表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ハルマゲドン始まったってよ ~堕天使教師とマッチングしたのは天使エージェントだった~  作者: 白神ブナ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

24/34

第24話 上司への報告

 青葉学院高等部の敷地内に、今は使われていない合宿所がある。


月もない漆黒の夜だった。

黒須は、今日の勤務を終えると、その廃屋のような合宿所にやってきた。

壊れた玄関から、土足のまま中に入り、合宿所の中を歩くと洗面所として使われていた場所に入った。

洗面所には古ぼけた鏡が数枚あって、その中の一枚が地獄へ通じるゲートになっていた。


黒須は鏡に自分の顔を写した。

魔力ノイズで顔がぐにゃっと歪み、「一致率 89%」と、現代的な表示が出た。

鏡の顏認証に三度失敗し、黒須は舌打ちした。


「ちっ! 顏認証ってのは不便なもんだな」


三度失敗した後、鏡に数字が浮かびあがり、指でパスコードを打ち込むと、それは淡く光った。


 次の瞬間には、黒須の足元はひんやりとした石畳の上に立っていた。

湿った空気が頬をなで、薄暗い地下通路が奥へと続いている。

歩みを進めると、黒ずんだ鉄扉の向こうに「第4地獄」の看板が見えた。


 部屋の奥進むと、東京分室長が椅子にもたれており、その周りをハエが数匹飛び回っていた。

東京分室長は、片目だけで黒須を見た。


「ダニエル日辻の監視はどうだ」


黒須は、室長の機嫌が良くなるように、言葉を選んだ。


「すぐれた子ですね」


「悪なのか」


「見事なほどに邪悪ですよ」


「誰か殺したか」


「いえ、まだ。……でも、殺しだけが邪悪じゃないのじゃない……でしょ」


「……かもな」


室長は煙草をもみ消し、目を細めた。


「何か問題は起こっていないか。その……天界との間に」


「ご安心ください。奴らは何も気づいていません」


真っ赤な嘘だった。

だが、堕天使にとって嘘は、挨拶みたいなものだ。


「そうか。とりあえず、ここに今期の成績表を持ってきた。お前の成績を読み上げようか? 黒須」


「ええ、そうですね。そうしていただけると、読む手間が省けます」


「誘惑度:C、契約成功率:C、破壊衝動:E、だ」


「相変わらずカオスな評価基準ですね」


「これでも、甘いくらいだ。他人事みたいなことを言っている暇はないぞ。そろそろダニエル日辻は覚醒する。そのときは、お前の出番だ。名誉挽回の機会だと思え」


「お任せください」


黒須はにやりと笑い、分室を後にした。



ハエの室長は頷いたが、その眼差しは氷のように冷たかった。


「あいつは、人間界に長くいすぎた。人間臭さが鼻につく……俺はあいつを信用していない」


明らかに、黒須を疑っていた。

ただし、悪魔に信用という言葉があればだが……



一方その頃、赤坂の天界出張所では。

雲を踏むような無音と共に現れたミカエルは、ルカの前に足を組んで座っていた。


「ダニエル日辻の監視はどうかな?」


ルカは柔らかな笑みを浮かべ、答えた。


「あの子は、光の影響を受けて、いい子に育っております」


ミカエルは静かに目を細めた。

嘘か誠か、審議しているような目だった。

それでも、知らん顔して話を続けた。


「それは素晴らしい。ところで、半年に一度の天使成績表がきている。受け取るがよい」


「はい、ミカエル上官」


ルカは、ミカエルから成績報告書を受け取ると、中身を確認した。

項目は「奇跡発動成功率」「人間界での潜伏能力」などで評価Aが並んでいた。

その中で「慈愛度」だけがBだった。

Bの横に注釈がついていて、「(善行は多いが、ツンデレ気味)」と書かれていた。


「評価を落したな」


「申し訳ございません」


「まあ、いいだろう。ルカは一生懸命やっている。たとえ君が失敗したとしても、それは神のご意思だ。気にするな」


「はい……、え?」


「ダニエル日辻は間違いなく封印を解く子だ。ルカ、心配する必要は無い。すべては神の計画通りに進んでいるのだ。我々が最終的には……、勝つ。それは避けられない」


その言葉に、ルカの胸に小さなざわめきが生まれた。

それでも表情は変えず、にこにこと微笑んだ。


「失敗したとしても、神の計画通り……なんですか」


心の奥底で、静かに不安が広がっていた。




その夜、ルカの方から、アプリで黒須にDMした。


《ちょっと話がある》


《俺に会いたいのか。恋愛CIAのお告げは効果抜群だな》


《違う。会いたくない。聞きたいことがある》


《会いたくない……って、そんなはっきりと言わなくても》


《……聞きたいことがあると、言っている》


《俺の悪魔の成績表のことか? それならいつも通りだ、最悪の評価だった。地獄だから最悪でいいんだがな。君はどうだった》


《一個だけB。慈愛度がね》


《そうかぁ。慈愛度だけBで、あとはCとDだったのか。お気の毒にな》


《違う。なんで、わたしがそんな成績……》


《ああ、ごめん、ごめん。DとEだったか》


《あんたバカにしてるでしょ!……んなことはどうでもいい。聞きたいのはダニエルのこと》


《ダニエルがどうかしたか》


《あの子が覚醒したら、……わたし達で止められるか?》


《……まあ、無理だろな》


《……そう。わかった。ありがとう》


ルカはアプリを閉じて、ため息をついた。

自分達には止められない計画なのだと思うと、クッションを抱えてソファに沈みこんだ。


だが、黒須はずっとスマホ画面を見ながら、次の返信を待っていた。

もう相手はアプリを閉じたとは思わずに、黒須は朝まで返信を待ち続けていた。


(で? それで? ワクワク……)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ