姫、プレゼンです
市民説明会の会場は、行田市役所の大会議室。
椅子は折りたたみ、空調は微妙、マイクはハウリング気味。
それでも、鷹見迅は立った。
「本日は、甲斐姫を主役にしたドラマ誘致について――」
「のぼう様は出ますか?」
「出ません!」
「じゃあ、三成は?」
「出ません!」
「じゃあ誰が出るの?」
「姫です!」
鷹見は、マイクを握り直した。
落語調で語り始める。
「甲斐姫――成田氏長の娘にして、東国無双の美人。
槍を持ち、馬に乗り、水攻めに耐えた。
でも、史料はA4一枚。出典は“たぶん”。
それでも、語りたい。語られなかった者の物語を!」
会場がざわつく。
そのとき、早乙女みちるが前に出た。
「史料の一文を、読ませてください」
彼女は、静かに朗読した。
“甲斐姫、武芸に秀で、美人であった。忍城の戦いに出陣す。”
「これだけです。でも、これだけで十分です。
姫は、確かにここにいた。
槍を持ち、城を守った。それだけで、語る価値があります」
沈黙。
そのとき、スクリーンに映像が流れ始めた。
高校生・三輪ひなたが制作した短編映画。
甲斐姫が妹の髪を結い、甲冑を着て出陣し、泥まみれで戦い、湯殿で笑う。
ラスト、姫が語る。
「私は語られなくてもいい。
でも、誰かが思い出してくれるなら、それで十分」
会場が静まり返る。
誰かが、ぽつりと呟いた。
「素敵なお姫様だったね」
鷹見は、ホワイトボードの式を思い出した。
姫=美人=勝てる
彼は、心の中で書き換えた。
姫=語られぬ者=語る価値あり
「よし。姫、出番です」




