第96話 雪遊びと特別なケーキ
降り積もった雪が朝日に照らされ、牧場の周辺は銀世界に変わっていた。窓から外を見ていた悠真は、一面の白さに思わず息を飲んだ。
「本格的な冬になったな……」
悠真が温かいコーヒーを飲みながら呟くと、階段を降りてきたリオンが元気よく声をかけた。
「おはようございます、悠真さん!外、すごいことになってますね!」
リオンは緑色のセーターの上に、防寒用のジャケットを羽織っていた。その目は雪景色を見て、好奇心で輝いている。
「ああ、おはよう。今朝起きたら、すっかり雪景色になってたよ」
「雪、積もりましたね。でも牧場の中はいつも通り暖かいです。本当に不思議ですね」
リーフィアも朝食の準備をしながら、穏やかに微笑んだ。彼女の髪は今日も一つにまとめられ、白いエプロンドレスが朝の光に輝いていた。
「ほんと、牧場経営スキルのおかげだな。でなきゃ動物たちが大変だ」
悠真がそう言うと、テーブルの下から「ワン」という機械的な鳴き声が聞こえた。フロストが尻尾を振りながら顔を出している。
「おはよう、フロスト」
悠真が手を伸ばして撫でると、フロストは嬉しそうに頭を擦り寄せてきた。銀色の金属製の体は意外に冷たくはなく、どこか温かみを感じる気がする。
「フロストは雪、好きみたいですね」
リーフィアがスープの入った器をテーブルに置きながら言った。湯気が立ち上り、部屋の中に優しい香りが広がる。
「確かに、名前も雪にちなんでつけたしな」
悠真が言うと、フロストは「ワン!」と鳴いて、しきりに玄関の方を見ている。
「外に行きたいのか?」
悠真の問いかけに、フロストは再び「ワン!」と鳴いて尻尾を振った。
「僕も、フロストと雪遊びしたいです!」
リオンが興奮した様子で言う。
「そうだな。朝食と作業が終わったら、みんなで外に出てみようか」
悠真の提案に、リオンは喜びの声を上げた。
朝食を済ませた後、悠真たちは日課の牧場の作業に取り掛かった。牧場内の温度は、スキルのおかげで過ごしやすく保たれているが、動物たちも外の雪に興味津々の様子だった。
「みんな、元気そうだな」
作業を終え、悠真たちが牧場の中央に集まると、フロストが先頭に立って雪の上を駆け回り始めた。
「フロスト、楽しそうだね!」
リオンが笑いながら言うと、空から小さな青い光が降りてきた。
「みんなー!おはよー!」
ノアリスが元気よく飛んできた。彼女の透明な羽は雪の結晶を反射し、虹色に輝いている。
「ノアリス、おはよう。今日も元気だな」
「もちろん!私、寒さには強いもの!」
悠真達が話していると、フロストが突然立ち止まり、耳をピンと立てた。その青い目が明るく輝き、何かに反応しているように見える。
「フロスト、どうした?」
悠真が近づくと、フロストは「ワン!」と鳴いて、雪の上に何かの模様を描き始めた。その動きは不思議と優雅で、まるで踊りのようだった。
「見て、なにか描いてる!」
リオンが指さす方向を見ると、フロストの足跡が雪の上にうさぎ、鳥、魚、そして最後には自分そっくりの犬の形を描き出していた。
「わぁ、雪上アートだ!」
リオンが笑顔で言うと、フロストは嬉しそうに「ワン」と鳴いた。
そうして、リオンも動物達と雪だるまを作って遊んだりしていると、遠くから「みんなーー!」という声が聞こえてきた。振り返ると、ミリアムが息を切らして走ってくるのが見えた。
「ミリアム、どうしたんだ?」
「はぁ……はぁ……。あのね、村で毎年この時期には特別なケーキを準備をしてるんだけど、今朝ケーキを作る担当の人が急に熱を出しちゃって……みんなに手伝ってもらえないかなって」
「ケーキか……俺はあまり得意じゃないが」
悠真が困った顔をしていると、リーフィアが静かに前に出た。
「それなら私がお手伝いします」
「本当!?ありがとう!リーフィアさん!」
ミリアムは飛び上がるほど喜んだ。
「僕も手伝います!」
リオンも元気よく手を挙げる。
「俺もちょっとした手伝いくらいならできるかな。それじゃ、村に行って催しの準備を手伝おうか」
悠真の提案に、みんなは頷いた。フロストもついてくることになり、一行は雪道を歩いて村へと向かった。
――――――
「こっちよ、料理場はこっち!」
村に着くとミリアムに案内され、悠真たちは大きな調理場に入った。そこでは村の女性たちが忙しそうに料理の準備をしていた。
「おや、ミリアム。連れてきてくれたんだね」
年配の女性が笑顔で迎えてくれた。
「はい!白石牧場のみんなです。特にリーフィアさんはお菓子作りが得意だそうです」
「まあ、助かるわ。ケーキの生地はもう焼けているから、あとは組み立てと飾り付けなの」
女性は作業台の上に並んだスポンジケーキを指さした。
「分かりました。お手伝いします」
リーフィアは早速エプロンを借りて、作業に取り掛かった。リオンとミリアムも手伝い、悠真は材料運びを担当することになった。
作業は順調に進み、やがて美しいショートケーキが完成した。純白の生クリームの上を、赤いイチゴと青いベリーなどの果物が彩っている。
「できたー!」
リオンが嬉しそうに声を上げる。村の人々も次々と見に来て、その美しさに感嘆の声を上げていた。
「皆さんの協力のおかげで、例年より素敵な仕上がりになったわ。ありがとうね」
年配の女性が笑顔で言った。
――――――
その夜、村の広場で小さな催しが行われた。松明の温かな光が雪景色を照らし、人々は冬の訪れを祝っている。そして中心には、悠真たちが作ったケーキが飾られていた。
「とっても美味しい!」
ミリアムが幸せそうな表情でケーキを頬張る。
「うん、リーフィアさんのハーブの使い方が絶妙だよ!」
リオンも満足そうに頷いた。
「みんな、見て!」
ノアリスが空を指さした。そこには美しいオーロラが広がっていた。緑や青、紫の光が夜空を染め、幻想的な景色を作り出している。
「冬至の夜のオーロラ……冬の精霊からの贈り物ですね」
リーフィアが静かにそう言った。
みんなも空を見上げていた。オーロラの光は彼らの顔を優しく照らし、催しの場に神秘的な雰囲気を与えていた。
「こんな素敵な光景、初めてかも……」
ミリアムが感激した様子で言った。
「うん、オーロラすっごく綺麗です!」
リオンもそう言って頷いた。
オーロラの下、催しは夜遅くまで続き、牧場の仲間たちと村の人々の心を一つにした。空では星々と、オーロラの光が彼らを祝福するように輝いていた。




