第94話 夢物語と牧場のお祭り(後編)
お祭り当日、朝から牧場には多くの人が集まっていた。入り口では、リーフィアとリオンが出迎えている。二人は月影村の伝統的な衣装に、リーフィアのアイデアでメイドとバトラーの要素を取り入れた特別な服装をしていた。
「白石牧場へようこそ」
入り口では、リーフィアとリオンの二人が少し緊張しながらも、丁寧に来場者を案内していた。途中やって来たガラの悪そうな者たちが結界に弾かれ、逆切れしたところをハクエンのひと睨みで追い返すような場面もあり、ちょっとした騒ぎになったりもしていた。
牧場内は、悠真のスキルで温度が快適に保たれ、いくつかのエリアに分けられていた。「神秘の泉」では、セリーナが時々顔を出し、来場者を驚かせている。「もふもふ広場」では、サクラやステラ、ルミたちが、子供たちに囲まれてのんびりしていた。
「わぁ、この羊、ピンク色だよ!」
「あのウサギの耳、長すぎない?」
子供たちの歓声が聞こえる。
テラは大忙しで、土を使って様々な形を作り出しては、子供たちを驚かせていた。フレアは尾から小さな火の玉を浮かべ、それを使って花火のようなショーを見せている。
牧場の東側に設けられた「薬草の庭」では、ミリアムが鮮やかな緑色のエプロンドレスに身を包み、来場者を迎えていた。彼女の周りには大小様々な植物が美しく配置され、薬草の香りが心地よく漂っている。
「こちらの青い花は、疲れた目に効く目薬の材料になるんです」
ミリアムはエメラルドグリーンの瞳を輝かせながら、グリーンヘイブンから持ってきた珍しい薬草について説明していた。周りには子供たちが集まり、彼女の話に聞き入っている。
「これ、苦そう……」
ある少年が顔をしかめると、ミリアムはくすくすと笑った。
「大丈夫よ。私が作った薬草茶は、ハチミツを加えてあるから飲みやすいわ。ほら、試してみて」
ミリアムが差し出した小さなカップから、芳しい香りが立ち上る。恐る恐る一口飲んだ少年の顔が、驚きと喜びで輝いた。
「甘くておいしい!」
「でしょう?薬草って、ちゃんと調合すれば美味しくなるのよ」
ミリアムは嬉しそうに説明を続けた。彼女の隣では、グリーンヘイブンの年配の女性たちが薬草クッキーを焼いており、その甘い香りが来場者を引き寄せていた。
悠真は全体を見回りながら、来場者の反応を確認していた。
「白石さん!これは素晴らしいお祭りですね!」
振り返ると、そこにはドミニクが立っていた。
「ドミニクさん、来てくれたんですね」
「ええ、こんなに面白い催しを見逃すわけにはいきません。それに、いくつか商品も出展させていただいていますよ」
彼の案内で見てみると、アスターリーズ商会の出店も立ち、牧場の産物を使った加工品や、そのほかの珍しいアイテムが販売されていた。
「いやぁ、これは儲かりますよ。特にあの白い虎の毛皮……じゃなかった、お守りが人気です!」
ドミニクがハクエンの寝床の方を指さす。ハクエンは木陰で横になっていたが、その周りには安全な距離から写生する子供たちの姿があった。
「ハクエンも意外と子供好きなんだな」
悠真が微笑むと、ハクエンは聞こえたのか、少し不服そうに尻尾を揺らした。
昼過ぎには、エイドとミルフィも研究員仲間を連れてやってきた。
「白石さん!素晴らしいですね!これはこれで貴重な研究の機会です!」
エイドは興奮気味に言った。彼の周りには、初めて牧場を訪れる研究者たちが集まっていた。
「わっちは最初から言っとったじゃろ?この牧場は特別なんじゃ!」
ミルフィが得意げに言う。その姿に、周りの研究者たちもクスクスと笑った。
「お役に立てれば何よりです」
悠真が答えると、エイドは熱心にノートを取り始めた。
夕方になると、牧場の雰囲気が変わり始めた。ユエの担当する「夜の牧場ツアー」の準備が始まったのだ。
「あの……もうすぐ、わたしの時間です……」
ユエが悠真の隣に現れ、静かに言った。彼女は普段よりも少し晴れやかな表情をしているように見えた。ただ、流石に吸血鬼の特徴は化粧などで誤魔化していた。
「ああ、期待してるよ、ユエ」
悠真がそう言うと、ユエは嬉しそうに微笑んだ。
太陽が沈み、闇が広がり始めると、牧場は幻想的な光に包まれた。アクアの結晶が月の光を受けて輝き、レインが放つ光が空中で踊る。ユエは来場者を小さなグループに分け、夜の牧場を案内していった。
「夜になると……見えてくる世界があります……」
彼女の静かな声が、闇の中で不思議な響きを持つ。ストーンが擬態を解いて動き出す姿や、シャドウとミストが影の中から覗く様子、ステラとルミの月の光を浴びると体に浮かび上がる模様など。
さらに、夜空には星座のように青い光の粒子を浮かべるノアリスの姿があった。彼女は空中で舞いながら、歌声と共に青い光の軌跡を描いていく。
「あれ、妖精さん!?」
それを見た子供たちから歓声が上がった。
「わたし、ノアリス!みんな~、こっちおいで~!」
彼女の導きに従って進むと、牧場の奥の広場に辿り着く。そこには、大きな円形のスペースが設けられ、周囲には小さな光が灯されていた。
時間になると、妙なる音楽が流れ始めた。それはどこか遠くから聞こえてくるような、森や風や水の音が混ざった不思議な調べだった。
アウラとサフィアが中央に現れ、花びらを舞わせながら踊り始める。その姿に、見物人から感嘆のため息が漏れた。
「さぁ、皆さんも一緒に踊りましょう!」
リオンが元気よく声をかけ、来場者たちも輪に加わっていく。悠真も少し照れくさそうにしながらも、リーフィアに手を引かれて踊りの輪に入った。
夜が深まるにつれ、踊りは続き、空気は祝祭のムードで満たされていった。
――――――
お祭りの最終日、悠真は疲れながらも満足感で満たされていた。三日間のお祭りは大成功だった。多くの人が訪れ、牧場の不思議な住人たちと交流を深めることができた。
「最高のお祭りでしたね」
リーフィアが、片付けをしながら言った。
「ああ、みんなのおかげだよ」
「んー、疲れたけど楽しかったー!」
リオンが元気よく言う。ユエも小さく頷いた。
「わ、わたしも……楽しかったです……」
「また、やろうね!」
ノアリスが空中でくるくると回りながら言った。
玄関の扉が開き、ドミニクが入ってきた。
「白石さん、今回のお祭りは大成功でしたよ!次回も是非お願いしますよ!」
「えっ、次回……ですか?」
悠真は少し驚いた表情で聞き返す。
「ええ、皆さん楽しみにしていますよ。季節ごとに開催なんていかがでしょう?」
「い、いや、流石にそれはちょっと……」
悠真が躊躇していると、リーフィアが微笑んだ。
「季節ごとはともかく、牧場のことを知って貰ういい機会でもありますし、何かの機会に開くのは良いかもしれませんね」
「そうだなぁ……」
悠真が考え込んでいると、ミリアムが薬草の籠を抱えて入ってきた。彼女の顔には疲れと満足感が混ざっていた。
「みんな、お疲れ様~!グリーンヘイブンの人たちも大喜びだったよ」
「それは良かった。ミリアムもお疲れ様」
そうして祭りの感想などを話していると、窓の外から何かの音が聞こえた。外を見ると、牧場の住人たちが集まっていた。
「何かあったのか?」
悠真たちが外に出ると、動物たちがまるで何かを用意していたかのように並んでいた。テラが土で作った台の上には、アウラとサフィアが育てた花々が美しく飾られている。
「これは……?」
悠真が彼らの意図を考えていると、ハクエンがゆっくりと近寄ってきた。彼の隣には、ヒエンが飛び、小さな火の輪を作り出していた。
『お前たちの労をねぎらっているのだろう』
「そうか。みんなも……色々とありがとうな」
悠真は、この光景を見て胸が熱くなるのを感じた。異世界に来て、普通じゃない動物たちと出会い、こんな素晴らしい場所を作ることができた。それは、悠真が地球にいたときには想像もできなかった景色であり、今では彼の大切な日常になっていた。




