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22話-誓い-

アウリスの背が闇に消え、牢の中に再び冷たい静寂が訪れた。

 けれど、空気は先ほどとは違う。胸の奥に突き刺さった彼の言葉と視線は、氷のように鋭く残り続けていた。


「……あの人、やっぱりただ者じゃねえな」

 トーマが壁に背を預け、天井を睨む。声には苛立ちと畏怖が入り混じっていた。


「冷たい人だと思ったけど……目の奥に、少しだけ……寂しさみたいなものを感じた」

 ミリアがぽつりと呟いた。普段は感情を押し殺す彼女の言葉に、俺ははっとした。


 ――そうだ。確かに氷のような瞳だったのに、一瞬だけ揺らぎがあった。

 ヴァルターの名を口にした時。彼が「古き友」と呼んだ時。

 その一瞬の震えが、ただの冷徹な魔導士ではないことを示していた。


 胸の石に手を当てると、脈打つ鼓動が返ってくる。

 それは俺自身の心臓の鼓動と重なり、まるで二つの命が共に在るように感じられた。



「セイン」

 ミリアがこちらを見つめる。

「ヴァルター先生の言葉……忘れないで。“力をつけろ”って。あの人の残した意思を、私たちで受け継がなきゃ」


「……ああ」

 声に出した瞬間、胸の奥で熱が広がった。

 それは恐怖を押し流し、代わりに小さな決意を灯してくれる。


「だったら、ここで誓おうぜ」

 トーマが拳を突き出す。「俺はお前を盾で守る。どんなに無茶でもな」

「私も。……回復の術を磨く。あなたたちを絶対に見捨てない」

 ミリアの手が重なり、俺も拳を重ねる。


 三人の拳が触れ合う瞬間、石牢の冷たさがほんの少しだけ和らいだ。



 その夜。

 寝返りすら打てないほど冷たい床に身を横たえながら、俺は目を閉じた。

 ――そして、夢とも幻ともつかぬ囁きを耳にする。


《試されるぞ、少年》


 はっと目を開く。だが牢内は闇と静寂に包まれていた。

 ただ一つ、胸の石だけが淡く光を放ち、床に波紋のような魔紋を描いている。


「セイン?」ミリアが起き上がり、震える声で言った。「今……光った?」

「……ああ。何か……声が聞こえた。ヴァルター先生じゃない。もっと冷たい……闇みたいな響きだ」


 残穢――。アウリスがそう呼んでいた。

 ヴァルターが遺した力の影が、俺に語りかけているのか。


 恐怖が喉を塞ぎかけた時、トーマが笑って肩を叩いた。

「気にすんな。力が何であろうと、お前が選ぶんだろ。飲まれるか、使いこなすか。それだけだ」

 その言葉に、胸の奥の迷いが少し晴れる。やはり俺は一人じゃない。



 翌朝、牢の扉が軋んだ。

 守備兵たちが現れ、無言で鎖をかけ直す。

「立て。監視下に置く。塔の主の命だ」


 俺たちは鎖を繋がれたまま回廊を歩かされた。

 魔塔の内部は壮大だった。壁一面に浮遊する魔術灯が並び、天井には巨大な魔法陣が刻まれ、塔そのものが一つの生き物のように脈動している。

 その空気に触れるだけで、俺の胸の石も反応する。淡い脈動が強まり、身体の奥に熱が走った。


「……やっぱり、この塔は何かを感じてやがるな」

 トーマが唸る。

「ええ……。ただの建物じゃない」ミリアが頷いた。「生きているみたい」


 その言葉に俺も同意するしかなかった。

 だが同時に、どこかで見られている感覚に背筋が冷たくなる。監視というより、審査。まるで俺たち一人ひとりを測っているかのようだ。



 広間へと導かれると、そこには再びアウリスの姿があった。

 深紅の外套を翻し、杖を突き立てたその立ち姿は、王者に劣らぬ威圧を放っている。


「……さて」

 彼の瞳が鋭く俺を捉えた。

「ヴァルターの意思を継ぐ者かどうか、見極めねばならぬ」


 その言葉に息を呑む。

 やはり――これは始まりにすぎない。


「セイン・アルク。お前には試練を与える」

 静かに告げられたその言葉は、牢の鎖よりも重く感じられた。

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