15話-闘神の怒り-
白い髭を揺らし、ヴァルターはただ一歩、前へ踏み出した。
その瞬間、広場全体を圧する覇気が爆ぜる。空気が震え、石畳に亀裂が走った。
「……な、なんだこの圧力は!」
信徒たちが一斉に後ずさりし、弓を構えたルカリスですら矢を放てずに固まった。
ヴァルターは彼らを一瞥しただけで、低く呟いた。
「国王の御前で……この学院で……貴様らごときが暴れるか」
怒気が地を這い、耳を劈くほどの轟音に変わる。
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「行け、奴はただの人間だ!」
光輪を背負う信徒が叫ぶと、数十の黒衣が一斉に突撃してきた。
剣を振り上げ、呪文を唱え、矢を放ち――広場が戦場に変わる。
だが。
「うおおおおおおおッ!!!」
ヴァルターが拳を振るっただけで、前列の信徒が十人まとめて吹き飛んだ。
肉も骨も砕け、石畳に叩きつけられた衝撃が地震のように広がる。
「ば、馬鹿な……! 一撃で……!」
信徒たちが怯んだ隙を、堕天使たちが動いた。
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「闘神ヴァルター! その名、今日ここで地に墜ちる!」
サーベルズが咆哮と共に斬りかかる。剣は稲妻の速さで連撃を刻む。
「斬鉄の剣技――神裂!」
空気が裂け、金属すら切断する音が響く。
だがヴァルターは、ただ腕を振り上げ、剣撃を素手で受け止めた。
「なっ……馬鹿な!?」
「……剣に頼るから脆い」
拳を振り下ろす。
サーベルズの巨体が石畳に叩きつけられ、地面ごと陥没した。
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次に現れたのは弓の堕天使ルカリス。
矢を番え、空へと撃ち放つ。瞬時に百本の光矢へと分裂し、雨のように降り注ぐ。
「全てを貫け、《天穿の光雨》!」
無数の矢が広場を覆い、逃げ場はない――はずだった。
ヴァルターは腕を一振り。
その一撃で烈風が巻き起こり、矢の雨ごと空を薙ぎ払った。
「力なき光など……陽光とは呼ばん」
風圧に押され、ルカリスは空から地に叩き落とされた。
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残るは魔法の堕天使アスタリオ。
彼は既に詠唱を終えていた。
「では、貴様の肉体ごと焼き尽くしてやろう――《真光崩滅》!」
頭上の光輪が輝きを増し、空そのものが白く灼けていく。
観客たちが悲鳴を上げ、国王を護衛する騎士たちすら膝をつく。
その光がヴァルターを飲み込もうとした――瞬間。
「黙れ」
たった一言。
ヴァルターの拳が振り抜かれ、空を砕いた。
光輪は粉々に砕け散り、アスタリオの魔法は霧散した。
その衝撃だけで、広場全体の炎が一瞬にして吹き消される。
「……化物だ……」
誰かが呟いた。
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気づけば、信徒たちは膝をつき、恐怖で身動きできなくなっていた。
堕天使たちですら息を荒げ、地に伏している。
ヴァルターは拳を下ろし、ゆっくりと国王の前に立った。
その背中は巨大で、揺るぎなく、光を背負った巨人のようだった。
「陛下。ご安心を」
その声は静かだったが、広場の隅々まで届いた。
「この学院、この国。俺がいる限り、誰一人触れさせん」
闘神の覇気がなおも広場を覆い、黒衣の信徒たちは一人残らず震えていた。
圧倒的な力。誰も抗うことすらできなかった。
――セインは胸の石を握りしめた。
その光景に息を呑みながらも、心の奥底で思った。
自分は、まだあまりに遠い。
だが、必ず――この背中に追いつく。