第87話 収穫祭の夜、火花と光のコラボレーション
秋風が牧場の周りを舞い、木々の葉が色づき始めた頃、グリーンヘイブンから収穫祭の招待状が届いた。
「今年も、もうそんな時期ですか」
リーフィアが手紙を眺めながら、柔らかな表情を浮かべる。
「そうだな。去年は結構な人だかりができてたよな」
悠真は窓の外を見やりながら答えた。牧場の動物たちが朝の光を受けてのんびりと過ごす姿が見える。
「収穫祭、今年も楽しみですね!」
リオンが目を輝かせながら言う。彼の緑がかった髪も朝の光に照らされ、若葉のように生き生きとしていた。
「そうだな。今年はどの子たちを連れていこうか」
悠真が腕を組んで考え込む。昨年は人目につかない程度の動物たちを連れていったが、今年はどうしようか。
「去年居なかった子達は連れて行ってあげましょう」
リーフィアの言葉に、悠真もうなずいた。
「そうだな。まぁ、ハクエンは誘っても断りそうだけど」
「確かに。人間のお祭りには興味なさそうですからね」
悠真の言葉にリーフィアも苦笑いでそう答えた。
その後、念のため聞いてみたが、当然のようにハクエンには断られた。
――――――
準備の日々が過ぎ、収穫祭当日の朝を迎えた。悠真たちは夜明け前から起き出し、持っていくものの最終確認をしていた。
「お土産用の卵はこれでいいですか?」
リオンが丁寧に包んだ箱を見せる。その中には、普通の鶏卵とは違う、淡い青色や薄紫色の卵が並んでいた。
「ああ、完璧だ。みんなきっと喜ぶよ」
悠真が優しく笑いかけると、リオンも嬉しそうに微笑み返した。
――――――
太陽が高く昇り始めた頃、一行はグリーンヘイブンへの道を進んでいた。
「ほら、もうすぐ村が見えてくるよ」
悠真が指さす先に、色とりどりの旗や装飾が見え始めた。グリーンヘイブンの収穫祭は、村全体が活気に満ちる一大イベントだ。
「わぁ、去年よりも賑やかになってますね!」
リオンが目を輝かせながら言う。確かに、道行く人々も増え、遠くから笛や太鼓の音が聞こえてきた。
「ミリアムさんは、どこにいるんでしょうか?」
リーフィアが周囲を見回すと、まるでその言葉を聞いていたかのように、亜麻色の髪をした少女が走ってきた。
「悠真さん!リーフィアさん!リオンくん!来てくれたんですね!」
元気いっぱいの声で叫びながら、ミリアムが手を振ってくる。彼女は今日のための特別な民族衣装を着ていた。
「ミリアム、元気そうだな」
悠真が微笑みかけると、ミリアムはさらに明るい笑顔を見せた。
「もちろんです!今日はお祭りですから。あっ、レインは今年も来てくれたんですね」
ミリアムがレインに気づき、空を見上げた。レインは「キュー」と嬉しそうに鳴き、ミリアムの頭上で優雅に一回転した。
「さあ、みんなで祭りを楽しみましょう!特別な席も用意してあるんですよ」
ミリアムに導かれ、一行は収穫祭の中心へと向かった。道中、村人たちは悠真たちに笑顔で挨拶し、村の子どもたちは連れてきた新しい仲間に驚きと喜びの声を上げていた。
――――――
収穫祭の会場は、想像以上の賑わいだった。広場の中央には大きな収穫の山が積まれ、周囲にはさまざまな出店や展示が並んでいた。
「わぁ、すごい人ですね」
リオンが驚きの声を上げる。確かに、去年よりも人出が多いようだった。
「近隣の村からも人が来てるみたいだな」
悠真が周りを見回すと、見知らぬ顔も多く見かけた。
「みんな、収穫祭で盛り上がってますね」
ミリアムは彼らを案内しながら、あちこちの出店や展示を紹介していく。薬草茶の試飲コーナー、手作り小物の販売、子供たちのための遊びのコーナーなど、村全体が祭りの熱気に包まれていた。
「そういえば、去年レインが見せてくれた光のショー、今年もやって貰えますか?あれ、大好評でしたから」
「もちろん、レインが良ければだけど」
悠真が見上げると、レインは「キュー」と鳴き、喜んでいる様子だった。
――――――
日が落ち始め、祭りはいよいよクライマックスに近づいていた。広場の中央に設けられた舞台では、村人たちによる伝統的な踊りが披露され、その後は感謝の儀式が行われた。
「そろそろレインの番だね」
悠真がレインに目配せすると、ソライルカは理解したように「キュー」と鳴いた。
「みなさん、お待たせしました!」
ミリアムが舞台の上から声を張り上げる。
「今年も、白石牧場のレインが特別な光のショーを披露してくれます!」
観客から歓声が上がる中、レインが舞台上空へと舞い上がった。レインの体が徐々に光を帯び始め、やがて青白い輝きを放ち始めた。
「キュー!」
レインが鳴くと同時に、その体から無数の光の粒子が放たれた。それらは夜空に広がり、まるで星々が踊るように美しい光の模様を描き出す。
観客たちからは感嘆の声が上がり、子供たちは目を輝かせていた。すると、そこに思わぬ闖入者が現れた。
「フィー!」
鋭い鳴き声と共に、ヒエンが突然舞台上空へと急上昇した。その小さな赤い体が、レインの青白い光の中で一際目立っている。
「あ、ヒエン!?」
リオンが驚きの声を上げたが、悠真は静かに見守っていた。
「大丈夫だ。たぶん、あの子も何か見せたいんだろう」
悠真の言葉通り、ヒエンは高く舞い上がると、急に羽ばたきを速め、体から赤い火花を放ち始めた。それはまるで小さな花火のように、夜空に美しい赤い光の花を咲かせた。
「綺麗……」
リーフィアが息を呑む。ヒエンの放つ赤い火花は、レインの青白い光と絡み合い、幻想的な光景を創り出していた。
「フィー!フィー!」
ヒエンの鳴き声が高まり、さらに多くの火花が放たれる。それらは様々な色に変化し始め、赤から黄色、オレンジへと移り変わっていく。
「キュー!」
レインもそれに応えるように、青白い光を増し、二つの光が夜空で調和し始めた。まるで二人の踊り手が息を合わせるように、レインの光とヒエンの火花が交わりを見せる。
「すごい……」
ミリアムが呟いた。観客たちも言葉を失い、ただ空を見上げていた。
レインの光が渦を巻き、その中心にヒエンの火花が集中する。二つの光が融合したかと思うと、突然爆発的に広がり、夜空全体を埋め尽くすほどの光と色彩の嵐となった。
その瞬間、まるで花火大会のフィナーレのように、無数の光と火花が同時に降り注ぎ、祭りの広場全体が幻想的な光に包まれた。
――――――
ショーが終わり、レインとヒエンが悠真のもとに戻ってくると、村人たちから熱狂的な拍手と歓声が上がった。子供たちは興奮した様子で、「また見せて!」と叫んでいる。
「ありがとうな、二人とも。凄く綺麗だったぞ」
悠真がレインとヒエンを優しく撫でると、二匹はそれぞれ「キュー」「フィー」と嬉しそうに鳴いた。
「悠真さん、あれは本当に素晴らしかったです!」
ミリアムが駆け寄ってきて、興奮した様子で先ほどの感想を述べた。
「ありがとう。でも、それはこの子達のおかげだよ」
悠真がレインとヒエンを指さすと、二匹は誇らしげにそれぞれの鳴き声を上げた。
「本当に素敵な時間でしたね」
「僕もそう思いました」
リーフィアが静かに微笑みながら言った。リオンもそれに頷き、緑がかった髪が夜風にそよいだ。
帰り道、満月の光に照らされながら、悠真は心地よい疲労感に包まれていた。牧場の動物たちと過ごす日々は時に不思議で、時に大変だけれど、今夜のような瞬間が、すべての苦労を吹き飛ばしてくれる。
「レインとヒエンの光の祭典、忘れられない夜になったな」
悠真が静かに呟くと、星空の下で小さな「キュー」と「フィー」の鳴き声が、夜風に乗って響いた。




