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始まらなかったゲーム

親友曰く私は悪役令嬢だそうですが、安心致しました

作者: 桃井夏流

寡黙な婚約者に婚約解消を願い出た結果、様子がおかしいです、の過去話です。王太子×悪役令嬢です。短いです。



「よく聞いて下さいマルローネ様。マルローネ様は悪役令嬢です」


同じ歳の筈のシフォンは私より随分大人びた子だった。

でも時々こうして訳の分からない事を言い出すのだ。

私はそれがびっくり箱みたいでとても楽しい。


「まぁ!悪役、令嬢?悪役とは穏やかじゃないわね」

「はい、凄く穏やかじゃないです。今から大体八年後です。マルローネ様は王太子殿下に婚約破棄されます」

「……そうなの?私、殿下とは仲良く出来ていると思っていたわ」

「私も、そう思うのですが…問題はヒロインです。ヒロインが登場したら強制力とか働くかもしれなくて」


シフォンは何かを必死に思い出そうとしているのかウンウンと頭を抱えている。


「その、シフォン。あなたの言う事全てを信じる訳にはいかないわ。私、こう言う立場だし」

「分かります。逆に申し訳ないです。私の荒唐無稽な話をお聞かせしてしまい…」

「ううん、でも聞かせて。私が殿下に婚約破棄されると、どうなるの?」


シフォンは珍しく言いにくそうにしている。

教えて、と先を促すと、渋々口を開いた。


「マルローネ様は、カルティス様に連れられ、国を出ます。フィルロット王太子殿下は、ヒロインと、幸せになり、ます…」

「お兄様がシフォンを置いて私と国を出る…」


ごめんなさいシフォン、聞いておいてなんだけれど、物凄く、説得力が無いわ。


「シフォン!私が何故君を置いて妹と共に生きて行かなければならない!」

「盗み聞きですか」

「だって心配で!可愛いシフォンが思い詰めた顔をして歩いていたから!」

「カルティス様、ギブです。痛いです」

「あぁごめんねシフォン。つい強く抱き締めてしまった」

「はぁ、もう、良いです。ですからマルローネ様、気をつけて。貴女は私の知るマルローネ・モルデハイド様とは全然違うけれど…」


今も後ろからぎゅうぎゅうと兄に抱き締められているシフォンが苦しそうにしつつ、心配そうに私を見ているけれど、私はそれ程ダメージを受ける話では無かった。


だからうっかり、フィル殿下とのお茶会の最中に話題に出してしまったのだ。


「殿下、相変わらずシフォンったらびっくり箱ですの」

「おや、今度は何を言いだしたんだ?」


フィル殿下は優しい顔で私を見つめて下さる。

だから平気だわ。大丈夫、もしそうなったとしても。


「私悪役令嬢なんですって」

「…それは最近民の間で流行っている小説の事かい?」

「まぁフィル殿下はご存知でしたの?私悪役令嬢、と言うものが何なのか分からなくて」

「君が悪役令嬢である筈がない。マルローネは真面目に王太子妃教育にも励んでいると聞いている」

「それは、フィル殿下の婚約者であれば当然です。シフォンにもキチンとやり遂げる様に言われておりますし」

「君は本当にアーテル嬢が好きなんだな。少々妬けるぞ」


フィル殿下が私の髪に手を伸ばして、指でくるくるっとすると、その毛先にちゅっと口付けた。


「で、殿下!?」

「うん、そう言う顔が見たかった。私だけが見られる顔だ」


そう言う顔?私、今どんな顔をしているのかしら…。

フィル殿下が名残惜しそうに髪から手をはなすと、私は自分の髪をぎゅっと握った。


「マルローネ?」

「私、悪役令嬢でも良いんですの」

「…どうして?不名誉だろう?」


ふるふると首を横に振る。


「シフォンは私を陥れる為に言ったんじゃありませんわ。多分あの子、私達の知らない何かが、分かるんですのよ」

「何故そう思う?」


今よりもっと子供の頃を思い出す。


「シフォンと仲良くなって、私変わりました。それまで癇癪持ちと言われていた私に、シフォンは根気よく話しかけてくれて。同じ歳なのにまるでお姉さんみたいでしたわ」

「…うん、君は変わってくれたね。それは良かったと私も思う」


不仲だった私達が少しずつ仲良くなれたのも、シフォンが素直に。でもわがままとは違うのよ?優しくされたいなら、相手を思いやること。殿下も大変だって、労わって差し上げて。とアドバイスをくれたからだ。


「びっくり箱に悪気は無いんです。開けた人が勝手に驚いて、それにどういう反応をするかは人それぞれで」

「私はマルローネのそう言う考え方が好きだよ」

「ふふっ、ありがとうございます。それで今回のびっくり箱を開けて私が思ったのは…」


あぁ、やはり少し緊張致しますわね。


「私が悪役令嬢になると、殿下を幸せに出来る、と言う事なんです」


ティーカップをソーサーに置いて淑女らしく微笑むと、フィル殿下が戸惑った様なお顔をした。


「ごめん、ちょっとわからない」

「私が婚約破棄されると、殿下はひろいん?と言う方と幸せになれるそうなのです」

「…マルローネ、私が幸せになりたいのは君とだ」

「それはそうなったら一番嬉しいのは私も同じですわ。だからどう転がっても、殿下は幸せになれるって思ったら私ホッとしてしまって」

「マルローネ…君は…君は凄い女の子だな。そこまで私の幸せを願ってくれる人を私は他に知らないよ」

「あら。私フィル殿下に恋しておりますのよ。存じませんでした?」

「知っていた気になっていた。愛とは奥が深いんだな」


フィル殿下と私が笑いながら見つめ合っていると、侍従から声がかかった。

どうやらお兄様がお話があると尋ねて来ているらしい。


「殿下、失礼します」

「良いよ。どうしたの?」

「その……殿下は妹からヒロインの話は聞きましたか?」


殿下が苦笑する。


「つい先程ね。私が幸せになれる相手だとか。私はマルローネと幸せになりたいと伝えたばかりだよ」

「それが、その、シフォンが言う通りの場所を調べた所、実在しています。マリナと言う町娘なのですが、シフォンが言った通りの容姿をしていて、時折おかしな妄言を言うそうなのです」


お兄様は一息置くと、顔を上げた。


「自分はいずれ星属性の魔法に目覚めて、魔法学園に入学する。そして、その…」


言いにくそうに言葉に詰まる。


「良い、申せ」


「……王太子殿下に見初められるのだと、そう周囲の者に言っているそうで」

「馬鹿馬鹿しい」

「はい。愚かな妄言であれば、それで良いのですが…その町娘、こうも言うらしいのです」


『仲の悪い婚約者と結婚なんてさせない!ヒロインの私がフィルを幸せにするんだから!悪役令嬢はシスコン兄とご退場してもらうの!』


シフォンの言葉を思い出す。お兄様はシスターコンプレックスではないけれど、シフォン命だし。でも……。


『マルローネ様は、カルティス様と国を出て』


「偶然にしては一致し過ぎています。私も、シフォンを置いて国を出る気は一ミリもありませんが、念のため、その町娘、遠避けるのが良策かと」

「私とマルローネは仲良く過ごしているのに。大体王太子を愛称呼びとか許しても居ないのに不敬な。幸せにしてもらわずとも結構だ。私はマルローネと幸せになる」

「フィル殿下…」

「その町娘の事はお前に任せる」

「御意」


お兄様はやることがあるからと足早に帰って行った。早速そのヒロインとやらをどうにかする手筈を整えるのだろう。

お兄様がシフォンと離れさせられる可能性がある事を放置しておくと思えない。



「しかし、アーテル嬢は何者なんだろうな?」


シフォンが何者?

分からない。でも不安は無い。彼女は私を裏切る事は無いだろうと何故か思えるのだ。

だから、私にとって彼女はやっぱり…。


「愛すべきびっくり箱ですわ!」


私が笑って言うと、フィル殿下は珍しく虚をつかれた顔をされて、これまた珍しく、子供らしく笑った。


「また開けたら教えてくれ。君が何を思うのか知りたい」

「勿論ですわ!そういえば先日シフォンったら『好みの男性は寡黙な男性。冷たくされるとドキドキする』とか言って。お兄様全く当て嵌まらないのですが大丈夫でしょうか?」

「…今回の礼代りに教えてやれば良いのではないか?」

「そうですね。私もシフォンとはきちんと姉妹になりたいですし!」



「やはり、妬けるな」



八年後、彼等のそれが原因で婚約解消騒動が起きる事を、今はまだ誰も知らない。



読んでくださってありがとうございました。

楽しんでいただけたら幸いです。

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原因これだったか〜wwww
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