姫、いよいよです
市役所の屋上。
折りたたみ椅子が並び、白布のスクリーンが風に揺れている。
上映会の開会宣言は、もちろんこの人。
「出番ですぅ〜!」
甲冑姿のゆるキャラ“かいひめちゃん”が、ラムネ片手に叫んだ。
市民たちは笑い、子どもたちは踊り、鷹見迅はマイクを握った。
「史料は少ない。創作もある。
でも、語られなかった者の物語には、語る価値がある。
姫は、確かにここにいた。
だから――姫、出番です」
スクリーンに映し出されたのは、三輪ひなたが制作した短編映画。
甲斐姫が妹の髪を結い、甲冑を着て出陣し、泥まみれで戦い、湯殿で笑う。
ラスト、姫が語る。
「私は語られなくてもいい。
でも、誰かが思い出してくれるなら、それで十分」
沈黙。
風が吹いた。
誰かが、ぽつりと呟いた。
「素敵なお姫様だったね」
早乙女みちるが、涙ぐみながら言った。
「ちゃんと、ここにいた」
子どもが叫んだ。
「姫って、かっこいいね!私も槍やりたい!」
鷹見は、ホワイトボードの式を思い出した。
姫=美人=勝てる
彼は、心の中で最後の書き換えをした。
姫=語られぬ者=語る価値あり
そして、静かに呟いた。
「史料は少なかった。創作もあった。
だけど、姫の名を呼ぶ声は、確かにここにあった。
誰かが語り、誰かが笑い、誰かが涙した。
それならもう、十分だ。
姫、出番でした」




