第2話:ひとつ屋根の下、ふたりの先生と
──ふたりの先生と、朝まで甘くてキケンな同棲生活
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春の光が、薄くカーテンを透かして差し込んでくる。
目を覚ますと、あたたかな香りと柔らかいぬくもりに包まれていた。
──ああ、そうか。
ここはもう、ひとりの部屋じゃない。
僕の左右には──
「ん……遥輝くん、起きた?」
微かに寝ぼけた声で、美咲先生が布団から顔をのぞかせた。
その肩には、薄いキャミソールの紐が無防備にかかっている。
「もう、動いちゃダメ……せっかくの、朝なのに」
今度は反対側から、低くささやくような声。
美湖先生が、背中から腕を回して僕の腰にしがみついてくる。
「先生……朝から、そんな……」
「朝だから、でしょ?」
美咲先生がにやりと笑い、そっと僕の胸元にキスを落とす。
「ん……やっぱり好き。朝の遥輝くん、いちばん甘くてやわらかい匂いがする」
「そうね……寝起きの声、すごく色っぽいの。昔から思ってた」
甘く重なってくるキスと手のぬくもり。
まだ眠気の残る頭が、少しずつ火照っていく。
こんな朝が、何度も繰り返されている。
まるで夢のような──でも、これは現実。
3人で暮らす家。
先生ふたりと、恋人として、同居人として、すべてを分かち合っている日常。
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リビングに移動すれば、そこはすでに美咲先生がキッチンで朝食の支度をしていた。
「遥輝くん、トーストと目玉焼きでいい? それともご飯炊こうか?」
「……美咲先生が作るものなら、なんでも」
「もう、またそうやって甘いこと言って……」
頬をふくらませながらも、美咲先生は嬉しそうだった。
その横顔が可愛すぎて、思わず背後から抱きつく。
「ちょ、ちょっと……朝からっ……」
「可愛いから。こうしたくなるんです」
「……バカ……」
火を止めた瞬間、振り返った美咲先生が、僕の唇を奪うようにキスした。
「……あんまりそういうことばかりしてると、出かけられなくなるよ?」
くすぐるような囁き。
下腹部が、じんわりと熱を帯びていく。
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美湖先生は、そんな2人の様子を黙って見ていたが、突然、コーヒーカップを片手に立ち上がった。
「ふたりだけで盛り上がって。ずるい」
「え?」
「私にも、ちゃんとキスしてから出かけてくれなきゃ……嫉妬しちゃうでしょ?」
そう言いながら、美湖先生は真っ直ぐに僕の前に立ち、首に腕を回してきた。
「……っ、美湖先生……」
「……ん……」
静かで深いキス。
美湖先生はキスが長い。
焦らすように、ゆっくりと。
唇を何度も離しては、また重ねてくる。
「ほら。これで、差は埋まったでしょ?」
「……はい。先生が一番、余裕ないくらい綺麗で困ります」
「……馬鹿。そんなこと、さらっと言うから好きになるのよ」
目を伏せながら、美湖先生はほんのりと頬を赤らめた。
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──そうして始まる、僕らの朝。
食卓に並ぶ朝ごはん。
ぎりぎりまでくっついていたくて、毎朝の支度はドタバタだ。
僕が大学に行く時間、美湖先生は学校に出勤。
美咲先生はその日はお休みだった。
「いってらっしゃい、遥輝くん。今日も頑張ってね」
「……美咲先生、ひとりにして大丈夫?」
「ふふ、さみしいけど……今日はちゃんと我慢する。帰ってきたら、いっぱい甘えてね?」
美咲先生のキスで見送られ、駅に向かう。
その背中に、美湖先生が追いかけてきた。
「ちょっとだけ、もう一回」
「え──」
腕を引かれて、植え込みの影に連れ込まれ、唇を奪われる。
「……今日、夜に時間つくって。ふたりでゆっくり話したいの」
「……うん。美湖先生と、ちゃんとふたりきりで」
「ありがとう」
耳元で囁く声が、背中に残って離れない。
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夜。
ふたりで向き合って、静かに過ごすリビング。
「……遥輝くん。こうして一緒に暮らすようになって、毎日が夢みたい」
「……俺も、です」
「でも、現実よ。だって、いまこうして隣にいるもの」
美湖先生はそう言って、僕の手を握り、膝の上にのってきた。
「──キス、していい?」
「……いつでも、どうぞ」
その夜、美湖先生のキスはとても深く、やわらかく、
いつまでも終わらないものだった。