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第95話「炉心の決着」



 地下の炉心室は、赤黒い光と鉄の唸りで満ちていた。三重の制御陣が脈動し、壁に走る紋様は不気味な拍動を繰り返している。

 その中心に立ち塞がるのは、黄金の縁取りの仮面をつけた監督官たち。ひとりは札を無数に操る術者、もうひとりは短剣を舞わせる武人。二人の動きは淀みなく、互いを補うように流れていた。


「……面倒な相手だな」

 エルンが歯を食いしばり、影糸を揺らす。札の火花が糸を焼き切る。

「だが、やるしかない!」

 セインは剣を構え、一歩踏み込む。胸の奥のペンダントが低く鳴き、全身に力が走る。


 武人の短剣が滑り込む。氷のように冷たい軌跡を、セインは刃の腹で受け、柄で押し返す。重い衝撃。だが、その瞬間に札が宙を舞い、足元に束縛の紋が走った。

「くっ……!」膝が凍りつくように止まる。

「セイン!」ミリアの祈りが光となって紋を砕き、足が自由を取り戻す。

「助かった!」短く礼を飛ばし、再び踏み込む。


 エリシアは雷を剣にまとわせ、術者の札を一枚ずつ焼き落としていく。火花が散り、紙が灰となる。

「こんな紙切れに負けてられない!」

 雷撃が札束をまとめて焼き尽くし、術者の目がわずかに揺らいだ。そこをエルンの影糸が絡め取り、手首を縫いつける。

「今だ!」

 セインが疾駆し、武人の仮面へ刃を叩き込む。同拍刺し。刃先が金の縁を裂き、仮面が砕け散った。武人は呻き、崩れ落ちる。


 残った術者が札を最後に一枚だけ放つ。しかし、それはミリアの光に弾かれ、霧散した。影糸が再び伸び、体を縫い止める。

「……ここまでだ」

 セインが剣を突きつけると、術者は悔しげに目を細め、力を抜いた。戦闘は終わった。


     ◇


 監督官を退けた直後、制御陣が轟音を上げた。

「三つの輪を同時に止める!」

 エルンが叫ぶ。

「任せて!」エリシアが刃を根元に差し込み、雷で金属を焼く。セインは全身で柱を押し倒し、ミリアは祈りで暴発の衝撃を吸収する。


 三人の動きが重なり、轟音とともに制御輪が外れた。炉心が低く唸り、赤黒い光がしぼむ。

 やがて脈動が止まり、地下に静寂が訪れた。


「……止まった」

 ミリアが祈りの手を胸に当てる。

「これで徴収はできない。少なくとも、しばらくはな」

 エルンが肩で息を吐き、額の汗を拭う。

 エリシアは剣を鞘に収め、唇を噛んだ。「でも、また作られたら……」


 その言葉に、バークレイが口を開く。

「そうだ。炉を壊しても、根本は変わらない。命令を下す王と貴族がいる限り、同じことは繰り返される」

 彼の声には勝利の余韻よりも、苦い現実の響きがあった。


 セインは剣を握り直し、仲間を見た。

「……なら、王の間に行くしかない」

「やっと言ったな」エルンが苦笑し、影糸を揺らす。

 ミリアは震える指で祈り札を握り、「終わらせよう」と静かに言った。

 エリシアは剣の柄を叩き、「あいつらに、もう一度剣を向けさせないために」と瞳を燃やす。


 その時、城塞の上階から重い鐘が鳴り響いた。長く、低く、地の底を震わせるような音。

「……気づかれた」バークレイが顔を上げる。「王が動き出すぞ」


 空気が張り詰める。

 セインは一歩前に出て、はっきりと言った。

「ここで終わらせる。根本を、変えるために」


     ◇


 炉心の沈黙は、街の空気を確かに変えた。だがそれは始まりにすぎない。

 城の奥、王の間。その扉を開かなければ、救った命もまた奪われる。


 仲間たちの瞳に宿った決意は、もう揺らがなかった。


――つづく


非常にテンポが早いのでブックマーク推奨してます!

また初心者なため、感想やレビューなど頂けるととても励みになりますので何卒よろしくお願いいたします!

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