1話 銀髪の転入生と封印区
――轟く鬨の声。
「「「英雄王セイン! 英雄王セイン!」」」
剣も旗も、空まで震わせる熱狂。
最前に立つ俺は王冠を戴き、剣を掲げる。動きひとつで、数万の喉が静まった。
「守る王」「導く英雄」「未来を託す者」――視線がそう告げていた。
かつて“王殺し”の罪で追放された少年が、だ。
今は世界を背負い、英雄王として――
「聞け! この剣は奪うためではなく、守るためにある。血の歴史を断ち切り、誰もが笑う未来を掴む!」
歓声。涙。空が割れるほどの熱が、俺を包む。
――必ず、この世界を変える。
……そこで目が覚めた。冷たい天井、固い寝台。
遠すぎる未来。けれど、必ず辿り着く場所だと胸が告げていた。
ドンドンッ!
「セイン! 起きろ、寝坊魔!」
扉の激しいノックで現実へ引き戻され、ベッドから転げ落ちる。鏡の中、黒髪は見事に爆発。
「……くそ」
飛び込んできたのは悪友トーマ。栗毛を揺らし、肩をすくめる。
「今日は戦技の小テスト、レオニス教官だぞ」
「大丈夫。俺には秘技がある」
「秘技?」
「全力疾走」
「秘技じゃねぇ!」
笑いながら肩に拳骨をもらい、俺たちは朝の学園を全力で駆け抜けた。夢の余韻はまだ胸に残る。だが並んで走る相棒の体温が、不安を薄めてくれる。
◆
ぎりぎりで戦技場へ。黒マントのレオニス教官が無言でこちらを見るだけで、背筋が伸びた。
「アルク、遅い」「すみません」「言い訳は要らん。――構えろ」
木剣を握る。雑念がすぅっと消える。
「始め!」
木剣が乾いた音を撒き散らす。二撃、三撃。教官は軽く受け流し、間合いのひずみに針のような突きを刺してくる。
「はっ、はっ……!」
「悪くない。――だが甘い」
ヒュ、と風が鳴り、木剣の先が肘をかすめるだけで、全身が凍った。
「軽さで誤魔化すな。地を掴め」
その瞬間、胸のペンダントがとくんと脈打つ。母にもらった古い銀の石。
心臓と同じ拍で、微かに熱い。――生きているみたいだ。
(気のせい、か?)
焦りを押し込み、最後まで食らいついた。結局一太刀も通らずに終了。それでも冒頭の「悪くない」で、悔しさの奥に火が灯る。
◆
放課後の図書塔アルカンティア。
石の冷気と羊皮紙の匂いに包まれた静寂の中で、俺は出会った。
白外套、長い銀髪。
灯りに照らされた横顔は息を呑むほど整っていて、雪の粒を編んだように髪が光を散らす。
◆
「それ、綺麗ね」
彼女の視線が俺の胸元――銀のペンダントに落ちた。
ふわりと近づき、気づけば胸がかすかに触れている。
(っ……!)
柔らかな感触が一瞬伝わり、心臓が跳ねる。
だがミリア本人は気づかず、きょとんと首を傾げていた。
「鼓動に合わせて光るなんて、不思議」
慌てて一歩下がった俺の顔は、熱くなるのを止められない。
「私はミリア。昨日、転入してきたの」
「セイン・アルク。戦技科一年」
名を返すと、彼女はぱっと笑みを咲かせた。
清楚なはずの笑顔なのに、なぜか艶めいて見えてしまう。
「ねえ、セイン。良かったら……封印区へ一緒に行かない?」
「封印区……?」と戸惑う俺に、ミリアはふと指先で俺の髪をつまむ。
「寝癖、一本だけ立ってる。……変なの」
指先がかすかに触れた瞬間、シャンプーのような甘い匂いが漂った。
さらに外套の襟が揺れ、白い胸元がちらり――
「――っ!」
(やば、見えた……!?)
ミリアは全く気づいていない。
ただ無邪気に笑いかけてくるだけ。
(……天然すぎるだろ)
石段を下りる途中、足を滑らせたミリアが勢いよく倒れ込んできた。
「きゃっ!」
支えようと腕を伸ばした俺もバランスを崩し、二人そろってごろんと転がる。
石床に背を打ち、気づけばミリアが俺の胸に覆いかぶさっていた。
「……っ」
至近距離。鼻先が触れそう。
乱れた外套の隙間から、うっすらと覗く白い肌。
そして、俺に跨り押し当てられた柔らかさに、俺の身体は――
(……やばい、反応してる!?)
ギンッ、と自分でも分かるくらい。
一瞬の沈黙。
次に気づいたのは、ミリア
「……んっ……!」
俺のエクスカリバーが解き放たれミリアを攻撃している。
ミリアの頬がみるみる赤く染まっていく。
「……あ、あの……」
「ち、ちがっ……これは、その……!」
言い訳を探す俺。
けれどミリアは視線を逸らし、外套を押さえながら小さく呟いた。
「……男の子なんだね」
耳まで真っ赤にして。
「~~~~っ!!」
俺の心臓は爆発寸前だった。
心臓が忙しい。こんな時に何を――いや、今は前だ。
暗闇の底で、蒼白い光粒が渦を巻く。封印扉の位置を中心に、星図みたいな模様が立ち上がる。
「封印が解ける……」
ズシン、と大地が鳴り、石段が震える。ペンダントは焼けるほど熱い。
怖い。でも――知りたい。
「行こう、ミリア」
一瞬の驚きのあと、彼女は力強く頷いた。
「合わせる」
二人で駆け下りる。冷気を裂き、汗を気にする暇もなく。
胸の拍と石の拍が、同じ譜面で重なる。
――この出会いは偶然じゃない。
――もう、戻らない。
運命の扉が開き、俺の物語が動き始めた。
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