2話-謎の少女-
最初に異常に気づいたのは、指先だった。
冷たいはずの石の手すりが、俺の鼓動に合わせて微かに震えている。
石造りの螺旋階段を下りるほど、空気は刃物のように鋭くなる。
壁の魔導灯は青白く脈打ち、影が長く、背にまとわりついた。
「……まるでダンジョンだな」
「怖いの?」
ミリアが横から覗き込む。
銀髪が頬に触れ、ふわっと甘い香りが鼻をかすめた。
「……少しだけワクワクしてる」
「正直者ね」
ミリアはにこりと笑う。
段差で軽くつまずき、俺の腕に自然にしなだれかかってきた。
(ち、近っ……!)
外套の襟元からのぞく白い鎖骨、肩口に押し当てられる柔らかい感触。
喉が勝手に鳴り、慌てて目を逸らす。
当の本人は何も気づかず、軽い調子で言葉を継いだ。
「……こういう時は“手を貸して”って、言うんでしょ?」
(無自覚すぎるだろ……!)
先頭を歩く監督官は無言だ。杖の先でコン、コンと石を叩き、一定のリズムを刻む。
その音に呼応するように、胸元のペンダントが同じ拍で脈を打った。
⸻
◆封印扉
黒鉄の大扉に辿り着く。
封呪の線が幾重にも重なり、水面のように淡く波打っていた。
監督官が三本の鍵を差し込む。
ガチャリ――と音を立て、障壁は光の粉となって散った。
「ここから先は封印区画だ。未整理の写本、危険な遺物……決して《深封の扉》に近づくな」
鋼のように冷たい声。
俺とミリアは小さく頷き、中へ足を踏み入れた。
地下に広がる紙の海。
天井まで届く書棚の影、羊皮紙の匂い。
結晶灯の光が瞬き、眠る知識を目覚めさせる。
「セイン、こっち」
ミリアが身を寄せてくる。
外套の裾が俺の手の甲に触れ、細い髪が頬をかすめる。
ページを覗き込もうとした彼女の胸元がわずかに揺れて――危うく目を奪われかけた。
「寝癖、まだ立ってる」
「……っ!」
不意に髪をつままれ、さらに襟元が揺れた。
ちらり、と白い谷間。
同時に甘い香りが広がり、頭の中が真っ白になる。
(やめろやめろやめろ……! 集中しろ俺!)
⸻
◆囁き
奥の石壁から、不気味な声が響いた。
『……光を、汚せ。聖なるものを、堕とせ』
全身に鳥肌。
監督官が杖を跳ね上げ、光陣を展開する。
「動くな!」
石壁に淡い線が浮かび、封印された扉の輪郭が露わになる。
術式には亀裂が走り、奥から黒い光が滲み出していた。
「削がれている……誰かが触ったな」
監督官の声が低く唸る。
ミリアが一歩前へ。外套が床を擦り、その音がいやに大きく響いた。
「もし破られたら?」
「封じ直す。命が要るなら、私が払う」
凛とした声に、胸の奥が熱を帯びる。
その熱に応えるように、ペンダントがじり、と火花を散らした。
⸻
◆転倒ハプニング
ゴウン――!
封印扉の奥から地鳴りのような音。石床が揺れ、空気がびりっと震えた。
「きゃっ!」
ミリアが大きくよろめき、俺の胸に倒れ込む。
「うわっ……!」
がっつり抱きとめた瞬間――
ふわん、と柔らかい感触が直撃した。
(お、おいおいおいおい!)
胸に、思い切り。
全力で冷静になろうとしたが……下半身はまるで別人格だった。
――ゴツン。
反応した“それ”が、不運にもミリアの下腹部に当たってしまった。
「……っひゃ!?」
ミリアの喉から、驚きと一緒に妙に甘い声が漏れる。
驚きと……それ以外の何かが混じったような声。
その声で俺の思考も吹っ飛んだ。
「ち、違う! これは事故だ! 本当に事故で!」
「……やっぱり、男の子なんだね……」
耳まで真っ赤にして、ミリアが小さく俯いた。
清楚そのものの顔でそんなこと言うから、余計に頭がぐるぐるする。
(ちょっと待て俺! 落ち着け! 封印がどうとか言ってる場合じゃ……いや、言わなきゃダメだろ!)
胸のペンダントが熱を帯びるのも、今は全力でタイミングが悪すぎた。
⸻
◆地上へ
「二人は戻れ。ここは私が封じる」
監督官の声で我に返る。
「……い、行きましょう、セイン」
ミリアが小さな声で言い、そっと俺の手を取った。
指先が震えているのに、その温もりは確かだった。
螺旋階段を駆け上がる。
地上に出た瞬間、鐘が鳴り響き、黒煙が空を裂く。
胸の奥で、また声がした。
『――調律者』
俺はミリアの横顔を見やり、赤く染まった頬を思い出しながらも拳を握った。
「……望むところだ」
ペンダントが閃光を放ち、次の物語の扉を開こうとしていた。
「面白かった!」
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