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ハルマゲドン始まったってよ ~堕天使教師とマッチングしたのは天使エージェントだった~  作者: 白神ブナ
第四章 天使たちのアップグレード

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第119話 一掃してやる

 国立競技場の庇部分のルーフに座って、眺めていた大天使ミカエルとガブリエル。

彼らは、早く反省会に行きたくてうずうずしていた。


結局、ここでハルマゲドンは始まらなかった。

しかし、観客たちはまだ帰らず、感動の余韻に浸っていた。


そのとき、ミカエルは眉間にしわを寄せた。


「おい、ガブちゃん、何か始まるようだ。ルシファーの様子がおかしい」


「何だって? まだ終わりじゃないってのか?」


国立競技場のグランドで、ルシファーは、応援スタンドを見渡し、腕を組んでいた。


「……なかなか、悪くない」


ルシファーを応援していたファン、元しもべ、子分、思想シンパ……。

とにかく、こんなに多くの人間が、ルシファーを応援しに来てくれたとは……、

地獄の底で、孤独と戦ってきた時代を思い返すと、感動すら覚えた。

ルシファーは、高らかに宣言した。


「どれだけ、人類どもが仲間を呼ぼうとも……、わたしたちの力はまだ衰えることは無い!

諸君! ここに集ったわたしたちで、国立競技場を一掃しようではないかっ!」


黒須は琥珀色の目をカッと見開いた。


「い、一掃だと?!」


「ああ、ここに集まった人間どもをこのまま帰すわけがないだろう。


「ル、ルシファー……、てめぇ!」


「さあ! ここを一掃して、契約者さまの命令に従うのだ」


「……? 契約者さま? もっと具体的に言ってくれ。これは最終戦争なのか?」


「国立競技場のゴミをわれわれで一掃する。ルカの命令、“悔い改めて善き行いをせよ”の一環だ。もちろん、ダニエル応援団VS.ルシファー応援団の、清掃活動の最終戦争だ!」


「そ、そうか……、それは負けたら悔しいな」


ルシファーは観客席に向かうと、ゴミ袋と箒を高々と持ち上げて叫んだ。


「おい、お前ら武器はちゃんと持ってきたか? ここを一掃するぜぃ!!」


「「うぉぉおおっ!!」」


拳が上がった。

士気は最高潮だ。


……その直後。


「はい、じゃあこれ」


ルシファーが黒須に配ったのは、燃えるゴミ用のゴミ袋だった。


「ペットボトルはこれに……缶はこっちに……、半透明のゴミ袋も渡して、ちゃんとゴミの分別できるように準備したからな。ふっ、偽善活動に負けて、悔しがるなよ?」


黒須は、生徒たちを呼び止めた。


「おーい、当て。帰るんじゃないぞー! みんなで使った競技場だ、みんなで綺麗にして、勝利の雄たけびを上げようぜ!」


生徒たち。


「……え?」

「ゴミ袋……?」

「……一掃って」


観客席が、ざわついた。


「なんなんだ、これ」

「一掃って、まじで掃除のことだったのか?」

「いや……きっと違う……」


一人が、震える声で言った。


「ルシファー先生のことだ……。何か……恐ろしい裏があるんだろう……」


ルシファーは、それを聞いて満足そうに「くくく……」と笑った。


(そうだ……疑え……そして、従え……)


視線の先には、黒須の生徒たち。

彼らは、慣れた手つきでゴミ拾いをしていた。


ルシファーは、思った。


(……なるほど……、黒須の生徒たち……こまめにゴミ拾いなんかして、好感度を上げるつもりだな)

(だが、甘い。わたしの方が、もっと集めてやる)


そのとき、一人のルシファーファンがゴミ袋を持って近づいてきた。


「あ、あのぅ、ルシファーさん?……こんな感じでいいですか?」


(尊敬の視線は……すべて、わたしに集中する……! なんて素晴らしい! これこそ悪魔崇拝だ!!)


ルシファーは、颯爽と立ち上がった。


「よし。この調子だ。じゃ、作戦Bいくぞ」


ファンたちは、勢いに押されて声を上げた。


「「お、おお……!」」


ルシファーは、持ち前の“営業スマイル”を発動した。

まず、近くにいた見知らぬおばさん二人組に近づいた。


「こんにちは。今日は暑いですね」


おばさんA

「あら、そうねぇ。やだ、イケメン」


「もしよろしければ、ご一緒にゴミ拾いをしませんか?」


おばさんB

「まあ! 感心ねぇ! あん、こんないい男に誘われたわ」


おばちゃんキラーの本領発揮。

ハート、射抜き完了。


次。


「お疲れさまです。この辺、ゴミ多いですよね。ゴミ置き場までわたしが運びますよ」


「まあ! 若いのにえらいわねぇ!」


次。


「その袋、重くありませんか? わたしが持ちますよ」


「なんて優しいの!! それに爽やかな笑顔!」


人脈と人望のパワーが炸裂した。


気づけば、ルシファーの周囲には、ゴミ袋を持ったおばさん・おじさん・子どもたちが増殖していた。


ファンたちは、魅了されていた。


「ル、ルシファーさま……人を動かす力が……、これほどまでに……」


ルシファーは心の中で、とてもいい気分だった。


(ふふ……よく見るがよい。これが“頂点”だ……)


一方、その光景を、生徒たちの観客席で見ていた黒須は、開いた口が塞がらない。


「……」


ぽつりと。


「かっこいいなー」


ウリエルは、思わず聞き返した。


「え?」


「さすがだな、ルシファーって思ってよ。俺にはあそこまで出来ねえ」


呆れたルカは、ルシファーと黒須という二人の堕天使について、痛いところを突いた。


「……あんたたち、ほんとバカ? わたしが命令すれば、なんでもするの?」


「いやぁ、そんなに褒めなくても……、」


黒須は照れた。


「違う、褒めてないって」


気づけば、国立競技場のスタンドは、見違えるほどきれいになっていた。


紙くずゼロ。

ペットボトルゼロ。

なぜか心まで、少し軽くなった。


ルシファーは、満足げに腕を組んだ。


「……パーフェクト」


黒須は、ゴミをまとめながら言った。


「なあ、ルシファー」


「何だ」


「一掃って、世界じゃなくてゴミだったのかよ」


「当然だ。何だと思ったんだ。終末より、まず足元をきれいにするべきだろう?」


黒須は、吹き出した。


「……お前さ……、やっぱ、嫌いになれねぇわ」


ルシファーは、ふん、と鼻を鳴らした。


「それは光栄だ」


こうして……、堕天使たちの善行によって、国立競技場のゴミは、完全に一掃された。

ハルマゲドンは起こらず、世界は終わらず、ゴミだけが消えた。



「これで十分だ」と、大天使が二人、眺めていた。

国立競技場のルーフに腰かけて、様子を見ていたミカエルとガブリエルは、笑っていた。


「あの堕天使たち、善行で国立競技場を輝かせてるって、気づいてないのか?」


「神が見たら、お喜びになるのにな。ルカとウリエルに、今日の記録のバックアップは?」


「もちろん、指示している」


「さすが、ミカちゃん」


「よせやい。もっと天使らしく呼べよ」


「では、天使らしいこと、してやるか。この者たちに祝福を……」


ガブリエルは両手を広げてから、そっとその手を前で合わせて手のひらを下に向けた。


 ルカは、キラキラと粉雪のような祝福の光が降って来たのに気づいた。

そっと手を伸ばして、その手にキラキラした物を受けて、空を見上げた。

すると、ミカエルとガブリエルがルカに向かって手を振って、そして消えた。


ルカだけが、競技場でこの祝福に気づいた。


「あら、やっぱり、ここにいらっしゃっていたね。ミカエル上官とガブリエルさま、……またルシファーを誘って、どこかで反省会するつもりかしら」


自然にルカは笑顔になっていた。

それを、黒須に指摘された。


「何、ニヤニヤ笑ってんだよ? どうする? ルカ、これから、先生たちはちょっと飲んで帰るってよ」


「そうなんだ。じゃ、行って来れば? 黒須先生のお疲れ様会でしょ。本日の立役者だもの、行ってきなさいよ」


ルカは、珍しく心から黒須を褒めた。

ところが、黒須は不機嫌になってルカをじっと見つめた。


「君は……、俺が他の女の先生たちと飲みに行っても、平気なんだ……」


「あ……」

(ヤバ、拗ねた。でもなに?この目つき。可愛い……)


「俺は、どうでもいい飲み会よりも、好きな人と家飲みした方がうまいけど……」


「何それ、ホストみたいな誘い文句」


「だよなー! ハハハ冗談だ。いつかそうなればいいなーなんて……、冗談だからな。今の忘れてくれ」


「ええ……悪くないわね」


「え……」


「考えとくわ。ほらほら、先生たちが呼んでるわよ。早く行きなさいよ」


「あ、ああ……。君は一緒に行かないのか?」


「ちょっと、ミカエル上官のほうに参加するわ。おーい、ウリエル。上官たちの行先がわかったら教えて。 連絡頼む」


「了解っすー! ルカ先輩、黒須さんと一緒じゃなくていいんですかぁ?」


「取り合えず、ここまでだわ。ミカエル上官と話もあるし……」


「そうなんすか。真面目っすね。黒須さん、じゃあ、また明日」


「お、おう。お疲れー」


いつも一緒に行動してくれるルカが、付いて来ない。

黒須は、寂しさを感じながら手を振った。

だがルカは、振り向きもしないで出口へと向かう。

なんだか、引き留めないといけない気がして、黒須は叫んだ。


「ルカ! 明日も……会えるよな!」


ルカはゆっくりと振り向いた。


「はぁ? ……会えないわ」


「ほらぁ! やっぱり、俺と別れるつもりなんだろ。い、嫌だぁー!」


「明日は日曜日でしょ。だから休みで会えないの。明後日なら……」


「あ、なんだ、そうか。俺もそっちに行く。天界の反省会に行くー!」


黒須は、競技場を途中で切り返し、今にも泣きそうな顔でルカを追って来た。


(何を泣いているんだ。この堕天使は……)


「は? 天界の打ち合わせよ? (あ、ルシファーも一緒だからいいか……) いいけど……おとなしくしていること。条件付きだからね」


「おとなしくしています! 俺も一緒に連れて行ってください!」


「しょうがないわね。集まったメンツを見て、ビビらないでよ」


「ビビりません! どんな凄い方がいらっしゃろうとも」


「絶対よ」


「絶対です!」


 

 そして、神宮前の小さな飲み屋に、黒須は連れて行かれた。

ミカエルとガブリエル、ルシファーとサタンのとっつあんが、丁度瓶ビールで乾杯しているところだった。


黒須は、店の中で棒立ちになった。


「う……、マジか……」


「だから言ったでしょ。ほら笑って、黒須先生。ここでいかに機嫌よく振舞えるかで、わたしたちの未来が決まる。ここがわたしたちの最終戦争よ」


「え? ちょっと意味わかんない……」


そのとき、サタンが手を振って黒須を呼んだ。


「おーい、遅かったじゃないか黒須。お疲れー! こっち座れ!」


黒須は額に手を当てた。


「ハルマゲドン・レースより厳しい状況じゃね?……」


「約束でしょ。ビビらないで」


「ビビってねぇよ。 俺がルシファーよりもカリスマ性があることを証明して……」


「あー、カリスマ性とかいらないから。とにかく機嫌を取って」


「あ、はい。でも、俺は君と二人で飲みたかったなぁー」


「ここをクリアしないと、願いは成就しないの。できるわよね」


「願い、成就。クリア……わかった。クリアする」


ハルマゲドン・レースの終了後は、天界と地獄の飲み会……いや、反省会だった。

黒須とルカは、上司たちと楽しく時を過ごした。

もちろん、ルシファーからの痛いジェラシーを感じながら。

これは、黒須とルカが今後も地上で活動できるかどうかを決める、最終戦争だった。


「「今後ともよろしくお願いいたします」」




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