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ハルマゲドン始まったってよ ~堕天使教師とマッチングしたのは天使エージェントだった~  作者: 白神ブナ
第四章 天使たちのアップグレード

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第110話 1区:かっぱ橋道具街→上野公園

「よし、第1区クリア。次の中継ポイントへ――……あれ? 黒須先生?」


助手席が空っぽだった。

ウリエルが振り向く。


「先生、トイレっスかね?」


「違う。あの人、そんな雰囲気じゃなかった。……イヤな予感がする」


ルカは急いでドアを開けると、街へ飛び出した。


「あ、先輩! 勝手に出ないで。僕らダニエルを中継しなきゃ……」


ウリエルの制止を振り払い、ルカは賑やかなかっぱ橋商店街の中をすり抜けた。

金物店、調理器具店、食品サンプルのショーウィンドウ……。

すると……。


「あの……もしかして、黒須先生、ですか?」


刃物を売っている店員が、笑顔で男に商品を進めていた。

ルカが顔を確認すると、その男は黒須だった。


黒須サトル。

真剣な顔で牛刀を手に取り、

刃の反射具合を光にかざして鋭い目で観察していた。


「……お前さんこんなところで、何してるんだい?」


ルカの声はドスが効いていた。


「いや、すごいんだよ、ここの包丁。この切っ先のバランス見ろよ、完璧だ。

 マグロも三枚に……」


「切るなァァァッ!!」


商店街中にルカの怒声が響いた。

通行人がびくっとして振り向く。

黒須は慌てて包丁を棚に戻した。

店員も驚いて、「いやぁ、組の姐さんのお弟子さんでしたか。失礼いたしました」


「ち、違うんだルカ! 俺はその……魚をさばくことで心を落ち着けようと……」


「わかってると思うが、今、レース中だよね!? 生徒が命を張っているときに!! てめぇはここで何してんのかと、聞いてんだよ! ついでに言っとくがな、牛刀と刺身包丁は違うからな」


「でも、どっちも料理だし、教育の一環だろ……」


「ハルマゲドンを、なめたらいかんぜよ!!!!」


ウリエルが中継車からマイクを持って出て来た。


「すんません、えー、現場から恋愛CIA特報っス! 只今、黒須先生が“包丁で心を研ぐ教育実験”を実施中っス!」


「勝手に放送するなぁぁっ!!!」


ルカはウリエルの口を押さえた。

黒須は両手を挙げて降参ポーズ、カメラに向かって謝罪した。


「……ごめん。ちょっと、見惚れてた。」


「包丁に惚れる暇があったら、走ってるダニエルに声援の一つでもかけておやりよ」


「違う」


黒須は静かに笑って、ルカの目を見た。


「何が違う」


「怒った君に、見惚れてた」


一瞬、ルカの頬がわずかに赤く染まった。

だが、すぐに視線をそらして、早口でまくし立てた。


「バッカじゃないの?……そんな口の減らないとこだけは立派ね。ほんと、黒須先生って喋らない方ずーーーーっといい男よ」


「褒め言葉として受け取っとく」


「ディスリだ!」


ウリエルは、なれた口調で喧嘩の仲裁に入った。


「はいはい、はいはい、口喧嘩終了っス! 今のうちに黒須先生、助手席戻ってくださーい!」


結局、黒須はルカに腕を掴まれ、半ば引きずられるように中継車へ戻った。

助手席に押し込まれながら、黒須はぼそっと呟いた。


「……でもさ、包丁ってさ、教育に似てるんだよな」


「は?」


「よく研いで、丁寧に扱わないと、簡単に人を傷つける」


ルカは一瞬、黙った。

だが、次の瞬間、ニヤッと笑った。


「……その言葉、今夜まで覚えてるがいいわ。説教の材料いたい」


「ルカ先輩、それって二度切りじゃないですか……可哀そうっすよ」


「ぜんぜん」


「はいっ、中継再開っス~! 次は上野駅前、恋愛CIA第1波、準備OKっス!」


恋愛CIA・中継車は再び発進した。

ルカの頬の赤みは、しばらく消えなかった。



車が上野駅前にさしかかるころ、突然、大型ビジョンがノイズを放った。

通行人が驚いて足を止めた。


「おや、何だ?」

「CM?」

「大型ビジョンの音量、デカすぎ」


大型ビジョンの映像が切り替わり、ポップな音楽が流れた。


♪胸のドキドキが止まらないのはどうして?

うん、それは――走ってるからだよ!」


BGMは軽快なJ-POP調だ。

ウリエルの声が弾んだ。


♪恋もドキドキするけど、どうして?

それは……“誰かを想ってる”からっス♡」


画面に恋愛CIAのロゴが映る。


『提供:恋愛CIA —Cupids' Intelligence Agency —』


丁度上野駅前を走っていたダニエルは、思わず吹き出した。


「……先生たち、ほんとにやってる」


ルカの声がイヤーピースに入ってきた。


「CMは気にするな、わたしたちの応援の意味と……一応スポンサー料をもらっている」


「了解、ルカ先生」


ダニエルは、応援でアドバイスをもらい、嬉しくなった。

そして、くしゃっとした笑顔で、軽快に走り続けた。



コースは、上野公園に入った。

不忍の池には、いつのまに追い抜いたのか、ルシファーが柵に寄りかかって、ダニエルの到着を待っていた。


風に乗ってハスの葉が静かに揺れている。

中央に浮かぶ弁天堂の朱色が、水面に淡く滲んでいた。

そこは、まるで天界と人間界の狭間に開いた小さな門のようだった。



 

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