第22話 トモダチ作戦 in 遊園地②射的
遊園地の中でランチタイムになった。
生徒たちは、班ごとにピクニックシートを広げてランチを楽しんでいる。
ダニエルと一緒の班の男子生徒が、大きなおにぎりを頬張りながら、隣のダニエルのお弁当をちらっと見た。
ダニエルが持参したお弁当は、「真っ黒なサンドイッチ」や「紫色のゼリー」が入っていた。
男子生徒は気味悪がることなく、逆に興味を刺激された。
「ねえ、ダニエル……。奇抜な配色のお弁当だね。面白―い」
「そ、そうかな……、これ食べてみる?」
ダニエルは男子生徒に差し出すと、その子は遠慮なく
「え? いいの? じゃあ一個だけ」
その子の名前は丸山。
皆からマルと呼ばれている。
「ん、旨い! この黒いサンドイッチ、想像以上に旨いじゃん! ねえ、ねえ、このおにぎりとそのサンドイッチ、交換しない?」
「え、いいの? でも、君がおにぎりを出して、サンドイッチをもらうって公平じゃないよ。君の量が足りないんじゃない? 君が損するよ。いやじゃなければ、この紫ゼリーも交換するけど」
「マジで? やったー。ダニエルっていい奴だなぁ! これからもよろしく! 僕は丸山、マルって呼んでくれ」
「あ、あ、僕の方こそ、おにぎりを食べられるなんて……嬉しくて、えっとなんて言えばいいのか……」
「へぇ、おにぎりが好きなんだ。こういうときは、あるがとうでいいんだよ」
「あ、ありがとう……マル」
そのやり取りを見ていた他のメンバーから、横やりが入った。
「マル、ちがうよ。ダニエルが感謝するのおかしいよ」
そう言ったのは、体育会系男子の岩野だ。
クラスではイワンと呼ばれている。
「イワンの言う通りだわ、マル。二人とも得しているんだから、ここは『お互い様』って言うべきだよ」
この女生徒は、長い髪をツインテールにしている進藤真理、通称マリと呼ばれている。
グループメンバーたちが、皆ダニエルのことを思っているのが伝わったのか、ダニエルは、小さな声で言った。
「いや、『ありがとう』で合ってる。……僕は、おにぎりが大好きだから」
「なーんだ。じゃ、よかったねー」
「ねえ、そのゼリー一口ちょうだい」
「俺のタコさんウインナーと交換しよう」
そこから食べ物トークでグループは盛り上がった。
お昼休憩中、ウリエルは作業員の恰好で現れると、ごく自然に生徒たちの中に混ざり込んだ。
「お客様―! ゴミはありませんかー? ここにゴミ袋置いときますんで―、ゴミはこちらにー」
と、言いながら、ルカに近づきそっと新しいイヤホンを手渡した。
ウリエルは、小さな声で素早く伝えた。
「先輩、もう失くさないでくださいよ。次、失くしたら始末書ですからね」
「わかった。ありがと」
ルカは、素早くイヤホンを耳に装着した。
そのやりとりを見ていた生徒がいた。
それは、ダニエルだった。
ダニエルは、ウリエルを見つけると、大きな声で叫んだ。
「こんにちはー、ウリエルさーん! こんなところで何してんですかー?」
ダニエルに見つかって、ウリエルは一瞬焦った。
だが、焦ったような顔色は一つも見せず、笑顔でかえした。
「見られちゃったぁー。かけもちバイトしてるんで、今日は遊園地の掃除員!!」
「大変ですねー」
「できれば……、家庭教師の授業料もっと高くしてって、お母さんに言っといてーー!」
「はーい! 伝えと来まーす」
「じゃあねー、楽しんでってねー」
ウリエルは手を振りながら、藪の向こうに消えて行った。
ルカは思った。
(電子機器が故障しても、手は打ってあるって、これかよ。……地味な清掃作業員じゃねーか……)
ダニエルたちの班は、昼休憩をかねて縁日コーナーを散歩していた。
屋台が並ぶエリアを歩きながら、ダニエルは射的の棚の前で立ち止まった。
ほこりをかぶった黒ヤギのぬいぐるみが、棚の端にぽつんと置かれていた。
「……あれ、いいな」
小さく呟いたその声に、黒須は気が付いて後ろからのぞき込んだ。
「趣味が悪ぃな。だが、わかるぜ」
その笑い方が、すでに何かを企んでいる顔だった。
「先生に任せな」
彼は屋台のコルク銃を受け取ると、手のひらの中で弾を弄んだ。
ほんの一瞬、空気が歪み、コルクは実弾にすり替わった。
……魔力の痕跡。
「ちょっと、黒須先生!」
異変に気付いたルカが制止したが、既に遅かった。
――パァン!
甲高い破裂音。
棚の木板がえぐれ、黒ヤギのぬいぐるみが派手に吹き飛んだ。
周囲の客が悲鳴を上げる。
「「「きゃー!」」」
ルカは小さく息を吹きかけ、指先を軽く振った。
散った木片は光の粒に変わり、跡形もなく消えた。
「ほらよ」
まるで何事もなかったように、黒須はぬいぐるみを拾い、ダニエルに渡した。
「……ありがとう、師よ……」
「師じゃない、黒須先生だ」
ダニエルは黒ヤギを胸に抱きしめ、静かに笑った。
その笑顔を見て、マルとイワンとマリが一斉に駆け寄ってきた。
「かわいいじゃん!」
「触らせて!」
「いいなぁ、黒ヤギ!」
その光景を少し離れた場所から見て、ルカは腕を組んだ。
「……まあ、結果オーライね」
「だろ? 俺の計画通り」
胸を張る堕天使教師。
ルカは冷ややかに横目を向けた。
「計画っていうか、半分はわたしの後始末だけど」
「細けぇことは気にすんな」
「実弾を放つ教師なんて、教育的にダメでしょ。狙うなら、マッチングアプリの女の子だけにしなさい」
「なんてこと言う。次に狙うのは君のハートに決まってんだろ」
唐突に真顔で言うから、余計に質が悪い。
「冗談はよせ。わたしはお前と付き合っていないし、お前なんかタイプじゃないっ!」
「うわ、ルカに罵られると……し・あ・わ・せだぁ。なあ、今度いつ俺を狙いに来る?」
「狙うのはいつだってできる。予告するバカがどこにいる!」
黒須はその言葉に恍惚とした。
ルカは自分を見失わないように、あえて違うことを考えた。
(ダニエルの好きな食べ物、好きな遊び、好きなタイプ……。
あれ? 好きなタイプって、どうやって決まるのだ? 明確な方程式はあるのか……)
身近なところにいた黒須に、ルカは深い意味もなく質問した。
「……黒須先生、質問ですけど、いいでしょうか?」
「ん? なんだ、ルカ」
「例えばでいいんですけどー、黒須先生の好きなタイプって、どんな人?」
黒須は飲んでいた水を盛大に吹き出した。
「バカヤロー、いきなり何だよ。好きなタイプは……」
ルカは首を傾げて、その答えを待った。
「はい、お答えください。“好きなタイプ”とは? どんな……」
「人じゃねーな。以上!」
そう言い残すと、黒須は照れ隠しで他のアトラクションに向かい、つっ走っていった。
その背中を見送りながら、ルカはそっとため息交じりにつぶやいた。
「……ほんと、青春が過ぎる。堕天使なのに、どうしてあんなに人間くさいのか。おもしれーやつ」
遠くで聞こえる生徒たちの笑い声が、風に吹かれて聞こえてくる。
ルカの胸の奥は、ほんの少しほっこりした。




