第1話:卒業式の告白と、ふたりの返し
『ふたりの先生と、朝まで甘くてキケンな同棲生活』
副題:ラブもエッチも3人で♡先生たちと秘密の生活 より
──ふたりの先生と、朝まで甘くてキケンな同棲生活
⸻
卒業式の日。
空は晴れていたけれど、風は冷たく、春の訪れを少し先送りにしているようだった。
藤原遥輝は、少しだけ早足で母校の校門をくぐった。黒い制服に身を包み、胸には真新しい白い花──卒業生の証。
心臓が、少しずつ早くなる。
この日を待っていた。
この日が来るのを、ずっと──願っていた。
「……あの人に会うために、今日までがんばったんだ」
誰に言うでもなく、呟く声はかすかに震えていた。
その震えは、不安でもあり、期待でもあり、そして覚悟でもあった。
──職員室。
ドアの前に立ち、軽く深呼吸をしてから、静かにノックをした。
「失礼します」
すっと開いたドアの奥。
いた。
ひとりは、長い黒髪を後ろでまとめ、知的な眼差しの国語教師・高瀬美湖。
もうひとりは、明るい茶髪をゆるく巻き、快活で親しみやすい雰囲気を持つ英語教師・荻原美咲。
どちらも、遥輝が在学中──密かに、そして深く、惹かれていた人。
「……藤原くん? あら、卒業式もう終わったのよね」
「来てくれたの? 嬉しいな」
美咲先生が人懐こい笑顔を見せ、美湖先生が少し驚いたように眉を下げる。
その様子を見て、遥輝の胸の奥で、カチリと何かが外れた。
──もう、迷わない。
「先生たちに、伝えたいことがあります」
ふたりの視線が、静かに彼に注がれる。
「……好きです。ずっと、好きでした。ふたりとも、です」
一瞬、時が止まった。
美咲先生の目が丸くなる。
美湖先生は、何も言わず、ただじっと遥輝を見ていた。
「……ふたりとも、って。私たち、先生よ?」
美咲先生の声には、少しの照れと、戸惑いが混じっていた。
「でも……卒業したからって、そう簡単に……」
遥輝は一歩、前に出る。
背筋を伸ばし、まっすぐにふたりを見る。
「今日で生徒じゃなくなりました。もう、誰の許可も必要ありません。僕は──おふたりを本気で愛しています。どちらか一人を選ぶなんて、できません」
言い切った。
心が、静かに波打つ。
「いけない子ね……」
美湖先生が静かに立ち上がり、近づいてきた。
その目は、いつものような冷静さとは違う、どこか艶を帯びた光を宿していた。
「そういうところ、昔からずるいわよ、藤原くん」
「……でも、嫌いじゃないよ、そういうの」
美咲先生も笑って近づいてくる。
ふたりの距離が近づく。
まるで挟まれるように、彼女たちは遥輝の左右に並んだ。
「卒業祝いに、チューでもしてあげよっか?」
美咲先生がそう囁いた瞬間、遥輝の頬に、柔らかな唇が触れた。
温かくて、甘くて、そしてほんの少しだけ震えている。
「……先生」
遥輝が呟いたその声に、今度は美湖先生が顔を近づけ、口元にそっとキスを落とした。
静かな、けれど深いキスだった。
熱がこもり、触れるだけでは終わらない。
言葉では足りない想いを、唇の感触で伝え合うように。
「……本気なのね、あなた」
「だったら、その気持ち……試してみてもいいかもね」
ふたりの先生が、同時に囁いた。
⸻
それから数週間後。
遥輝は大学入学のために一人暮らしを始めた。
しかしその部屋には、今や──彼だけのものではない。
キッチンから聞こえるフライパンの音。
ソファでテレビを見ながら笑う女性の声。
そして夜、ベッドで甘く名前を呼ぶ吐息──
この日から始まったのは、恋ではなく、「暮らし」。
そして、秘密という名前の甘くてキケンな共同生活だった。