表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

15/373

15話-闘神の怒り-

白い髭を揺らし、ヴァルターはただ一歩、前へ踏み出した。

 その瞬間、広場全体を圧する覇気が爆ぜる。空気が震え、石畳に亀裂が走った。


「……な、なんだこの圧力は!」

 信徒たちが一斉に後ずさりし、弓を構えたルカリスですら矢を放てずに固まった。


 ヴァルターは彼らを一瞥しただけで、低く呟いた。

「国王の御前で……この学院で……貴様らごときが暴れるか」


 怒気が地を這い、耳を劈くほどの轟音に変わる。



「行け、奴はただの人間だ!」

 光輪を背負う信徒が叫ぶと、数十の黒衣が一斉に突撃してきた。

 剣を振り上げ、呪文を唱え、矢を放ち――広場が戦場に変わる。


 だが。


「うおおおおおおおッ!!!」


 ヴァルターが拳を振るっただけで、前列の信徒が十人まとめて吹き飛んだ。

 肉も骨も砕け、石畳に叩きつけられた衝撃が地震のように広がる。

「ば、馬鹿な……! 一撃で……!」


 信徒たちが怯んだ隙を、堕天使たちが動いた。



「闘神ヴァルター! その名、今日ここで地に墜ちる!」

 サーベルズが咆哮と共に斬りかかる。剣は稲妻の速さで連撃を刻む。

「斬鉄の剣技――神裂!」


 空気が裂け、金属すら切断する音が響く。

 だがヴァルターは、ただ腕を振り上げ、剣撃を素手で受け止めた。


「なっ……馬鹿な!?」

「……剣に頼るから脆い」

 拳を振り下ろす。

 サーベルズの巨体が石畳に叩きつけられ、地面ごと陥没した。



 次に現れたのは弓の堕天使ルカリス。

 矢を番え、空へと撃ち放つ。瞬時に百本の光矢へと分裂し、雨のように降り注ぐ。


「全てを貫け、《天穿の光雨》!」


 無数の矢が広場を覆い、逃げ場はない――はずだった。

 ヴァルターは腕を一振り。

 その一撃で烈風が巻き起こり、矢の雨ごと空を薙ぎ払った。


「力なき光など……陽光とは呼ばん」


 風圧に押され、ルカリスは空から地に叩き落とされた。



 残るは魔法の堕天使アスタリオ。

 彼は既に詠唱を終えていた。

「では、貴様の肉体ごと焼き尽くしてやろう――《真光崩滅》!」


 頭上の光輪が輝きを増し、空そのものが白く灼けていく。

 観客たちが悲鳴を上げ、国王を護衛する騎士たちすら膝をつく。


 その光がヴァルターを飲み込もうとした――瞬間。


「黙れ」


 たった一言。

 ヴァルターの拳が振り抜かれ、空を砕いた。

 光輪は粉々に砕け散り、アスタリオの魔法は霧散した。

 その衝撃だけで、広場全体の炎が一瞬にして吹き消される。


「……化物だ……」

 誰かが呟いた。



 気づけば、信徒たちは膝をつき、恐怖で身動きできなくなっていた。

 堕天使たちですら息を荒げ、地に伏している。


 ヴァルターは拳を下ろし、ゆっくりと国王の前に立った。

 その背中は巨大で、揺るぎなく、光を背負った巨人のようだった。


「陛下。ご安心を」

 その声は静かだったが、広場の隅々まで届いた。

「この学院、この国。俺がいる限り、誰一人触れさせん」


 闘神の覇気がなおも広場を覆い、黒衣の信徒たちは一人残らず震えていた。

 圧倒的な力。誰も抗うことすらできなかった。


 ――セインは胸の石を握りしめた。

 その光景に息を呑みながらも、心の奥底で思った。


 自分は、まだあまりに遠い。

 だが、必ず――この背中に追いつく。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ