第3話:初めての夜は、どちらの部屋で?
──ふたりの先生と、朝まで甘くてキケンな同棲生活
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その夜、雨が降っていた。
静かに、しとしとと窓を叩く音。
いつもより少しだけ、部屋の空気が湿り気を帯びているように感じた。
大学の課題を終えた僕は、シャワーを浴びてリビングに戻ると、
そこにはバスローブ姿の美湖先生が、薄い眼鏡をかけてソファに腰かけていた。
「……シャワー、ありがとう。先にいただいたわ」
しっとり濡れた髪が、いつもより色気を増して見える。
肩から鎖骨へと伸びるラインが、思わず見惚れてしまうほどに美しかった。
「……何か、飲みますか?」
「ふふ、そうね。あったかいミルクが欲しいかな」
キッチンで温めたミルクをそっと手渡すと、美湖先生はそれを受け取って、ゆっくりと口をつけた。
「ねえ、遥輝くん……今日は、眠る前に……私の部屋に、来てくれる?」
その声は、まるで風が耳元で囁くように柔らかくて、だけど確かに僕の心を撃ち抜いた。
「……行きます。もちろん」
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美湖先生の部屋は、落ち着いた香りがしていた。
読書灯だけが淡く灯り、ベッドのシーツがふわりと香水のように甘い。
「……こんな風に、あなたと向き合うなんて、在学中は考えもしなかった」
「でも、今は……?」
「今は……怖いくらい、愛しい」
ベッドに座る美湖先生が、そっと手を差し伸べる。
その手を握った瞬間、彼女の身体が僕の胸にすっと寄り添ってきた。
「触れてもいい?」
「……優しくしてくれるなら」
その一言が、すべての許しだった。
僕は彼女の頬に手を添え、そっと唇を重ねた。
初めは触れるだけだったキスが、次第に深く、熱を帯びていく。
唇を舐め合い、呼吸を合わせ、指先がバスローブの紐をほどいた。
露わになった白い肌が、柔らかな灯りに照らされている。
「……きれい、すぎて」
「恥ずかしいわ。そんなに見られると」
「だって……ずっと、夢だったから」
僕の声に、美湖先生は静かに笑い、両腕を僕の背中にまわして引き寄せた。
「……じゃあ、今夜は、夢の続きを見せて」
ベッドの上でふたりの身体が重なり、静かな吐息が夜に溶けていった。
──こうして、僕たちはひとつになった。
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数日後の夜。
「ねえ、遥輝くん」
そう声をかけてきたのは、美咲先生だった。
お風呂あがりのパジャマ姿で、濡れた髪をタオルで包んでいる。
「今日、こっちで寝ない?」
「……いいんですか?」
「……ずるいよ。遥輝くん、先に美湖先生のとこ行っちゃうなんて」
「それは……」
「いいの。別に責めてるんじゃない。
でも……ね? 私だって、我慢してたんだよ?」
ベッドにちょこんと座る美咲先生は、普段の快活さとは違う、少しだけ不安げな目をしていた。
「遥輝くんに、優しくされたい……
甘やかされたい……
そして、ちゃんと“私だけ”を見てほしいって……思ってた」
その言葉に、僕は近づき、そっと手を握った。
「今夜は……美咲先生だけを見てます」
「うん……」
頷くと同時に、美咲先生は僕の首に両腕をまわし、ぎゅっと抱きしめてきた。
「──キスして?」
唇が触れ合い、すぐに舌が絡まり合う。
呼吸が早まり、肌の温度が重なっていく。
「ねえ……遥輝くん」
「はい……?」
「……脱がせて」
その声に、心の奥が震えた。
ゆっくりとパジャマのボタンを外していくと、そこには無防備な素肌が露わになる。
「見ないでって言いたいけど……見てほしいの。
ずっと、見て欲しかった」
頬を染めながら、恥ずかしげに笑う彼女が、とてつもなく愛しかった。
ベッドに押し倒され、やがてふたりは静かに、そして激しくひとつになった。
美咲先生の甘い声が、耳元で何度も名前を呼びながら、夜は深く溶けていく。
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ふたりと、それぞれの“初夜”を過ごして思ったこと。
どちらかなんて、やっぱり選べない。
美湖先生は、静かで深く、心を包み込んでくれるような愛し方をする人。
美咲先生は、明るくてやわらかくて、こちらの心を自然と溶かしてくれるような人。
このふたりを、同じくらい愛してる。
そしてふたりも、僕を──愛してくれている。
そんな確信が、静かに胸に灯っていた。