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姫、出番です
埼玉県行田市役所・文化課。
朝イチの会議室に、鷹見迅は呼び出された。
前夜の飲み会で「歴史は酒の肴に限る」と豪語したばかりの彼に、突如降ってきたのは――
「甲斐姫を主役にしたドラマを誘致せよ」
という、文化課史上最大の無茶ぶりだった。
「……誰ですか、それ」
鷹見は、ホワイトボードに目をやる。
そこにはすでに、誰かが書き残した文字があった。
姫=美人=勝てる
「勝てるって何にだよ……」
隣の席では、新人職員の早乙女みちるが、目を輝かせていた。
「甲斐姫ですよ!忍城の戦いで水攻めを跳ね返した、東国無双の美人武将です!」
「無双って……ゲームか?」
「史実です!たぶん!」
「たぶんかよ!」
鷹見は、机に置かれた資料を手に取った。
A4一枚。文字数にして、ざっと400字。
“甲斐姫、成田氏長の娘。武芸に秀で、美人であった。天正十八年、忍城の戦いに出陣す。”
「……これで大河一年やるのか?」
「やるんです!勢いで!」
みちるは拳を握った。
鷹見は、ホワイトボードの文字を見つめ直す。
姫=美人=勝てる
その式は、間違っている。
でも、間違ってるからこそ、面白い。
彼はマーカーを手に取り、式を書き換えた。
姫=語られぬ者=語る価値あり
「よし。姫、出番です」




