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21話-魔塔主アウリス-

「ふむ。お前たちがポータルで現れた者か」

 低く響いた声が、石牢の冷えた空気を震わせた。


 アウリス――魔塔の主。深紅の外套を揺らし、金糸で縫い込まれた紋様は、魔術師の中でも最高位にある証。兵士たちは直立し、まるで王に仕えるかのように背筋を伸ばしていた。


「セイン・アルク……名は聞いている」

 氷のような瞳が、まっすぐ俺を射抜いた。

「さて――どういう風の吹き回しか、説明してもらおうか」


 言葉を返せず、俺は唇を噛んだ。説明できるはずがない。ここで真実を語れば、国王殺しの濡れ衣を着せられた状況では逆に死を招く。沈黙の中で胸の石が熱を帯び、微かに脈打った。



 アウリスの瞳が細められる。

「……なるほど。やはり、この揺らぎか」

 その声音に、背筋が粟立つ。


「ヴァルターの残穢が……この場に留まっている」

 彼は俺を見据えたまま言った。

「古き友の気配。闘神の気迫が、微かに……君の胸から漂っている」


「ヴァルターの……残穢?」

 俺の喉が震える。

 アウリスは頷いた。

「そうだ。彼とは若き日より幾度も剣を交えた。時に同志、時に競う者としてな。だが、最後に会った時、彼は言った。“己を継ぐ者が現れるならば、必ずお前が見抜け”とな」


 その言葉に、心臓が大きく跳ねた。

 ヴァルターが――俺のことを……?



「……待てよ」トーマが息を荒げて割り込んだ。

「だったらセインを信用してくれよ! 俺たちは逃げてきただけだ、悪いことなんてしてねえ!」


「そうです」ミリアも続いた。

「セインは……命を賭して守られたんです。ヴァルター先生に。あの人が信じたからこそ、私たちがここにいる」


 二人の声が牢の中で重なる。だがアウリスの眼差しは依然として冷ややかだった。


「友を慕う心情は理解する。しかし――私はこの塔を預かる主。情ではなく理で判断する。お前たちが何者で、何を背負い、何を為すのか。見極めねばならん」


 その言葉は鋭利な刃のように響いた。

 だが同時に、そこには確かな重みがあった。



 アウリスは牢の前に立ち、杖を掲げる。

 微光が走り、空気に魔法陣が浮かび上がった。

「……ヴァルターよ、古き友よ。汝の意思がこの少年に宿るのなら、私に示せ」


 光が揺らめき、胸の石が激しく脈動した。

 眩しさに目を閉じかけたとき、耳の奥に微かな声が響いた気がした。――ヴァルターの声だ。


《進め。迷うな》


 次の瞬間、石から淡い光が溢れ出し、牢内を照らした。


「っ……!」

 兵士たちがざわめき、槍を構え直す。

 アウリスの瞳が鋭く光った。


「……確かに。これはヴァルターの意志の残滓」

 彼は低く呟いた。


「だが、それがお前自身の力とは限らぬ。宿命に縛られた傀儡かもしれぬし、偶然かもしれぬ。私はそれを見極める」



 牢の空気が張り詰めた。

 俺は奥歯を噛みしめ、トーマとミリアを見やった。

 二人の瞳には揺らぎがなかった。


「……アウリス様」

 俺は声を絞り出した。

「今は答えられないことが多すぎる。だが――俺は、必ず証明してみせる。ヴァルターの遺志を、俺自身の力として」


 沈黙。

 やがてアウリスは瞳を伏せ、背を向けた。


「よかろう」

 低く響いた声が、牢を震わせた。

「暫く監視下に置く。逃げても、隠れても無駄だ。ここは魔塔だ。だが……お前が本当に奴の遺志を継ぐなら、いずれ機会は訪れるだろう」


 そう言い残し、重厚な足音と共に回廊の奥へと消えていった。



 牢に残された俺たちは、しばし言葉を失った。

 トーマが壁に背を預け、息を吐く。

「……なんかさ、やっぱとんでもねえ所に来ちまったな」


 ミリアは俺を見て、小さく頷いた。

「でも……信じよう。先生が最後に守ってくれた意味を。セイン、あなたの中にあるその光を」


 胸の奥で石が脈を打つ。

 ヴァルターの背中が脳裏に蘇る。

 俺は拳を握り締め、静かに答えた。


「……ああ。絶対に証明してみせる」


 冷たい牢の中で交わされた決意は、確かに熱を帯びていた。

 だがその熱が試されるのは、まだ始まりにすぎなかった。

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