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6話-カルバン-


混乱の夜が明け、鐘の音が雲海を渡る。

陽を受けた石畳を学生たちが駆け抜け、昨日の警鐘が嘘だったみたいに学園は穏やかだ――表面上は。


「セイン! また遅刻すんぞ!」

廊下の向こうでトーマが工具袋を揺らす。


「今日は大丈夫。歴史学だ。遅れるはずない」

「お前、歴史だと顔が別人になるよな……」


俺にとって歴史学は特別だ。世界の断片が“音”を持って近づいてくる、そんな授業。



◆優しき歴史教師


「おや、アルク君。今日も熱心だね」

穏やかな声。講壇の上、丸縁眼鏡のカルバン先生が微笑む。

栗色に白が混じる髪さえ柔らかく見える、四十代半ばの歴史教師。

教室の空気は先生が入るだけで温度が一度上がる――そんな人だ。


「昨日の課題、この字形が……」

羊皮紙を差し出すと、先生は目を細めた。


「《断裂》以前の写本だね。ここは『導き』じゃなく『調律』と読む。

――音を合わせ、世界を整える。古代の人々はそう考えていたんだ」


胸の奥で、ペンダントがかすかに脈打つ。

夢の呼び名と重なる響き――調律者。


「君は筋がいい。知識を積むだけじゃなく、“感じ取ろう”とする視線がある。私は、そういう生徒が大好きだ」


「また先生の褒め言葉だ」と女子が小声で笑い、教室に柔らかい空気が広がる。

ただ、その微笑の奥に、一瞬だけ影が走ったのを俺は見逃さない。



◆歴史演習――静から動へ


「本講義はここまで。……状況が状況だ、今日は“歴史演習”もやろう」

先生が黒板にチョークで七芒星を描くと、教室の空気がひんやり引き締まった。

魔導式の投影が天井に浮かび、過去の“儀式戦”の記録が立体映像で展開する。


「安全域での投影だ。恐れる必要はない。ただ、音を聴くんだ。

――敵の詠唱、仲間の足音、結界の震え。歴史は“ビート”で読む」


映像の信徒が詠唱する。赤黒い陣が床に走り、炎の腕が――来る。


俺は立ち上がって一歩前へ。

胸のペンダントが拍を刻む。ダン、ダン、ダン。

刃を構え、最短距離で中心線へ――


調律破断チューン・ブレイク


白光が走り、投影の陣が静かに割れた。

教室にざわめき。カルバン先生の瞳が、初めて驚きに揺れる。


「……美しい断ち方だ。中心の“音”を掴んだね」

「偶然、かもしれません」

「偶然が二度続けば、もう技術だよ」


先生は微笑み、机の引き出しから小さな石の栞を取り出した。

薄い銀糸で紋が縫い込み、角に七芒星の刻印。


「古い古音石フォニトの欠片で作った栞さ。図書塔で信号が乱れたら、これが私のもとへ“音”を返す。……君に預けよう」


石を受け取った瞬間、ペンダントが微かに共鳴する。

ちり、という小さな火花――俺と先生のあいだで、目に見えない線が結ばれた感覚。



◆廊下の影


演習後、教室を出る。

ミリアが肩を寄せ、小声で囁いた。

「さっきの断ち方、二拍目で切り上げた。……綺麗だった」


耳にかかる息。近い。

「ミリア、近い」

「褒めてるだけ」

彼女は悪戯っぽく微笑むと、すぐ真顔に戻る。

「……ねえ、今、空気が揺れた」


カサ……カサ……

廊下の影で、書類が逆さに“泳いだ”。

次の瞬間、墨色の紙蜥蜴ペーパーリザードが形を取り、跳びかかってくる。


「下がれ!」

俺は刃を抜き、一匹を斬り払う。


だが二匹目が低く滑り込み、ミリアの足元をかすめた。

「きゃっ!」

彼女は裾を取られ、その場に膝をつく。


「ミリア!」

咄嗟に俺は前へ出て、正面に立ちふさがった。


――その瞬間。


膝をついたミリアの顔の高さと、俺の下腹部がちょうど重なった。

まだ何も反応していない……はずだった。


だが。


「……っは……」

ミリアが驚いて口を開き、温かい吐息が俺の下半身にふわりとかかる。


(っ……!)


理性より先に、身体が正直に反応した。

一気に熱を帯びて“エクスカリバー”となり――


コツン。


不運にも、その勢いでミリアの頬に当たってしまった。


「んっ……!? な、なんか……当たってる……」


ミリアの声は小さく震え、頬が真っ赤に染まる。

潤んだ瞳で俺を見上げ、息を詰める。


「ち、ちがっ、これは事故で! 吐息が、いや違う! 今のは……!」

必死に言い訳を探す俺。


「……やっぱり、男の子なんだね……」

ミリアは俯き、小さな声でそう呟いた。

耳まで赤くなりながら。


その爆弾みたいな一言で、俺の方も真っ赤になった。


残りの蜥蜴が飛びかかる。

俺は刃を走らせ、《調律破断》で断つ。


最後の一匹が天井から落ち――ポン、と霧散した。

カルバン先生が影の奥に立っていた。


「……侵入符だ。図書塔の封印が、最近ざわめいている」


穏やかな声が響く中、

俺とミリアの間に残った熱と羞恥は、しばらく消えなかった。



「投影の残滓ざんしじゃない。誰かが意図的に差し入れた“侵入符”だ。

……最近、図書塔の封印が“ざわめく”」


先生の声は穏やかなままなのに、教室よりも低い響きを帯びている。

ペンダントが、それに呼応するように小さくトンと鳴いた。


「大丈夫かい、二人とも」

「はい。先生は?」

「このくらいなら。私は歴史教師だが、封印史は専門でね」


先生は袖の灰を払う。焦げ跡――かすかな“戦い”の痕。

その手の甲に、一瞬だけ七芒星の薄い痣が浮かび、すぐに霧のように消えた。


ミリアが息を呑む。俺は見なかったふりをした。

けれど胸のペンダントは、うなずくみたいに脈を打つ。



◆セインとの絆


放課後。講壇の影、先生と二人。

「セイン君。もし、歴史の“真実”に触れたら君はどうする?」

「恐れず、選びます。――誰かの正しさではなく、自分の音で」


先生はゆっくり頷いた。

「その答えを、私は待っていたのかもしれない」


窓から射す光が、先生の眼鏡に白い弧を作る。

「断裂は過去の出来事じゃない。今も“続いている”。

――門は七、鍵は心。拍を外さなければ、道は開く」


その言葉は、夢で聞いた囁きと同じ高さで響いた。


「セイン君、ひとつ忠告を。

明日の未明、図書塔の封印が“鳴る”。

君が行くなら、ひとりで行かないこと。音は、重ねるほど強くなる」


先生は背を向け、黒板の七芒星を手で払う。

チョークの粉が舞い、微かな鈴の音みたいに耳の奥で鳴った。



◆平穏の裏で


寮へ向かう道、トーマが「工具の新型、見たいだろ」とニヤニヤする。

ミリアは黙って歩きながら、時々俺の手首の石の栞に視線を落とした。

「それ、温度がある。……脈を持ってる」


「カルバン先生から」

「優しい人。でも、優しい人ほど一番、危ない場所に立つことがある」


笑い合える夕暮れ。けれど、その下で確かに何かが蠢いている。

胸のペンダントは小さく脈打ち、石の栞がかすかに明滅した。


――未明、封印は鳴る。


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