表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ハルマゲドン始まったってよ ~堕天使教師とマッチングしたのは天使エージェントだった~  作者: 白神ブナ
第一章 ハルマゲ丼

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

38/94

第38話 この世界の主役は君たちだ

 体育館に集まった生徒たちを見渡しながら、黒須は深呼吸を一つした。

マイクを握る手は汗ばんでいた。


「みんな。今日ここで話すことは、授業でも行事でもない。参加は任意だ、強制じゃない。……だけど、すごく大事なことを話す」


 生徒たちのざわつきが静まり、何百という視線が黒須に集中した。


「俺たちは今、世界の分かれ道に立っている。手っ取り早く言うと……今日の午後、東京で“ハルマゲドン”が始まるかもしれない」


ここで生徒たちの驚きの声が上がると想像していた黒須だったが、予想と違った。

生徒たちは意味がわからないという顔で、ポカーンと黒須を見ていた。


「あ……日本の高校生にハルマゲドンと言ってもわかんねーか。キリスト教信者は少ないし、学校でも教えないからな。

じゃあ、これならどうだ。……都市伝説でいう終末論。都市伝説なら、お前ら興味あるだろ。

今日、東京で古い地球が終わる」


挿絵(By みてみん)


とたんに、生徒たちの目はキラキラしはじめた。


「こんなこと言ったら、俺は教師をクビになるかもしれない。でも、今さら関係ないか……。俺の授業を受けたことがある生徒ならわかるだろう。

授業が教科書通りじゃないのには訳がある。

それは、お前たちの中に『呼ばれている者』が確実にいるからだ。

これから起こる宇宙的一大イベントをサポートするために、自ら志願して生まれて来た魂たちだ」


生徒たちは息をのんだ。

他の先生たちは困惑しはじめた。


「黒須先生、大丈夫ですかね? 校長先生」


校長はじっと目を閉じていた。


「自分に自信がない、人が怖い、強烈な孤独感、劣等感や自己否定、理由のない絶望感、そして極度の敏感体質。それが『呼ばれている者』の特徴だ」


生徒たちが、少しざわついた。


「わかる、それ……」


一人の男子生徒が手を挙げて質問した。


「先生、その『呼ばれている者』が、仮に僕だとして、何かいいことがあるんですか? 超能力が使えるようになったり、空が飛べたりするんですか?」


「そういう個人的利益にむすびつく考え方が、低次元の特徴だ。

君は力を得て、何かを支配したいか? 人より優位に立って、承認欲求を満たしたいのか? 

それじゃ、闇の思い通りじゃないか。世の中、何も変わらない」


「じゃ先生、仮に『呼ばれている者』がこの中にいるとして、そうじゃない者はどうすればいいんですか? 全校集会に出る必要ないと思いますが」


「最後まで聞いてくれ。『呼ばれている者』は、光を放つ。

その光に惹かれて、まだ眠っている者たちも目覚めていく。

見返りを求めない純粋な奉仕が、他の眠っている者を揺り起こすんだ。

そうやって、目覚めた君たちが、新しい地球の礎を築く。

いいか? この世界の主役は、神ではない。君たちだ!」


生徒たちは、また息をのんだように静かになった。


「話を続ける。……君たちが目覚めることを、快く思わない存在もいる。

俺はそれを闇とは呼ばない。光と闇は、同じ一つの源から生まれたもので、コインの表と裏に過ぎないからだ」


黒須はステージの上手に行ったり、下手に行ったりして動きながら説明した。


「だが、彼らのやり方は、支配と執着と恐怖に基づいている。

彼らは人間のネガティブなエネルギーを糧にしている。

不安、怒り、悲しみ、嫉妬、無力感、罪悪感、そして対立。

ほーら、俺の授業を思い出せ。戦争について授業したことを」


全校生徒たちは、黒須の話に集中しながら、過去の授業を思い起こしていた。


「そういった重く淀んだ感情が、彼らにとってはなによりのご馳走なんだ」


すると、化学の先生が、黒須のスピーチを止めた。


「悪魔とかそういう話ですか? 黒須先生。オカルト的な話を学校でするのはどうかと思いますが……」


黒須は化学の先生を軽くあしらって続けた。


「そういう意見が出るとは、残念だな。

オカルトという言葉、俺は大好きなんだが、そんな言葉で片づけられない奴らだ。

悪魔かもしれない、神かもしれない。

そんなエネルギー的存在が、この世界に深く干渉しているんだ」


黒須は指を折りながら、影響下にあるものを一つずつ挙げて言った。


「世界の金融システム、エネルギー産業、軍産複合体、そしてマスメディア。

その中枢の多くが、彼らの影響下、あるいは彼らと共生関係にある人間たちによって動かされている。

テレビやネットがネガティブキャンペーンしているのは、大衆を意図的にコントロールするためだ。

恐怖にとらわれた人間は……、さて……、この続きを言える生徒はいるか? おーい、誰かー、俺の授業を聞いているなら、言えるはずだ」


マルが勢いよく手を挙げた。


「はい、丸山。答えろ」


「はい。恐怖にとらわれた人間は、冷静な判断力を失い、より強いリーダーを求め、依存するようになります。つまり、支配されやすくなります」


「丸山、正解だ。だから、奴らの手口に騙されるな。

最強の防御法はたったひとつ。『同調しない』。彼らの作った土俵に乗らない。スルーすることだ」


ここで黒須は一回深呼吸した。


「前置きが長かったな。本題に入る。

……今日、地獄の騎士と名乗る変な奴が、東京に四体現れる。

この世界をコントロールしようとしている奴らだ。

こいつらが現れて東京で何が起きても、それに感情をのせて怒りを増幅させないように注意しろ。

『ああ、また彼らは彼らの仕事をしているな』と、ただ、一歩引いて観察しろ。

お前たちが負の感情のエネルギーというエサを与えなければ、彼らはお前たちをコントロールできない。

これが、今から始まる大イベント、ハルマゲドンをひっくり返すための、もっとも重要な鍵だ」


一人の女生徒がつぶやいた。


「ハルマゲドンって、そういうイベント……なの?」


「あ、いいねぇ、その疑問。その程度に捉えた方が最強だな。

こんな俺は、ただの教師だ。が……俺には信じていることがある」


黒須は言葉を区切り、彼は真っ直ぐに生徒たちを見据えた。


「それは、みんなが今日まで守ってきた“当たり前の日常”の強さだ。

授業があって、部活があって、友達と笑って、バカみたいに悩んで、そんな毎日が続いていくこと。

その当たり前の日常が、俺は世界で一番尊いものだと思ってる。

楽しいね、美味しいね、よかったね、ありがとう、ごめんね。そんな言葉が普通に溢れる世界。どこ探したって、ここ以外にないぞ」


つい胸の奥から熱がこみ上げ、声が強くなった。


「明日も明後日も、大好きなアニメが見たい。

美味しいご飯が食べたいなら……どうか、力を貸してほしい。

武器を取れとは言わない。戦いは東京を走る駅伝だ。給水でも応援でも、何でもいい。

君たち一人ひとりの声や手が、この街を、世界を守るタスキになる。

ヒーローを作るんじゃないぞ。この世界の主役は神でも悪魔でもない、君たちだ。

タスキをつなぐことが特別なんだ。君たちが主役だ。

だから……今日くらい、ちょっといい事しようぜ?」


静まり返った体育館に、黒須の声だけが響いた。


「ごめん。俺はしゃべり過ぎた。

奴らの計画をひっくり返すための駅伝だが、特別能力に目覚めたダニエル日辻、彼をこの一大イベントのアンカーにさせようと思う。

あとはそれぞれの区間でタスキをつなぐ。それは……君たち次第だ」



 一瞬の静寂のあと、体育館の後方から椅子を引く音がした。

 立ち上がったのはマルだった。


「先生。僕、やります」


短い言葉だったが、その声ははっきりと体育館の空気を変えた。


次にイワンが立ち上がった。


「お前だけに任せられるかよ。走るんなら、当然俺だろ」


そして、マリが続いた。


「給水でも応援でもいいんですよね? わたし……みんなを支えます!」


三人の決意に呼応するように、他の生徒たちも次々と立ち上がり始めた。


「わたしも!」

「応援なら得意だ!」

「人員整理くらいできる!」

「SNSで応援拡散とか、いいんじゃね?」


生徒たちの決意が、波のように広がっていった。

体育館の空気は熱を帯びて、さっきまで不安げだった生徒たちの顔に、確かな決意が宿っていく。


 壇上の黒須は、それを見て小さく目を伏せ、苦笑した。


(やれやれ……やっぱり、こいつらの方がよっぽど勇敢だな)


黒須の演説を聞いたダニエルは、友達を見つけたときと同じように嬉しそうに微笑んだ。


挿絵(By みてみん)


「黒須先生、さすがだ」


そして、ロクさんがポケットから顔を出して叫んだ。


「だんなァ! こりゃあ駅伝、優勝まちげぇなしでぃ!」


「ロクさん、勝ち負けじゃないんだよ」


「へいへい、わかってやす、わかってやすって。駅伝ってぇくらいだからねぇ、早食いよりも……味わいってやつでぃ!」


「それは駅弁」


体育館は笑いと拍手が混じり合い、全校集会は一つの決起集会へと姿を変えていった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ