20話-新たな旅路-
光が弾けるように視界が白に塗りつぶされ、足元の感覚が一瞬消える。
次に瞼を開けたとき、そこはもう学院の広場ではなかった。
冷たい石畳。天井には半透明の魔力結晶が淡く灯り、地下の大空洞を照らしている。ここは――転移ポータルの終着地。ネザリア大陸にあると聞かされていた「魔塔」の外縁部らしい。
「……着いた、のか?」
声を震わせたのは俺――セイン・アルク。まだ鼓動は早鐘のように鳴り、胸の石が熱を帯びていた。
「な、なんとか無事だな……」
隣でトーマが膝に手をつき、荒い息を吐く。
その後ろでミリアも壁に手を当て、震える肩を押さえていた。
――生き延びた。
だが、その代償に何を失った? ヴァルターの背中が脳裏に焼き付いて離れない。
⸻
「セイン」
ミリアが口を開いた。
「さっき……先生――ヴァルターが最後に言っていたこと、覚えてる?」
俺は強く頷いた。
「“力をつけろ”。“逃げろ”。……あの人の言葉を、無駄にはしない」
言葉にすると、胸の奥の揺らぎが少しだけ静まる。
トーマが苦笑しながら拳を差し出してきた。
「じゃあ誓おうぜ。俺たち三人で絶対に生き延びて、いつかあの借りを返す」
「……うん」
ミリアの小さな手が重なり、俺も拳を置く。
ひとときの誓いが、冷たい空気を少しだけ温かくした。
⸻
しかし、その時間は長く続かなかった。
「そこまでだ!」
鋭い声と共に、回廊の両端から兵士たちが雪崩れ込んできた。
青銀の鎧に身を包み、槍を構えた魔塔の守備兵。
「なっ……どうして!」
トーマが叫ぶ間もなく、十数人の兵士に取り囲まれる。
彼らの目には警戒と疑念が露わだった。
「身分を明かせ。なぜ王都からこの塔に転移してきた?」
「俺たちは――!」
言いかけて、言葉が喉に詰まる。王殺しの真実を話せるはずがない。何を言っても信じてもらえない。
「答えぬか……ならば捕縛せよ!」
命令と同時に、鎖の魔法陣が足元に展開し、俺たちの四肢を絡め取った。
「くっ……!」
抵抗する間もなく、鎖は魔力を吸い取り、体を重く縛り付けていく。
⸻
暗い牢へと連行された。
冷気がしみる石造りの独房。鉄格子の向こうでは兵士が見張っている。
トーマは歯を食いしばりながら壁を蹴った。
「なんだよこれ! 俺たちは何もしてねえ!」
ミリアは俯きながらも、俺の方へ目をやる。
「……セイン。あなたはどうする?」
俺は握りしめた拳を震わせた。
「ヴァルターが命を懸けて守ってくれたのに……ここで捕まって終わるわけにはいかない」
言葉にした瞬間、胸の石が脈打ち、牢の中にかすかな光が揺れた。
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そのとき。
「静まれ」
重厚な声が響き、兵士たちが一斉に姿勢を正した。
牢の前に現れたのは、中年の貴族風の男だった。
深紅の外套に金糸を縫い込み、背筋は伸び、瞳は冷ややかに光る。
その存在感だけで、空気が一変した。
「……あれが……」
「魔塔の主……!」
兵士たちが小声で囁く。
アウリス――この大陸の魔塔を治める大魔導士。
その姿が、俺たちの前にあった。
「ふむ。お前たちがポータルで現れた者か」
冷徹な瞳が、まっすぐに俺を射抜いた。
「セイン・アルク……名は聞いている。さて――どういう風の吹き回しか、説明してもらおうか」
牢の中で息を呑む俺たち。
ついに、決して逃れられぬ権威の前に立たされていた。




