガキはお家でおとなしく、スマホゲームでもして遊んでな!」



イワンは最後にチラッと後方を振り返った。

赤の騎士までの距離を見て、ある確信が湧いてくると、胸の奥からしぼり出すように声を張り上げた。


「行ける!」


給水で転んだクラスメイトの笑顔。

必死に声を枯らす観客の応援。

画面越しにサポートするウリエル。

背中を押してくれた黒須のぼやき。

その全部が、イワンの脚にもう一歩を刻ませた。


赤の騎士の咆哮を振り切るように、イワンはゴールラインを駆け抜けマリにタスキを渡した。


(……勝った)


膝から崩れ落ちるイワンの肩を、生徒たちが慌てて抱えた。


「頼んだ、マリ。……楽しめば行ける!」


その背後、青白い顔した青の騎士が、青いトレーラーから降りて来たところだった。


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