姫、お風呂のあとはラムネです
「姫も風呂、入ったんだろうなあ」
銭湯「湯の城」の常連・大熊源八は、湯船に浸かりながら言った。
鷹見迅は、文化課の調査でここまで来た自分を少しだけ疑っていた。
「甲斐姫の入浴記録なんて、あるんですか?」
「ない。でも、入ってた。絶対に」
「根拠は?」
「姫は湯上がりにラムネ飲んでた。これは史実だ。俺の中では」
隣で湯をかけていた早乙女みちるが、真顔で言った。
「姫の時代にラムネはありません」
「じゃあ、湯冷ましだな。瓶に入ってたらラムネだ」
「それは瓶の話です!」
その後、鷹見たちは理髪店「髪結い甲斐」へ向かった。
店主・栗橋つばさは、甲斐姫の髪型に異常なこだわりを持っていた。
「姫は前髪ぱっつんだった。これは確定です」
「確定って、何でですか?」
「槍を振るうには、視界が命。ぱっつんは合理的」
「それは戦術じゃない!」
「あと、姫はサイドを編み込んでた。これは美的戦略」
「戦略って言うな!」
みちるは、店内の鏡を見ながら呟いた。
「でも、姫って……意外と身近だったのかも」
鷹見は、ふと考えた。
泥まみれで槍を振るい、妹の髪を結っていたかもしれない姫。
湯に浸かり、ラムネ(的なもの)を飲んでいたかもしれない姫。
そのとき、高校生が店に飛び込んできた。
「すみません!甲斐姫の映画、作っていいですか!?」
三輪ひなた。地元高校の映像部部長。
目を輝かせていた。
「姫って、努力家だったんじゃね?
史料少ないけど、だからこそ想像できる。
かっこいいじゃん、そういうの」
鷹見は、ホワイトボードの式を思い出した。
姫=美人=勝てる
彼は、心の中で書き換えた。
姫=身近な人=語る価値あり
「よし。姫、出番です」




