表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/389

9話-過去の残骸-



カルバン先生の指先が古地図の一点をなぞった瞬間、教室の床が低く唸った。

机がかすかに震え、窓ガラスがびしりと鳴る。


「……地震?」

「浮遊島でそんな……」


外から、巨石が地に叩きつけられたみたいな重音。

ミリアが目を細めた。


「違う。足音――“三拍”で近づいてる」


胸の石が、鼓動と同じ三拍で脈を刻む。ダン、ダン、ダン。

廊下で教師が声を張る。「全員、落ち着いて! 演習場へ避難!」


トーマが肩を掴む。「セイン、行く気か?!」

「……行かなきゃ」


避難の流れと逆行して、俺とトーマ、そしてミリアは回廊を駆けた。

石畳の振動が足裏から這い上がり、内臓を震わせる――巨大な心臓が、地の下で打っている。



◆演習場


飛び出した瞬間、肺の空気が抜けた。


そこに漆黒の巨影。

かつて王都兵団が討伐したはずの禁忌の魔獣――《鉄喰竜てつくらいオルドバル》。


金属鱗が擦れ、軋みが空気を裂く。尾が砂を削るたび、石柱が砕けて飛ぶ。

鼻を刺す鉄粉と油の匂い。鱗の隙間では、古い術刻が鈍く光っていた。


「……なんで、ここに……」トーマが声を失う。


咆哮。鼓膜が軋み、世界の密度が一段重くなる。

教師たちが結界を張る――が、竜の一振りで粉雪みたいに砕け散った。


思考より先に、足が前へ出る。柄を抜き、呼吸を整え――


影が竜脚の根元へ、低く滑り込んだ。


「下がれ」


短く低い声。

風塵の向こう、学院長ヴァルター・グロウルが立っていた。白髭が風に鳴り、巨体が竜の威圧を呑み込む。


「闘神……!」誰かが息を呑む。


オルドバルが鋼の牙を剥く。

ヴァルターは動かない。拳を握り――


一撃。

空が裂け、竜首が仰け反る。金属鱗が弾け、衝撃波が砂を爆ぜさせた。


二撃。

尾の薙ぎ払いを半歩沈んで外し、肋を穿つ。鈍い破砕音が重く響く。


三撃。

顎の付け根へ、芯だけを刺すみたいに短く深い打ち下ろし。


「力で勝つな。“芯”を斬れ」


昼間、俺に刻んだ言葉を、今度は竜へ刻み込む。

拳が落ちるたび、世界が一拍、静まる。――三拍。間合いが詩みたいに整っていく。



◆過去の残骸


俺はただ見ていたわけじゃない。

胸の石が鳴る方向、竜の音を聴く――生き物の拍じゃない。

鱗の奥で、壊れたオルゴールみたいに**スコア**が逆回転している。


「ミリア、聞こえるか」

「ええ。あれは“生”じゃない。過去の残骸を、誰かが**譜鎖スコア・チェーン**で動かしてる」


地面に走る黒い線――儀式痕の制御環が、竜の踵から演習場の隅へ伸びている。

あの線を断てば、音は止まる。


「トーマ、三十秒、視界を取ってくれ!」

「了解! 遮断杭ジャマー・ペグ、投下!」


トーマが杭を投げ込み、粉塵の壁がふわりと膨らむ。ミリアの指が俺の手首に触れ、微かな紋を描く。

「リンク完了。半拍だけ、あなたに私の音を貸す」


俺は低く走る。砂の上、制御環の中心線へ――

刃に火紋の譜を通し、呼吸を三拍で合わせる。


調律破断チューン・ブレイク


白光と赤の閃きが、黒い線を真っ二つに裂いた。

同時に胸の石が吸い上げる。

吸収ドレイン》――《鉄殻の譜:Lv1/磁引マグ・ドロー》取得


刃の縁で、微かな磁の唸り。

オルドバルの動きが一瞬、空回りした。音源を失って、巨体の拍がずれる。


「学院長、今!」


ヴァルターの足が一つ、静かに砂を踏む。

わずかな体重移動――間が満ちる。


四撃目。

拳が、竜の胸郭の**コア**へ真っ直ぐ落ちた。

金属の花が裏返るみたいな音。巨体が、膝から崩れる。


砂煙の向こうで、鱗の隙間から何かが転がり出た。黒い楔――荊冠の刻印。

俺の刃先が触れる前に、胸の石がちりと火花を散らし、楔は粉のように崩れた。


静寂。

遅れて歓声と泣き声。教師たちが結界を組み直し、避難の列を整える。


ヴァルターは拳を下ろし、砂を払った。

「学園に巣食う者へ伝わったはずだ。影が何を呼び戻そうと、この地には届かん」


落ちる夕陽が、その背中から巨大な影を伸ばす。

胸の石が熱を孕んで震えた。――この人がいる限り、学園は揺るがない。


だけど同時に思う。

**いつか俺は、この背中に“並ぶ”。**ただ守られるだけじゃない。音を、俺が取る。



◆残る音


崩れた竜の中に、まだ拍が一つだけ残っている。

耳ではなく、骨で聴く微かな“合図”。

ミリアが囁く。「……誰かが“見てる”。この竜は、扉だった。遠くの譜面に繋がってる」


トーマが楔の粉を指でつまむ。「符材が新しい……“今日”ここで差し込まれた」


視界の端、回廊の上。

白い袖口が、夕闇の縁で一拍だけ揺れ――すぐに人混みに溶けた。


「カルバン先生?」

呼びかけは風にちぎれ、届かない。


胸の石が、三拍を打つ。

ダン、ダン、ダン。


――門は七。鍵は心。

地図の端に、白いチョークの小さな印が浮かんだ気がした。


 「面白かった!」


 「続きが気になる、読みたい!」


 「今後どうなるの!!」


 と思ったら


 下にある⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎から、作品の応援をお願いいたします。


 面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ、正直に感じた気持ちでもちろん大丈夫です!


 ブックマークといただけると本当に嬉しいです。


 何卒よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ