表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ハルマゲドン始まったってよ ~堕天使教師とマッチングしたのは天使エージェントだった~  作者: 白神ブナ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

17/37

第17話 邪悪ってほど邪悪じゃない

 教室の後ろのドア近くで授業を見ていたルカは、腕を組んで小さく息を吐いた。


(なるほど……黒須先生の授業は教科書通りじゃないけど、生徒には評判がいいって……。これが評判の授業か。確かに教科書通りじゃない。

 歴史をただの暗記ものじゃなく、“生きた物語”として語るってことか。……恋愛偏差値はゼロだけど、おもしろい男じゃない?)


前の席では、ダニエルが目を輝かせてノートに書き留めながら、つぶやいた。


「そうなんだー……聖戦って、ほんとは聖なるものじゃなかったんだ」


そして、黒須の方を見て、どこか尊敬の色すら浮かべていた。


黒須はそんな視線に気づかぬふりをして、チョークを回して次の板書に取りかかった。


「さてと……神聖ローマ帝国の話に戻るか……おっと、もう時間か。続きは次回にしよう。」




 チャイムが鳴り、教室のざわめきが廊下へと流れ出した。

ルカは黒須の出したプリントを手に、後ろからダニエルに声をかけた。


「……どうだった? 今日の授業」


「すごく面白かったです! リアリティありました」


ルカは横目でダニエルを見て、小さく笑った。


「まあ、あの先生は、実際に見て来たんでしょうね。喋っているセリフも当時のままだし……」


「え?」


「いや、こっちの話」


ルカは手をひらひらと振ってごまかした。

ダニエルは迷いなく答えた。


「戦争って聖なるものじゃないなんて……考えたことなかったです。教科書には“宗教的意義”とか書いてあるのに」


ダニエルは首をかしげたままだ。

だが、その表情にはどこか尊敬の色が残っていた。


挿絵(By みてみん)


「黒須先生って、悪魔なのに……人間を騙そうとしないんだ。嘘の歴史は教えないんですね。イェルサレム奪還のためなら、どんな罪でも許されるって、……悪魔の取引みたいです」


「ダニエル君、その言葉、他で言ったらダメよ」


ルカは軽く釘を刺すように言った。


「僕が神か悪魔だったら、そんな十字軍を出したローマ教皇なんか、滅ぼしてしまうだろう」


「え?」


「最初から作り直したほうがいい……」


ダニエルの発言に、ルカは不安を覚えた。


「作り直すって、何を?」


「世界ですよ。この世界は作り直すべきです」


「ダニエル君、その話の続きをしたかったら、わたしが聞くね。教室では控えようか」


しかし、ダニエルはルカと視線は合わせず、黙ってテキストを片付けていた。

ルカの事は信用していないと言わんばかりだ。

つい、ルカは心の中で本音をつぶやいた。


(くそ、天使より堕天使の方が刺さるのかよ、このガキは)


すると、ダニエルはふと顔を上げた。


「だって……ルカ先生って、何者かわからないんだもの。当然です」


「え、心を読んだ?」


ルカは、ダニエルから静かに離れると、早足で職員室に向かった。


(やっぱ、あの子普通じゃない)


純粋そうでどこか儚い表情とは裏腹に、破滅的な言葉を平気に口にするダニエル。

簡単に大人の言葉を信じる子供ではないと、ルカは判断した。

一方で、授業中あの真っ直ぐな声で「戦争に聖なるものなどない」と言い切った黒須。

ダニエルと黒須……。

ルカは廊下を急ぎながら、どっちが邪悪な存在かわからなくなってきた。


(黒須は堕天使のくせに、邪悪ってほど邪悪ではない。もしかしたら、黒須ならダニエルを正しく導くのでは……)


ルカの思考は、バグを起こしていた。

そして、黒須の邪魔をする計画が、少しずつズレ始めた。



 職員室のお昼休み時間。

ルカは、黒須に授業の感想を、めずらしく素直に伝えた。


「なんだかわかる気がしました。黒須先生の授業が、生徒に評判がいいって理由」


黒須は、照れながらカレーパンをかじった。


「ルカ……ちゃん。それほどでも……」


(はぁ? ルカちゃんって何、ちゃんって。さっきまでの誉め言葉を全力で撤回!)


素直なルカは5秒で消えた。

いつものように、黒須の欠点を厳しく非難し始めた。


「でも……、少年十字軍なんですけど……、あれ、教会は公式に認めていませんから。認められていないことを教えるのは、教育者としてどうでしょうか」


「……そうきたかぁ。認めるわけないだろう。認めたら、十字軍を主導したローマ教皇の権威を大きく失墜させることになるからな。

『わたし知りませーん。聞いてませーん。行けって言ってないもーん。行けって言ったのは、修道院とか町の司祭たちだもーん』

ってな、まあ、そんなかんじだな」


「う……」


挿絵(By みてみん)


(こいつ、なんてことを言うんだ。教皇を冒涜するなんて許されない。ってか、もともと許されない存在か。そうか……善悪の基準から離れた奴って、最強だな)


ルカは、黒須の言葉に感心してしまった。


(はっ!……馬鹿な。何を感心しているのだ、わたしは。これは任務だ。感情を持ち込むな、ルカ)


ルカはそう心の中で自分を叱りつけながら、書類をファイルに挟み込んだ。

その後も、黒須の授業中の堂々とした横顔が、頭から離れなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ