表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
96/388

第96話「血の匂いの先に」



 工房の奥に置かれた古い机を囲み、セインたちは最後の確認を終えた。

 外ではまだ避難の列が続いている。だが、彼らの目は一つの場所に向いていた。——城内、その中心。


「ここまで来たら、もう後戻りはできねえ」

 バークレイが腕を組み、鋭い眼で皆を見渡す。

「腐り切った王族と貴族。あいつらを据えたままじゃ、徴収を止めても同じことが繰り返される」


 セインは深くうなずく。

「根本を変えなきゃ、意味がない。俺たちが剣を抜く理由はそこにある」


 しばし沈黙。だが空気は重くはなかった。

 やがてバークレイが口の端を上げる。

「終わったらよ……美味い酒を飲もうぜ。街の外ででも、笑って乾杯するんだ」


 その言葉に、エリシアが小さく笑った。

「それなら約束する。絶対に生きて帰ろう」

 ミリアも祈るように胸に手を置き、頷いた。

「必ず……」

 エルンは肩をすくめつつも、指先に影を走らせて言う。

「フラグみたいなこと言うなよ。……けど、俺も付き合う」


 決意は固まった。

 一行は武具を整え、城塞へ向かった。


     ◇


 城の大門は破られてはいない。だが、開いていた。

 重い扉が半端に開き、鉄の蝶番が風に軋む。

 その先に広がる回廊は、異様なまでに静かだった。


「……おかしい」

 バークレイが呟く。

 通常なら兵士が二重三重に立ち塞がるはずだ。だが、影も形もない。


 歩を進めると、倒れている兵士の姿が目に入った。

 最初は一人、次は三人、さらに奥へ進むほど数が増える。

 だが、それ以上に異常だったのは——その死に様。


 どの兵士も、無駄なく急所を突かれていた。

 喉を一突き、心臓を一刺し、後頭部に一打。

 それぞれが一撃で絶命しており、抵抗の痕跡は一切ない。

 血は流れているのに、床に散らばる音も叫びも残されていない。


「……全員、正確に仕留められてる」

 エルンが顔をしかめ、倒れた兵の首元を確認する。

「力任せじゃねえ。技量……それも桁違いの“人間の手”だ」


 エリシアは剣を強く握りしめた。

「まるで、処刑されたみたい」


 ミリアは口元を押さえ、小さく震える声を漏らした。

「でも……兵士たち、みんな一瞬で……こんなの、どうやって……」


 セインは通路を見渡し、眉をひそめた。

「俺たちの進む道だけを、きれいに片づけてある。……まるで、ここまで来いと導かれてるみたいだ」


 血の匂いが濃くなる。通路を抜けるたび、整然と倒れた兵士が視界を埋める。

 これまで緻密に作戦を練り、命を賭けて突破してきた道が、今は何の抵抗もなく開けている。

 その不気味さが、胸の奥に重くのしかかった。


     ◇


 やがて、王の間へ続く大扉が視界に現れた。

 金で縁取られた双開きの扉。その前の警備も、すべて屍となって転がっている。

 喉を裂かれた者、眉間を貫かれた者。どれも一瞬で絶命したものばかり。


「……ここまで呆気ないと、逆に怖えな」

 バークレイが低く吐き出した。


 セインは剣の柄を握り直し、深く息を吸った。

「行こう。……この先に、全ての元凶がいる」


 扉の前に立ち、仲間たちと視線を合わせる。

 誰も言葉を発しない。ただ、頷き合う。


 セインは両手を扉にかけた。

 冷たい金属の感触。

 ゆっくりと押し開こうとした瞬間——


 場面は途切れ、静寂が落ちた。


――つづく


非常にテンポが早いのでブックマーク推奨してます!

また初心者なため、感想やレビューなど頂けるととても励みになりますので何卒よろしくお願いいたします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ