第21話 トモダチ作戦 in 遊園地①絶叫系
青葉学院高等部一年生の遠足は、大型バスで郊外の大型遊園地へやってきた。
日差しは明るく、入園ゲートの上にはカラフルな旗がはためいている。
ルカは副担任として、生徒たちの数を確認しながら黒須にささやいた。
「今日の目標は一つ。あの子に友達を作らせる」
視線の先には、ブロンドの髪をフードで隠すように目深にかぶった転校生……ダニエル日辻が、一人で入園マップを見ていた。
「おうよ」
黒須は腕を組んで、ルカに告げた。
「任せとけ。君もあの子のサポート、しっかり頼んだからな」
「了解。それから……ウリエル、聞こえる?」
ウリエルは、管制室の高い位置から生徒たちを見下ろしながら、イヤホンを通して返事した。
―「こちら、ウリエル。通信環境バッチリです。ただ、ダニエルの側に電子機器を近づけると故障する恐れがあるので、気を付けてください」
「万が一故障した場合は?」
―「ちゃんと手を打ってます。ご心配なく」
「よろしく頼む」
午前中は班ごとにグループ行動だ。
まずは軽く遊びながら、友達との接点を作るため、黒須は数人の生徒に声をかけた。
「おーい、グループ行動だ。まずはみんなで楽しめる乗り物に行くぞ」
そして、さりげなくダニエルのグループも誘った。
ルカは後ろからその様子を優しく見守っていた。
ダニエルの班のメンバーは、真面目で優しいタイプの子を集めたつもりだったが、生徒たちは予想外なことを言いだした。
「やっぱさー、遊園地と言ったら、絶叫系じゃね?」
「でも、女子もいるから、女子の意見も聞こうよ」
「わたしなら、絶叫系に賛成! 人気の乗り物は混む前に乗る。常識でしょ」
黒須は絶叫系と聞いて、ルカと下見に訪れた際、気を失いそうになった記憶が蘇った。
「そーかー。じゃ、ルカ先生が一番適任だな。おーい、ルカ先生!」
ルカも黒須が絶叫系苦手だったことを、当然覚えている。
(いよいよ、下見が活かされるときか……黒須、あんたじゃ務まらない。わたしに任せろ)
「絶叫系? わたしに任せなさい。じゃ、ダニエルくんの隣に座ろうかなー。いい?」
「はい、……別に構いませんけど……」
ジェットコースターの発車口にダニエルの班が並んだ。
ルカは腕を組み、あくびをしながら列の進みを待っていた。
「こんなの、ただの鉄のレールで、人間が作ったネジで留めているだけでしょう? 命を預けるには頼りない乗り物ね」
「その“命を預ける”のが面白いかもしれません。ほら、見てよ、ルカ先生」
ダニエルが指さした先、カーブを曲がって降下するコースターから悲鳴が聞こえて来た。
その悲鳴を聞いて、ダニエルはニヤニヤしていた。
「ダニエル君……何で笑ってるの?」
「叫び声の波動が、ちょっとした絶望の声に似てるから……です」
(こわっ! これはなかなか手強い。この不気味さを吹き飛ばすには、それを上回るものが必要か)
二人がシートに座ると、安全バーがガチンと下りた。
カタカタとレールの上を昇っていくジェットコースター。
前列に座ったルカは、もう目を輝かせっぱなしだ。
「うわー! 高い! これ絶対楽しいやつだ! ごめん、楽しんじゃっていい?」
まるで子どもみたいに、身を乗り出しそうになるルカを見て、隣のダニエルが苦笑した。
「え? ルカ先生、テンション高すぎません?……。落ちる前から全力じゃないですか」
「だって、こういうの大好きなんだもーーん!」
一番高い頂点に差し掛かった瞬間、風が一気に強くなった。
ダニエルは思わず安全バーを握り直し、ルカにちらりと視線を送った。
「……叫びすぎて、声を枯らさないでくださいよーー。ルカ先生―――!」
「大丈夫! 授業より絶叫のほうが得意だからぁ!」
その直後、轟音とともにコースターが急降下。
ルカの「きゃあああああー!」という声が、遊園地中に響き渡った。
ダニエルもつられて声を上げた。
「ギャーーーーーーー!」
ダニエルの悲鳴に、管制室で見ていたウリエルはルカに通信した。
―「先輩のパワーにダニエルのオーラが……プツッ」
ジェットコースターがホームに滑り込み、ガタンと止まった。
安全バーが上がった瞬間、ルカは勢いよく立ち上がり、両手を高く掲げた。
「いやー! 最高! もう一回行こう!」
目を輝かせるルカを、降り口で黒須は呆れた顔をして待っていた。
ダニエルは、いつもになく大きな声で喋っていた。
「……ルカ先生、元気すぎますよ! こっちは魂が抜けかけましたっ!」
そう言って、足元をふらつかせながら降りてくると、黒須を見て大きな声で言った。
「師よ……あの、ルカ先生って、絶叫系の神様かなんかですか?」
黒須は、小さな声で耳打ちした。
「神様じゃない、ルカ先生は絶叫系の……天使だ」
黒須の言っている意味がわからなくて、ポカンとしているダニエルに、ルカは得意げに胸を張った。
「そう! 天使! だからこそ空を飛ぶのは得意なの!」
黒須がぼそっとツッコミを入れた。
「……飛ぶと落ちるは、だいぶ違うと思うがな」
ダニエルは「いや、ほんとそれ」と頷いた。
それでもルカはお構いなしだった。
「よし、次は観覧車行こっか! あ、でもその前にもう一回ジェットコースター……」
「「やめてください」」
黒須とダニエルの声が、見事にハモった。
ルカは満面の笑みを返した。
(よし、まず、大きな声を出させる作戦は成功した)
それからしばらくして、ルカは遊園地の芝生の中にいた。
芝生の上を、這いつくばって移動している。
天界製のワイヤレスイヤホンを、ジェットコースターに乗っているときに堕としてしまったのだ。
ワイヤレスイヤホンがないと、ウリエルと通信できない。
「ない、ない、マズい。始末書だ……!」
そんなルカの姿を見つけたダニエルは、首をかしげた。
「ルカ先生、どうしたんですか?」
「え、えっと……その……」
ルカは汗をにじませながら、必死に言い訳をひねり出した。
「ほ、補聴器を……失くしてしまって……」
「えっ!? それは大変です!一緒に探しましょう! ルカ先生って難聴だったんですか」
ダニエルは無邪気な笑顔で芝生の中を探しはじめた。
(ちがう、難聴じゃない! でも、否定したら余計怪しい! なんて言えば……)
ルカは心の中で頭を抱えた。
やがて、ダニエルが
「あ、ありました!」と手をあげた。
「ルカ先生、補聴器、ここに落ちて……」
「待て! 触るなダニエ……」
遅かった。
ダニエルがイヤホンに触れた瞬間、イヤホンからパチパチと火花が散り、
「ボフッ!」と煙が立ちのぼった。
そのとき、管制室では……
『ぎゃあああああっっ!!!』
ダニエルの悲鳴がした。
あまりのハウリング音にウリエルは耳を押さえた。
キーーーーーーーン
「うわっ! 何? もしかしてダニエルがイヤホンに触った?? あ、イヤホンがご臨終……。ルカ先輩、だから言ったじゃん」
遊園地にいるダニエルは……
「ルカ先生!? 僕、壊しちゃいましたー」
「ち、ちがう! これは……ええと、青春に弱い補聴器!! ダニエルのせいじゃないわ」
「そんな補聴器あるんですか……? 青春に弱いって……」
ダニエルは首をかしげつつ、納得した。
「そっか。普通、補聴器って高齢者用が多いからか……」
「言っとくけど、わたしは高齢者じゃないからねっ!」
煙の中で、ルカはただ天を仰ぐしかなかった。
そのころ、ウリエルも管制室で、イヤホンに臨終の祈りを唱えていた。




