評議会の尖兵
カツン。
カツン。
硬い靴音が、静寂を切り裂く。
ユリオは顔を上げた。
広がる草原の向こう側から、十数人の黒衣の影がゆっくりと近づいてきていた。
鋭い視線、重厚な気配。
彼らは、世界秩序を維持する〈評議会〉の尖兵たち。
先頭に立つのは、長身の一人の女だった。
仮面は付けず、革鎧のみの出で立ち。
鍛え抜かれた体躯、顎あたりで切り揃えられた茶髪、冷たく透き通ったヘーゼルの瞳。
その存在だけで、周囲の空気を支配する強者の気配を放っていた。
「生の神の転生体、ユリオ」
女が低い声で告げる。
「評議会は貴様の存在を許容しない。
大人しくその身を明け渡せ。
さもなくば、ここで消す」
ルーヴィアがわずかに顔をしかめ、そっと身構える。
「ユリオ様、お下がりください」
だがユリオは、そっと彼女の腕に手を置いた。
「大丈夫。僕はもう――逃げない」
胸の奥で、黒い石が淡く脈打つ。
それはただの力ではない。
試練を超え、今ここに立つ証。
女が一歩前に進む。
彼女の周囲の空気が、凍りつくような緊張感を生み出す。
「私の名はモネッサ。
評議会直属の処理官。
貴様は特級危険存在に指定された。
力を行使する前に、消えることを推奨する」
ユリオはゆっくりと深呼吸した。
「……させないよ」
その瞳が、確かに輝きを放った。
弟の力、兄の覚悟。
今や彼は、ただの少年ではなかった。
「僕は生きる。
試練を超え、この世界と共に」
モネッサは何の表情も見せない。
「ならば、見せてもらおう。
神の力を継ぐ者が、どれほどのものか」
風が吹き抜ける。
乾いた草がざわめき、尖兵たちが一斉に構えた。
ルーヴィアが、そっと呟く。
「…ご加護を……」
ユリオの手の中、黒い石が淡く光を放った。
胸の奥から、かつての“彼”の記憶が蘇る。
生の神として在ったころの記憶、力、律動。
すべてが、いま彼の中に宿っている。
少年の姿をした神が、前を見据えた。
弟が託した世界の未来を、その手に抱きしめるために。
決戦の幕は、いま、開かれようとしていた。




