姫、彼氏です
「甲斐姫より、のぼう様の方が有名じゃね?」
市民説明会の第一声が、それだった。
鷹見迅は、マイクを握ったまま固まった。
「いや、今日は甲斐姫の話をですね……」
「でも映画になったの、のぼう様でしょ?」
「それは……そうなんですけど……」
「しかもイケメンだったし!」
「それは顔の話だ!」
文化課の会議室に戻った鷹見は、のぼう様の銅像を睨んだ。
忍城の前に立つ、堂々たる姿。
その隣に、甲斐姫の像は――ない。
「脇役のくせに……」
鷹見は、銅像に向かって小声で言った。
その瞬間、背後から声が飛んだ。
「出番ですぅ〜!」
甲冑姿のゆるキャラ“かいひめちゃん”が、また現れた。
腰のラムネホルダーが、今日も揺れている。
「TikTokで“のぼう様と甲斐姫の恋物語”ってタグが伸びてますぅ〜!」
「それは違うだろ!」
「でも、姫がのぼう様に“槍を貸して”って言うシーン、バズってますぅ〜!」
「それ、史実じゃないだろ!」
早乙女みちるが、真顔で言った。
「でも、姫が恋してたっていう説もありますよ。創作ですけど」
「創作かよ!」
鷹見は、ホワイトボードに目をやった。
そこには、また誰かが書き加えていた。
姫+のぼう様=視聴率
「誰だこれ書いたの!」
彼はマーカーを手に取り、式を書き換えた。
姫=主役になれない者=それでも語る価値あり
「よし。姫、出番です」




