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2000年6月

平成十二年六月。

それは、私たちがまだ小学四年生だった頃の話だ。


「ねー、咲ちゃん! 一緒に帰ろー!」


「うん、いいよ!」


放課後の校門前で、美来ちゃんが手を振ってくる。

私と美来は、ほぼ毎日こうして一緒に帰っていた。


途中、彼女がふいに歩みを緩めた。


「ねぇ、咲ちゃん……水溜まりって知ってる?」


「……知ってるよ? 雨上がりに、地面のくぼみにできるやつでしょ?」


「それはそうなんだけど――“あの話”知らないの?」


美来が語りはじめたのは、よくある怪談のひとつだった。


新月の夜、丑三つ時。

とある場所の“特定の水溜まり”を覗き込むと、映った自分がじわじわと近づいてくる。

そして、ついには――入れ替わってしまう。


入れ替わった後も、誰も気づかない。

それは、あなたの家族も、友達も、先生も同じ。

……社会に溶け込んだ“偽物のあなた”が、何食わぬ顔で生きていく。


「……怖いね。」


私がそう言うと、美来はニヤッと笑った。


「咲ちゃん、怖がってる? ビビリ~! もっと怖い話、しよっか?」


「もーやめてよぉ……」


いつもの美来だ。からかい半分、楽しさ半分。

でも――私たち、いつから仲良くなったんだっけ。

最初に話した日のことが、どうしても思い出せない。


その日、私は家にまっすぐ帰った。

夕暮れのオレンジ色の中、背中にひたひたと足音がついてきた気がして、何度も振り返った。





それから数日後。

夜中に、祖父が亡くなったという知らせが入った。



祖父が亡くなったのは、梅雨の真ん中だった。

その夜、家族全員で葬儀会場へ向かうことになった。

外は静かに雨が降り続き、車の窓ガラスには水の筋がいくつも流れている。


私はぼんやり外を眺めていた。

街灯の下、道路脇の歩道が雨で光っている。

その一角――暗がりに、不自然に黒い水溜まりがあった。


波紋ひとつ立たない。

まるで鏡のように平らなその中から、こちらを覗き込む“顔”があった。


……美来ちゃんだった。


一瞬、空目かと思った。

だって彼女は家にいるはずだし、深夜2時(こんな時間)に外を歩く理由もない。

けれど、水溜まりの中の美来は、動かない私の視線に気づくと、ゆっくり笑った。


その笑顔は、あの放課後に話してくれた怪談と同じだった。

――「入れ替わったって、誰も気づかないんだよ」


心臓が、どくん、と大きく鳴った。

車が進んで水溜まりが視界から外れる瞬間、彼女の唇が、はっきり動いた。


「――もう、入れ替わってるよ」


声はしなかった。

ただ唇の動きからそう感じた。

頭の奥に冷たいものが落ちていく感覚がした。

次の瞬間、助手席に座っていた妹が不意にこちらを向き、首を傾げた。


「……お姉ちゃん、なんで泣いてるの?」


涙なんて、流してないはずだった。




次の日私は美来ちゃんの事が恐くなりそれ以降あまり関わらなくなった。


あの出来事から6年の時が経とうとしていた。


「咲誕生日おめでとう!」


「え!ありがとう!でも明日だよ?」


「明日お母さん仕事のよぉー」


「そっかわかったありがとう!」


「じゃあ学校行ってらっしゃい」


「うん」

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