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姫、資料です
「これが甲斐姫の全史料です」
早乙女みちるが、誇らしげに差し出したのは――A4一枚。
鷹見迅は、受け取った瞬間に言った。
「軽いな」
「重みはあります!」
「紙の話だよ!」
内容はこうだ。
“甲斐姫、成田氏長の娘。武芸に秀で、美人であった。天正十八年、忍城の戦いに出陣す。”
以上。
注釈もなし。出典も「地元の伝承」と書かれている。
「これでドラマ一年やるのか…」
鷹見は、机に突っ伏した。
みちるは、目を輝かせて言う。
「でも!“美人で武芸に秀でた”って、もう勝ってますよね!」
「勝ってるって何にだよ!」
「視聴率です!」
「それは戦じゃない!」
そのとき、資料館の解説員がやってきた。
白衣にメガネ、年季の入ったバインダーを抱えている。
「甲斐姫は、たぶん実在してます。たぶんです」
「たぶんって言うな!」
「でも、忍城の戦いでは、200騎を率いて出陣したという伝説があります」
「伝説かよ!」
「あと、豊臣秀吉の側室になったという説もあります」
「説かよ!」
鷹見は、ホワイトボードに目をやった。
そこには、まだあの式が残っていた。
姫=美人=勝てる
彼は、マーカーを手に取り、もう一度書き換えた。
姫=史料は少ない=でも語る価値あり
「よし。姫、出番です」




