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1話 銀髪の転入生と封印区



――轟く鬨の声。

「「「英雄王セイン! 英雄王セイン!」」」


剣も旗も、空まで震わせる熱狂。

最前に立つ俺は王冠を戴き、剣を掲げる。動きひとつで、数万の喉が静まった。

「守る王」「導く英雄」「未来を託す者」――視線がそう告げていた。


かつて“王殺し”の罪で追放された少年が、だ。

今は世界を背負い、英雄王として――


「聞け! この剣は奪うためではなく、守るためにある。血の歴史を断ち切り、誰もが笑う未来を掴む!」


歓声。涙。空が割れるほどの熱が、俺を包む。

――必ず、この世界を変える。


……そこで目が覚めた。冷たい天井、固い寝台。

遠すぎる未来。けれど、必ず辿り着く場所だと胸が告げていた。


ドンドンッ!

「セイン! 起きろ、寝坊魔!」


扉の激しいノックで現実へ引き戻され、ベッドから転げ落ちる。鏡の中、黒髪は見事に爆発。

「……くそ」


飛び込んできたのは悪友トーマ。栗毛を揺らし、肩をすくめる。

「今日は戦技の小テスト、レオニス教官だぞ」

「大丈夫。俺には秘技がある」

「秘技?」

「全力疾走」

「秘技じゃねぇ!」


笑いながら肩に拳骨をもらい、俺たちは朝の学園を全力で駆け抜けた。夢の余韻はまだ胸に残る。だが並んで走る相棒の体温が、不安を薄めてくれる。



ぎりぎりで戦技場へ。黒マントのレオニス教官が無言でこちらを見るだけで、背筋が伸びた。

「アルク、遅い」「すみません」「言い訳は要らん。――構えろ」


木剣を握る。雑念がすぅっと消える。

「始め!」


木剣が乾いた音を撒き散らす。二撃、三撃。教官は軽く受け流し、間合いのひずみに針のような突きを刺してくる。

「はっ、はっ……!」


「悪くない。――だが甘い」

ヒュ、と風が鳴り、木剣の先が肘をかすめるだけで、全身が凍った。

「軽さで誤魔化すな。地を掴め」


その瞬間、胸のペンダントがとくんと脈打つ。母にもらった古い銀の石。

心臓と同じ拍で、微かに熱い。――生きているみたいだ。


(気のせい、か?)

焦りを押し込み、最後まで食らいついた。結局一太刀も通らずに終了。それでも冒頭の「悪くない」で、悔しさの奥に火が灯る。



放課後の図書塔アルカンティア。

石の冷気と羊皮紙の匂いに包まれた静寂の中で、俺は出会った。


白外套、長い銀髪。

灯りに照らされた横顔は息を呑むほど整っていて、雪の粒を編んだように髪が光を散らす。

 


挿絵(By みてみん)



「それ、綺麗ね」


彼女の視線が俺の胸元――銀のペンダントに落ちた。

ふわりと近づき、気づけば胸がかすかに触れている。


(っ……!)


柔らかな感触が一瞬伝わり、心臓が跳ねる。

だがミリア本人は気づかず、きょとんと首を傾げていた。


「鼓動に合わせて光るなんて、不思議」


慌てて一歩下がった俺の顔は、熱くなるのを止められない。


「私はミリア。昨日、転入してきたの」

「セイン・アルク。戦技科一年」


名を返すと、彼女はぱっと笑みを咲かせた。

清楚なはずの笑顔なのに、なぜか艶めいて見えてしまう。


「ねえ、セイン。良かったら……封印区へ一緒に行かない?」


「封印区……?」と戸惑う俺に、ミリアはふと指先で俺の髪をつまむ。


「寝癖、一本だけ立ってる。……変なの」


指先がかすかに触れた瞬間、シャンプーのような甘い匂いが漂った。

さらに外套の襟が揺れ、白い胸元がちらり――


「――っ!」

(やば、見えた……!?)


ミリアは全く気づいていない。

ただ無邪気に笑いかけてくるだけ。


(……天然すぎるだろ)


石段を下りる途中、足を滑らせたミリアが勢いよく倒れ込んできた。


「きゃっ!」


支えようと腕を伸ばした俺もバランスを崩し、二人そろってごろんと転がる。

石床に背を打ち、気づけばミリアが俺の胸に覆いかぶさっていた。


「……っ」


至近距離。鼻先が触れそう。

乱れた外套の隙間から、うっすらと覗く白い肌。

そして、俺に跨り押し当てられた柔らかさに、俺の身体は――


(……やばい、反応してる!?)


ギンッ、と自分でも分かるくらい。

一瞬の沈黙。


次に気づいたのは、ミリア

「……んっ……!」

俺のエクスカリバーが解き放たれミリアを攻撃している。

ミリアの頬がみるみる赤く染まっていく。


「……あ、あの……」

「ち、ちがっ……これは、その……!」


言い訳を探す俺。

けれどミリアは視線を逸らし、外套を押さえながら小さく呟いた。


「……男の子なんだね」


耳まで真っ赤にして。


「~~~~っ!!」


俺の心臓は爆発寸前だった。


心臓が忙しい。こんな時に何を――いや、今は前だ。


暗闇の底で、蒼白い光粒が渦を巻く。封印扉の位置を中心に、星図みたいな模様が立ち上がる。


「封印が解ける……」

ズシン、と大地が鳴り、石段が震える。ペンダントは焼けるほど熱い。

怖い。でも――知りたい。


「行こう、ミリア」

一瞬の驚きのあと、彼女は力強く頷いた。

「合わせる」


二人で駆け下りる。冷気を裂き、汗を気にする暇もなく。

胸の拍と石の拍が、同じ譜面で重なる。


――この出会いは偶然じゃない。

――もう、戻らない。

運命の扉が開き、俺の物語が動き始めた。




 「面白かった!」


 「続きが気になる、読みたい!」


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― 新着の感想 ―
ペンダント至近距離で見る時どうやったら胸を押し付けるような体勢になるんですか? 大人と子どもぐらいの身長差なら背伸びしながらくっついて当たるかもしれませんが… 設定かなり無理がありますよ? それと1…
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