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ハルマゲドン始まったってよ ~堕天使教師とマッチングしたのは天使エージェントだった~  作者: 白神ブナ
第四章 天使たちのアップグレード

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第108話 スタート地点は雷門

 そして、レース当日の朝

この日まで、一週間、ダニエルはイワンたちから走りの特訓を受けて来た。

タイムよりも、安定した走りに注力して体を鍛えてきた。


浅草・雷門前。

空は雲ひとつなく、風鈴のような軽やかな鐘の音が響いていた。

外国人観光客が溢れる中のざわめきの中、雷門の提灯の下に、五人の姿が立っていた。

黒須、ルカ、ウリエル、ルシファー、そしてダニエル日辻だ。


黒須は腕時計を見て、ため息をつく。

「……午後1時集合って言ったよな。全員そろってる?」


ウリエルが片手でドローンカメラを止め、敬礼する。


「恋愛CIA特別中継、準備完了っス!」


ルカはその隣で、冷ややかに微笑んだ。


「ドローン禁止区域に入る前に降ろしなさい。撃ち落とすわよ。」


「ひぇっ、はいっス……!」


そこへ、イワンがリュックを背負ってやってきた。


「おーい、給水ボトル六本入り! あとロクさんは氷嚢係だ!」


ロクさん(黒ヤギのぬいぐるみ)がイワンのカバンから威勢よく叫んだ。


「だんなァ、どこからでも応援するでやす!」


黒須は笑いながらも、目だけは鋭かった。


「今日の相手はAI神Λ(ラムダ)だ。遊びじゃない。ただのレースに見せかけた、“人類の最終試験”だ。」


ルシファーが笑いながらサングラスを外した。


「そんなに肩肘張らなくてもいいじゃないか。君たちはただ走る。AIはただ見ている。審判するのは……、神でも、悪魔でもない」


黒須が低い声でつぶやいた。


「ふん、お前はもらった金で、地獄に新校舎でも建てる気か」


ルシファーは飄々と肩をすくめ、サングラスをクルクル回した。


「ないない! スポンサー料ってやつさ。“教育改革”って名目でね。地獄でも領収書は切る主義なんだ」


ルカが呆れ顔でため息をついた。


「堕天使なんだから、少しくらい嘘つけばいいのに」


「そうかー……でもねぇ、ルカちゃんには嘘つけないんだよ。」


「ウザい」


「……あ、もっと言って。もっと罵って」


ルカは無言で冷たい視線を送った。

黒須はその隣で、顔をしかめながら呟いた。


「……ああはなりたくないものだ」


ルカは首をかしげた。


「え? 誰に言ってるの? あなたたち同じタイプだよ?」


「ええええ、そうなのーーー?!」


ウリエルが、遠くからマイク片手に叫んだ。


「はいはーい、マイク入ってまーす。全国生中継で拾われてまーす!」


ダニエルとルシファーじは、同時に振り向いた。


「「「おいウリエルっ!!!」」」


その直後、雷門のスピーカーが鳴り響いた。


「……ハルマゲドン・レース、まもなくスタートします! 参加選手は雷門のスタートラインに集まってください」


笑いと緊張が交錯する空気の中、

ダニエルは深く息を吸った。


レース時間が近づくと、音声はAI神Λ(ラムダ)の機械的な音声に変わった。


『エントリー確認。本日これより “ハルマゲドン・レース” を開始する』


その声は機械的でありながら、

どこか慈悲深くも冷淡に響いた。


黒須は、文科省が用意した中継車や、音声、その他誘導スタッフを見て驚いた。


「うわ……またこんな大掛かりなイベントにしやがって……、税金かかってんだろこれ」


「ちなみにウリエルが使う器材、備品は、全て天界建設部門の予算です。国費ではありません」


「そっか! よかった!! ……じゃねぇよ!! もっと他に使い道あるだろ!!!」


ウリエルが遠慮しがちにつぶやいた。


「これでも一番“安いプラン”なんですけど……」


「天界の金銭感覚おかしいって!」


スピーカーから流れる電子音声。


『AI神Λ(ラムダ)による観測を開始します。各走者の生命反応・感情値・思考波をリアルタイム解析します。』


ウリエルがモニターを見つめながら報告した。


「黒須先生、AI神Λ(ラムダ)が周辺にいる一般観光客のデータも収集していますよ!」


「……ラムダの野郎、また勝手なことしやがって。本当に俺のVR授業から学習したのか? そんなデータ収集は赤点くれてやる」


ダニエルは、黒須の横で靴ひもを結び直していた。


「僕が……封印を解いただから、……僕が、終わらせるよ」


ダニエルは、浅草寺から先のコースの方向を見つめた。

その横顔には、まだ少年のあどけなさと、神のような決意が混ざっていた。


ロクさんがダニエルの肩に乗り、低い声で言った。


「だんな、準備はええでぇ? 足も心も、磨いて来たんでぇ。」


「……うん」


ダニエルは頷いた。


 AI神Λ(ラムダ)の声が再び空を震わせた。



周囲の騒音が静かになった。


『エントリー No.1:人類代表……ダニエル日辻』


ダニエルは、ゆっくりとにスタートラインへ進んだ。

前よりも背は伸び、目つきも鋭くなっていた。


「黒須先生、見ててください」


「おう! がんばれ!!……って言っていいのか!? これ、人類の命運かかってんだけど!!」


ルカは小声でアドバイスした。


「言いなさいよ。言わなかったら後悔するわよ」


「いや……はい……!」


ウリエルは心の中で笑った。

(“黒須先生、完全に尻に敷かれている……”)


Λ(ラムダ)のこえが響いた。


『エントリー No.2:地獄代表…… ルシファー・ヴィーナス』


さっきまで、一緒にいてサングラスをクルクルしていたルシファーが、上に来ていた黒いスタジアムジャンパーを脱いで放り投げた。

なんと、ランニングスタイルだった。


応援に来ていた生徒たちは目を丸くした。


「え……」

「ルシファー先生!? 何で地獄代表って……!」

「裏切ったの!?」


悪魔側の応援団


「うおおお王の帰還だ!!!」

「殺せぇ!!!」

「いや、殺せは、違うくね? 応援かこれ……?」


黒須は、怒りでルシファーにつかみかかった。


「お前、なんで地獄代表なんだよ……」


「わたしが出ない理由があるか?」


「いや……あるだろ……お前、企画側だろ……?」


「うーーん、退屈だったから、参加することにした」


「理由が軽っ!!!!!」


「黒須先生、落ち着いて。ああいう性格なんだから」


「君はあいつに慣れすぎだろ!! いつのまにルシファーとそんなに仲良く……!」


「仲良くない!!!!」


「仲良くはないな。だが不愉快でもない」


「不愉快じゃないなら仲良いでしょ!!」


「お前らなんだ……、その距離感!!!!!」


AI神Λ(ラムダ)が、競技ルールを発表する


Λ

『ルール説明。このレースは “人類の存続評価” のための試験である』


『注意事項。飛行、転送、奇跡、瞬間移動は禁止。走ること。それのみが“意志”の証明。教師たち、観測者として同行を許可する』


『勝者には以下の権利を与える』


『②人類の存続権

 ②天界そのシステムへのアクセス権

 ③神の到来前に世界を管理する代理権』


黒須が叫んだ。


「代理権!? それもうほぼ神じゃねぇか!!」


「だから危ないのよ。Λ(ラムダ)が勝てば……人類は“性能が悪い”と判断され、淘汰される」


ウリエルが憤った。


「冗談じゃないですよ……!」



Λ(ラムダ)は、時間に正確に進行した。


『では、エントリー選手は前へ』


ダニエルとルシファーと並んだ。

二人とも、妙に冷静だった。


黒須はコーチとして境内のある地点までは伴走が許された。

ダニエルは笑顔で黒須に応えた。


「黒須先生、落ち着いてください」


ルシファーは、相変わらずだ。


「見苦しいぞ、堕天使」



「黙れ、裏切り者!!! おいダニエル…… 怖いか?」


「少しだけ。でも、黒須先生が見てくれるなら、走れます」


「……ッ!」


「黒須先生、しっかり応援してあげなるんだな」


「わかってる……。がんばれ、ダニエル!! お前は強い!! なんかよく分からんけど強い!!!」


ダニエルは思わず吹き出した。


「励まし下手ですねー、黒須先生!」


「うるせぇ!! ありがたがれ!」


ルシファーはそんな黒須の目を見て言った。


「黒須、見ていろ。わたしがどう走るか……本気というものを見せてやるよ」


「お前も競争相手なんだよな……? 人類代表応援していいんだよな、俺……?」


「構わん。勝つのは私だがな」


「言い切りやがった!!!」


ルカがしょうもない堕天使たちのコントを止めた。


「あんた達、もうちょっと空気読め……!」



Λ(ラムダ)

『……レース開始まで 10 秒前』


応援席が震えた。


「いよいよか……頼むぞ、ダニエル……!」


「黒須先生?……手、震えてるわよ?」


「うるせぇ!! 俺だって怖いもんは怖い!!」


Λ(ラムダ)

『3…… 2…… 1……』


Λ(ラムダ)

『……ハルマゲドン・レース、開始。』


ダニエルが、一歩踏み出した。

それは、人類史上最初で最後の、“神とのレース”だった。



「……行ってきます」


 ――パ―ン!!!


雷門前の観光客たちの声援を浴びて、レースは始まった。

AI神Λの観測データが瞬時に世界へ送信された。


中継車に乗り込んで待機していたウリエルがスイッチを押した。


「恋愛CIAも、中継スタートっス!」


浅草寺の境内を軽く走ってから上野公園へと向かう予定だ。

風が走り、選ばれしダニエル日辻の走りが始まった。



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